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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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第6場面 皆様が望むなら第6場面 皆様が望むなら

その日の午後。


レティシアは、政策案について何人かの官僚から意見を聞いていた。


「私は、こちらの案がよいと思います」


財務官の一人が、資料を指差す。


「王都の財政を安定させるには、こちらのほうが確実です」


「なるほど」


レティシアは頷いた。


「ですが」


別の官僚が口を挟む。


「私は反対ですな」


「こちらの案では地方の負担が大きすぎます」


「しかし、財政を立て直すには必要な負担でしょう」


「その負担が地方経済を圧迫すれば、長期的には王都にも影響します」


「だからこそ、短期的に――」


二人の意見がぶつかる。


レティシアは、静かに二人の話を聞いていた。


どちらの言い分も分かる。


どちらにも、それなりの根拠がある。


一方の問題点も。


もう一方の問題点も。


レティシアには見えていた。


「レティシア様は、どうお考えですか?」


「…………」


また。


同じ質問だった。


レティシアは少しだけ考える。


そして。


「皆様がそうお考えなら、それでよろしいのではないでしょうか」


「え?」


官僚が目を瞬く。


「私は、どちらのお考えも理解できますわ」


レティシアは微笑んだ。


「ですから、皆様が最もよいと思われる方を選ばれるのが一番かと」


「なるほど……」


財務官が感心したように頷く。


「確かに、レティシア様のおっしゃる通りですな」


「相手の意見を否定せずに、きちんと話を聞いてくださる」


「本当に聞き上手なお方だ」


「白百合の令嬢と呼ばれるのも分かります」


「まあ……」


レティシアは少し照れたように笑った。


「そんな、大したことではありませんわ」


周囲も笑う。


誰も困っていない。


誰も不快になっていない。


むしろ。


皆、満足そうだった。


自分の意見を聞いてもらえた。


否定されなかった。


受け入れてもらえた。


それだけで。


会話は穏やかに終わっていく。


「では、また後ほど」


「はい」


官僚たちが去っていく。


静かになった部屋で。


レティシアは、一人になった。


「…………」


机の上には。


二つの政策案が残っている。


どちらを選ぶべきか。


その判断を。


誰もレティシアには求めなかった。


いや。


求めたのかもしれない。


けれど。


彼女自身が、答えを出さなかった。


だから。


皆は、それぞれの意見を持ったまま帰っていった。


「…………」


レティシアは二つの資料を見つめる。


(……皆様が納得しているなら)


それでいい。


誰も傷ついていない。


誰も怒っていない。


自分も。


何も間違ったことはしていない。


そう思う。


なのに。


何かが。


ほんの少しだけ、おかしい。


それが何なのか。


まだ、レティシアには分からなかった。


ただ。


この場にいる人間の中で。


一人だけ。


決めることをしなかった人間がいる。


――レティシア自身だった。


けれど。


そのことを。


まだ誰も、問題だとは思っていなかった。


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