Scene 7 気に入った
ハロルドは、しばらくレティシアを見ていた。
やがて。
その口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……気に入った」
「……はい?」
レティシアが固まる。
今、何と言った?
「お前、面白いな」
「なぜ!?」
思わず、素の声が出た。
ニーナが隣で小さく目を伏せる。
(お嬢様、そこは聞き返さなくても……)
けれどハロルドは気にした様子もない。
むしろ少し楽しそうだった。
「正しいことを言う人間は多い」
「ええ」
「だが」
ハロルドの目が鋭くなる。
「嫌われると分かっていて、それを言える人間は少ない」
レティシアは黙った。
「さらに」
ハロルドは続ける。
「言うだけではなく、自分で動く」
「…………」
返す言葉がなかった。
ハロルドは机の上に置かれた書類へ目を向ける。
「水路を直したそうだな」
「……え?」
「壊れた水路を見つけて、自分で原因を調べ、住民を使って修理した」
「使ってって……」
「住民から相談も受けた」
「……それは、困っていたから」
「魔獣まで飼い始めた」
「それは話が違うでしょう!?」
レティシアが思わず声を上げる。
「ノワールはちゃんと大人しくしているわ」
「そういう問題ではないと思いますが……」
ニーナが小さく呟いた。
ハロルドは笑った。
「すでに報告は受けている」
「…………」
レティシアは黙り込む。
どうやら、自分がここへ来てからのことは、ほとんど把握されているらしい。
「辺境ではな」
ハロルドが言った。
「正しいことを言うだけでは足りん」
そして、レティシアを見る。
「問題を見つけたら動く」
「…………」
「困っている者がいれば手を貸す」
「…………」
「自分でできることなら、自分でやる」
ハロルドは、はっきりと言った。
「それが一番重要だ」
レティシアは何も言えなかった。
王都では。
それが『口が悪い』と言われた。
『出しゃばり』と言われた。
『わがまま』と言われた。
けれど、ここでは違う。
同じ自分なのに。
同じ言葉で。
同じように動いているだけなのに。
「……変な場所ね」
レティシアが小さく呟く。
ハロルドは笑った。
「そうかもしれんな」
そして、もう一度だけ言った。
「だからこそ、お前はここに向いている」
レティシアは、少しだけ目を見開いた。
胸の奥が――ほんの少しだけ、温かくなった。




