↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
119/176

第10話 決断できない/第1場面 政策会議

王城の執務室。


大きな窓から、王都の街並みが見える。


机の上には、いくつもの書類が積まれていた。


その中央に置かれているのは、王国財務局から提出された政策案だった。


「レティシア」


アルベルトが一枚の書類を手に取る。


「この政策について、君はどう思う?」


レティシアは、差し出された資料を受け取った。


「拝見しますわ」


紙面に目を落とす。


内容は、地方に対する税負担を一時的に引き上げ、その分を王都の財政再建に回すというものだった。


王都の財政だけを見れば、理にかなっている。


歳入は増える。


赤字も抑えられる。


短期的には、かなり効果のある政策だろう。


――けれど。


レティシアの目が、細くなる。


(……地方の税収が落ちる)


地方には余裕がない。


税負担を増やせば、農村では必要な支出を削らなければならなくなる。


そうなれば。


来年の収穫に影響する。


さらに、地方経済が冷え込めば、結局は王都の税収にも跳ね返ってくる。


数字を追えば、すぐに分かる。


この政策は。


「…………」


以前のレティシアなら。


ここで迷わなかった。


資料を机に置いて。


はっきりと言っただろう。


――反対です。


王都の財政だけを見れば正しい。


けれど、地方に負担を押しつければ、別の問題を生む。


目先の数字だけで判断してはいけない。


そう。


いつもなら。


「…………」


レティシアは、資料から顔を上げた。


アルベルトがこちらを見ている。


「どうかな?」


ほんの一瞬。


レティシアの口が動きかけた。


「それは――」


そこまで言って。


止まった。


胸の奥で、何かが引っかかる。


(反対だと言ったら……)


以前なら、そんなことは考えなかった。


正しいと思えば言う。


必要なら、王子相手でも意見を述べる。


それが自分の役目だと思っていた。


けれど。


今は。


(……皆さんは、どう思っているのかしら)


財務官たちは賛成している。


他の重臣たちも、この案を支持しているらしい。


アルベルトも、悪い案だとは思っていない。


なら。


自分だけが反対する必要はないのではないか。


わざわざ空気を悪くする必要もない。


誰かと意見をぶつける必要もない。


そう考えているうちに。


先ほどまで頭の中にあった言葉が。


少しずつ消えていった。


そして。


レティシアは微笑んだ。


「……皆様がよろしいと思う方で、よいのではないでしょうか」


アルベルトが、少しだけ目を見開く。


「君は、そう思うのかい?」


「はい」


レティシアは、穏やかに頷いた。


「私は、皆様のお考えを尊重するのが一番かと」


笑顔。


完璧な笑顔だった。


誰にも不快な思いをさせない。


誰とも対立しない。


誰の意見も否定しない。


アルベルトは、ほっとしたように笑った。


「そうか」


そして。


「君は本当に優しいね」


「…………」


レティシアの笑顔が、ほんの少しだけ固まった。


「……ありがとうございます」


そう答える。


けれど。


胸の奥には。


何もなかった。


正しいとも。


間違っているとも。


言わなかった。


ただ。


誰かが望むほうへ、自分を合わせただけ。


レティシアは資料を見下ろす。


そこには。


自分ならすぐに指摘できたはずの問題点が、いくつも並んでいた。


――分かっている。


何が問題なのか。


どうすれば改善できるのか。


全部、分かっている。


それなのに。


自分の判断だけが。


そこから抜け落ちていた。


(……私は)


レティシアは、誰にも気づかれないように資料を握り直す。


(何を考えているのかしら)


その問いに。


自分自身で答えることができなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。