第11話 初めての違和感 第1場面 いつもの二人
王宮の庭園。
柔らかな午後の日差しの下で、二人の令嬢が並んで歩いていた。
一人は、白百合の令嬢と呼ばれるレティシア。
もう一人は、クラリス。
少し前までなら、二人の間にはどこかぎこちなさがあった。
婚約者をめぐって争っていたわけではない。
けれど、レティシアがクラリスを責め、クラリスもまたレティシアに怯えていた。
今では、それも昔のことだった。
「最近の王都では、レティシア様の評判が本当にすごいんですよ」
クラリスが嬉しそうに言った。
「そうなのですか?」
「ええ。『白百合の令嬢』なんて呼ばれてます」
「まあ……」
レティシアは少し照れたように笑う。
「以前とは、ずいぶん変わりましたわね」
「本当に」
クラリスも笑った。
「皆さん、レティシア様のことを優しくて、穏やかで、素敵な方だって」
「……そう言っていただけるのは、嬉しいですわ」
レティシアは庭園の花を眺めながら答える。
以前なら。
「そんなことありませんわ」
と、否定していたかもしれない。
けれど今は、素直に受け取ることができた。
「アルベルト殿下とも、うまくいっているのでしょう?」
「ええ」
その問いには、少しだけ頬を緩める。
「殿下は、とてもお優しい方ですもの」
「侯爵家の皆様も?」
「もちろんですわ。お父様もお母様も、以前と変わらず接してくださいます」
「それなら、本当に良かったです」
クラリスが心から嬉しそうに微笑んだ。
レティシアも、その笑顔を見て微笑む。
王都での評判もいい。
家族との関係もいい。
アルベルトとの関係も穏やか。
クラリスとも、こうして普通に話せるようになった。
以前のように、人と衝突することもない。
誰かに睨まれることもない。
陰で「怖い令嬢」と囁かれることもない。
何も問題はなかった。
むしろ――。
以前より、ずっと幸せだった。
「レティシア様」
「はい?」
クラリスが少しだけ迷うように言った。
「……幸せ、ですよね?」
レティシアは目を瞬いた。
けれど、すぐに柔らかな笑顔を浮かべる。
「ええ」
迷いのない声だった。
「とても幸せですわ」
それは嘘ではなかった。
レティシア自身、本当にそう思っていた。
クラリスはその答えを聞いて、ほっとしたように微笑む。
「……そうですか」
二人はまた歩き始めた。
穏やかな午後。
美しい庭園。
優しい友人。
そして、誰からも嫌われない自分。
レティシアにとっては、それで十分なはずだった。
――このときまでは。




