第2場面 アルベルトは喜ぶ
「そうか」
アルベルトは、安心したように微笑んだ。
「君は本当に優しいね」
「…………」
レティシアは、微笑みを返した。
「ありがとうございます」
アルベルトは嬉しそうだった。
以前のレティシアなら。
こういう政策案を見せれば、すぐに問題点を指摘した。
「殿下、それは危険ですわ」
「その判断には問題があります」
「王都だけを見て決めるべきではありません」
時には。
アルベルト自身の判断に対しても、遠慮なく意見を述べていた。
そのたびに、アルベルトは苦笑していたものだ。
「レティシアは厳しいな」
そんなふうに言われたことも、一度や二度ではない。
けれど。
今は違う。
反対しない。
否定しない。
アルベルトの考えを受け入れてくれる。
「君と話していると、安心するよ」
「……安心、ですか?」
「うん」
アルベルトは頷いた。
「以前の君も頼りになったけれど……今の君と話していると、なんというか」
少し考えて。
「僕のことを、そのまま受け入れてくれている気がするんだ」
「…………」
レティシアは黙っていた。
アルベルトは、嬉しそうに続ける。
「何を言っても否定されないというのは、こんなにも安心するものなんだね」
「そう……ですわね」
レティシアは笑った。
その笑顔を見て、アルベルトも笑う。
「やっぱり、君は優しいよ」
「…………ありがとうございます」
また同じ言葉を返す。
それ以外に、何を言えばいいのか分からなかった。
――優しい。
そう言われるのは、嬉しい。
嫌われていない。
否定されていない。
アルベルトも喜んでいる。
きっと。
これは、良いことなのだ。
なのに。
(……優しい)
胸の奥で、その言葉を繰り返す。
(私は、本当に優しいのかしら)
答えは出てこない。
以前の自分なら。
「それは違います」と言えた。
「私はこう思います」と言えた。
嫌なことには、嫌だと言えた。
間違っていると思えば、間違っていると言えた。
今は。
言わない。
言わなくなった。
それだけなのに。
(……どうして)
胸の奥が、少しだけ寒い。
「レティシア?」
「はい?」
「どうかしたのかい?」
「いいえ」
レティシアは、すぐに笑った。
「何でもありませんわ」
「そう?」
「はい」
アルベルトは、それ以上聞かなかった。
そして。
「それならよかった」
そう言って、穏やかに笑った。
レティシアも笑う。
完璧な笑顔で。
誰から見ても。
幸せそうに。
――ただ。
その笑顔の奥には。
本人にも、まだ名前をつけられない。
小さな空白があった。




