第8場面 クラリスが気づく
――ある日のこと。
クラリスは、レティシアと二人で庭園を歩いていた。
「レティシア様」
「はい?」
「……少し、気になっていることがあるのですが」
クラリスが、ためらうように口を開く。
「なんでしょう?」
「最近のレティシア様って……」
そこで一度、言葉を止める。
「何をお願いしても、断りませんよね?」
「……そうかしら?」
レティシアは不思議そうに首を傾げた。
「はい」
クラリスは頷く。
「以前なら、嫌なことは嫌だとおっしゃっていたような……」
「…………」
レティシアは少し考えた。
昔の自分。
誰かに無理を頼まれれば。
「それは難しいのではありませんか?」
「それは、あなたがするべきことでは?」
「申し訳ありませんけれど、お断りしますわ」
そんなふうに答えていた。
「……そうだったかしら」
レティシアは、ぽつりと呟いた。
「はい」
クラリスの声は優しかった。
「だから……少し心配なんです」
「心配?」
「無理をしていませんか?」
「…………」
レティシアは一瞬、目を瞬かせる。
けれど。
「大丈夫ですわ」
答えは、すぐに出た。
「本当に?」
「はい」
そして、レティシアは微笑む。
「私は幸せですもの」
「…………」
クラリスは黙った。
レティシアは、いつものように穏やかな笑顔を浮かべている。
何も問題などない。
そう言っている顔だった。
けれど。
クラリスには。
なぜか、その言葉だけが引っかかった。
――私は幸せですもの。
まるで。
自分に言い聞かせているように聞こえた。
「……そう、ですか」
クラリスはそれ以上、何も言えなかった。
レティシアは笑っている。
本当に嬉しそうに。
だからこそ。
クラリスは、余計に不安になった。
(……どうしてかしら)
以前のレティシアなら。
嫌なことには、嫌だと言った。
腹が立てば、怒った。




