第10場面 対比としてグランフェル
――同じ頃。
王都から遠く離れた、グランフェル。
鉄狼鉱山。
坑道の入口では、作業員たちが慌ただしく動いていた。
「レティシア様!」
「どうしたの?」
「南側の支柱が一部、傷んでいます」
レティシアは現場を見た。
木製の支柱。
その一部に、亀裂が入っている。
「このままでは危険ですね」
「はい」
作業員の一人が、二枚の図面を広げた。
「対応策は二つあります」
「一つは、今すぐ傷んだ部分を交換する方法です」
「もう一つは?」
「少し時間はかかりますが、支柱全体を補強する方法です」
周囲の作業員たちが顔を見合わせる。
「どちらにします?」
レティシアは。
図面を見た。
現場を見る。
そして。
「こっちよ」
迷いなく、片方を指差した。
「ですが、こちらのほうが早く終わります」
作業員が反対する。
「それは短期的な話でしょう?」
レティシアは即座に返した。
「今だけ直しても、別の場所に負担がかかるわ」
「…………」
「この先まで考えれば、こっちのほうが被害が少ないわ」
作業員が図面を見直す。
「……なるほど」
別の者も頷いた。
「確かに、この補強なら別の支柱にも負担を分散できます」
「ええ」
レティシアは腕を組んだ。
「時間はかかるけれど、今やっておいたほうがいいでしょう」
「分かりました!」
作業員たちが動き始める。
その様子を見ながら。
一人の作業員が、ぽつりと言った。
「レティシア様に任せれば大丈夫だな」
「…………」
レティシアは振り返った。
そして。
当然のように。
「当然でしょう」
そう答えた。
作業員たちから笑いが起こる。
「ははっ、頼もしいな!」
「じゃあ、さっそく取りかかるぞ!」
「おう!」
現場が動き出す。
レティシアも、自ら図面を持って作業員のところへ向かった。
迷いはない。
自分が何を考えているのか。
何を選ぶのか。
どうしたいのか。
ちゃんと分かっている。
――誰かに嫌われるかどうかなど。
今は、考えていなかった。
ただ。
「こっちのほうがいい」
そう思ったから。
そう決めた。
それだけだった。
――同じ頃。
王都のレティシアは。
鏡の前で。
「……分からない」
と呟いていた。
同じ顔。
同じ記憶。
同じ名前。
それなのに。
一人は。
自分で決めている。
もう一人は。
自分が何を望んでいるのかすら、分からなくなっている。
二人の間にある距離は。
王都とグランフェルの距離よりも。
ずっと遠かった。




