第12場面第12場面 次回への引き 次回への引き
――夜。
レティシアは、一人で窓辺に立っていた。
窓の外には、王都の夜景が広がっている。
街には明かりが灯り。
通りには、まだ人の姿が見える。
美しい街。
自分が生まれ育った場所。
そして。
今の自分を愛してくれる人たちがいる場所。
「…………」
レティシアは、静かにその景色を見つめていた。
幸せ。
そう言っていいはずだった。
誰からも嫌われない。
アルベルトは優しい。
クラリスも、自分を心配してくれている。
家族も安心している。
何も失っていない。
むしろ。
以前より。
ずっと多くのものを手に入れたはずだった。
なのに。
「…………」
今日の政策案が頭に浮かぶ。
地方への負担。
王都の財政。
二つの案。
自分が指摘した問題。
そして。
最後に。
何も言わず、アルベルトの決定を受け入れた自分。
「…………私は」
小さく呟く。
あの政策に。
賛成だったのだろうか。
少し考える。
違う気がする。
では。
「……反対だったのかしら」
それも。
違う。
どちらなのか。
分からない。
いや。
正確には。
どちらが正しいかなら。
今でも考えられる。
けれど。
自分が。
どちらを選びたかったのか。
それだけが。
分からない。
「…………」
レティシアは、そっと胸に手を当てた。
あの日から。
ずっと続いている。
小さな違和感。
胸の奥に何かが足りない。
けれど。
その正体を。
ずっと言葉にできなかった。
嫌われなくなった。
優しいと言われるようになった。
誰も自分を怖がらない。
誰も自分を責めない。
それなのに。
どうして。
こんなにも。
自分のことが分からないのだろう。
「…………」
レティシアは目を閉じる。
母の声が蘇る。
――レティシアは、これからどうしたいの?
答えられなかった。
今日も。
答えられなかった。
そして。
今。
ようやく。
一つだけ。
気づき始める。
「私……」
声が震えた。
「…………」
窓に映る自分を見る。
穏やかな笑顔。
美しい顔。
白百合の令嬢。
誰からも愛される。
完璧な自分。
けれど。
その「自分」の中に。
自分自身の意思が。
見つからない。
「私……」
もう一度。
今度は、はっきりと。
「何も、決められなくなっているの?」
その言葉が。
静かな部屋に落ちた。
レティシアは。
しばらく動かなかった。
――そして。
第10話は。
そこで終わった。




