第2場面 クラリスの質問
庭園を歩きながら、クラリスは隣を歩くレティシアを見つめていた。
白いドレス。
穏やかな微笑み。
以前とは違う、柔らかな雰囲気。
誰が見ても、今のレティシアは幸せそうだった。
けれど。
クラリスの中には、ほんの小さな引っかかりが残っていた。
「……レティシア様」
「はい?」
レティシアが振り向く。
クラリスは少し迷った。
聞いていいのか。
余計なことではないのか。
それでも。
どうしても、確認したかった。
「レティシア様、本当に幸せですか?」
「……え?」
レティシアが足を止める。
少しだけ目を見開いた。
どうして、そんなことを聞くのだろう。
今の自分に、不幸なところなんてない。
アルベルトは優しい。
家族も優しい。
友人もいる。
誰からも嫌われていない。
以前とは比べものにならないほど、穏やかな毎日を過ごしている。
だから――。
「もちろんですわ」
レティシアは笑った。
迷いのない笑顔だった。
「とても幸せですもの」
「……そうですか」
クラリスは、それ以上何も言わなかった。
「どうしてそんなことを?」
レティシアが首を傾げる。
「いえ……」
クラリスは少しだけ笑った。
「なんとなく、聞いてみたくなっただけです」
「そう……」
レティシアも笑う。
それ以上、二人はその話をしなかった。
けれど。
クラリスは、以前のレティシアを思い出していた。
あの頃の彼女は、はっきりと自分の意見を口にしていた。
「私は、こう思いますわ」
そう言って。
誰かの意見に問題があれば、
「それは違います」
と、真正面から指摘した。
嫌なことがあれば、
「私は嫌ですわ」
と、はっきり断った。
そのせいで、周囲と衝突することもあった。
怖いと言われることもあった。
冷たいと言われることもあった。
けれど。
――自分の意思を持っていた。
今のレティシアは違う。
何かを尋ねれば、誰も傷つかない答えを返す。
意見を求められても、皆の意見を尊重する。
何かを頼まれても、嫌な顔一つせず引き受ける。
優しい。
穏やか。
誰からも好かれる。
それは、とても良いことのはずだった。
なのに。
クラリスは、なぜか気になってしまう。
「……以前とは、少し違いますね」
小さな声が漏れた。
「何かおっしゃいました?」
レティシアが振り向く。
「いいえ」
クラリスは首を振った。
「何でもありません」
そして、また笑った。
レティシアも笑う。
二人は再び庭園を歩き始めた。
クラリスは、それ以上何も言わなかった。
ただ。
胸の奥に、小さな疑問だけが残っていた。
――本当に、これでいいのだろうか。




