第2場面 クラリスとの関係
――クラリスとの関係も、以前とは大きく変わっていた。
かつては、顔を合わせればどこか張り詰めた空気があった。
クラリスはレティシアの機嫌を窺い、レティシアもまた、クラリスの言葉の一つ一つに警戒していた。
けれど今は違う。
「レティシア様」
王城の廊下で、クラリスが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「まあ、クラリス様。どうなさいましたの?」
「実は、お願いがあるのですけれど……」
クラリスは少しだけ遠慮がちに、一枚の書類を差し出した。
「もしよろしければ、この書類を確認していただけないでしょうか?」
レティシアは書類に目を落とす。
ざっと見ただけでも分かった。
これは、クラリス自身が処理すべき仕事だ。
以前のレティシアなら、きっとこう言っていた。
『それはあなたの仕事でしょう?』
あるいは。
『ご自分でなさったほうがよろしいのではなくて?』
間違ったことを、間違っていると言う。
それが以前のレティシアだった。
けれど――。
「もちろんですわ」
レティシアは、にっこりと微笑んだ。
「え?」
「これくらいでしたら、私がお手伝いいたしますわ」
「本当ですか!?」
クラリスの顔がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
「いいえ。これくらいなら、大丈夫ですもの」
レティシアは笑って、書類を受け取った。
「助かります……! レティシア様って、本当にお優しいですね」
「そんな……大したことではありませんわ」
クラリスは何度もお礼を言いながら、その場を去っていく。
その背中を、レティシアは微笑んで見送った。
「……ふふ」
なんだか、嬉しかった。
以前は、クラリスとこんなふうに話せる日が来るなんて思ってもいなかった。
今では、クラリスも自分を信頼してくれている。
それが嬉しい。
――けれど。
クラリスの姿が見えなくなったところで、レティシアは小さく息を吐いた。
「……」
手元の書類を見る。
ほんの少しだけ。
胸の奥に、引っかかるような感覚があった。
(……少し、疲れたかしら)
ほんの些細な疲労だった。
これくらいなら、誰にでもある。
それに。
レティシアは、先ほどのクラリスの笑顔を思い出した。
(でも、クラリス様は喜んでくださった)
そう思うと、不思議と気にならなくなった。
(それなら、いいわ)
レティシアはもう一度、微笑んだ。
――自分が少し我慢することで。
誰かが笑ってくれる。
それは、とても素敵なことなのだから。
少なくとも今のレティシアは。
そう信じていた。




