第3場面 アルベルトとの時間
――アルベルトとの関係も、以前とは変わっていた。
王城の庭園。
穏やかな午後の日差しの中、二人は並んで歩いていた。
以前なら、レティシアはアルベルトの言葉に、何度も意見を返していた。
「殿下、それは少し問題があるのでは?」
「その方針では、別のところに負担がかかりますわ」
そんな言葉を、何度口にしたことだろう。
けれど今は――。
「それでね。今日、こんなことがあったんだ」
アルベルトが楽しそうに話す。
「まあ、そうなのですね」
レティシアも微笑みながら頷く。
「うん。それで――」
会話は穏やかに続いていく。
言い争うこともない。
険悪になることもない。
以前よりずっと、二人の時間は静かだった。
しばらくして。
アルベルトが、ふとレティシアを見る。
「最近の君は、本当に楽しそうだね」
「……そう見えますか?」
レティシアは少し驚いたように目を瞬かせた。
「ああ」
アルベルトは優しく笑う。
「以前より、ずっと柔らかい顔をしている」
「そうですか……」
レティシアは頬を緩める。
「それなら、よかったですわ」
その言葉に、アルベルトは小さく笑った。
そして。
「僕は、やっぱり君といると安心する」
「……!」
レティシアの胸が、ふわりと温かくなった。
安心する。
その言葉が、何より嬉しかった。
(……私は、ここにいていいんだ)
ずっと欲しかった言葉だった。
自分はここにいていい。
この人の隣にいていい。
そう思えるだけで、胸の奥が満たされていく。
「私も……殿下とご一緒できて、嬉しいですわ」
レティシアは微笑んだ。
――そして。
最近、王都では一つの噂が広がり始めていた。
『婚約が、もう一度結ばれるのではないか』
そんな話だった。
正式な決定はまだない。
けれど、周囲は期待している。
「白百合の令嬢と第一王子」
以前とは違う意味で。
今度こそ、理想的な組み合わせだと。
「レティシア様は本当に素敵な方よね」
「殿下と並ぶと、とてもお似合いだわ」
「以前のことがなければ、今頃は正式に――」
そんな声が、王都のあちこちで聞かれるようになっていた。
レティシアは、その噂を耳にするたび。
少しだけ恥ずかしくなって。
それ以上に。
嬉しくなった。
(……もしかしたら)
(また、殿下の隣にいられるのかもしれない)
そう思うと。
胸の奥が、温かくなる。
誰からも嫌われない。
クラリスとも仲良くできる。
アルベルトも、自分といると安心すると言ってくれた。
そして――。
失った婚約さえ、もう一度取り戻せるかもしれない。
レティシアは思った。
(私は、幸せなんだわ)
今度こそ。
誰にも嫌われない自分になれたのだから。
そう信じて。
彼女は、嬉しそうに笑った。




