海底への誘い
見合い相手たちとの日程調整の末、最も早く二回目に会う機会を持ったのはダシャだった。
ダシャは惑星ラリッソス出身、水中でも呼吸ができる強化人間だ。
ラリッソス人の資産は血縁者で共有されるものという特殊な文化圏だが、彼女が資産を共有する法的親族は十名で、合計資産額は三兆地球ドルにも昇る。
ダシャの祖先は惑星ラリッソスの開拓者だ。惑星表面全てが海に覆われたラリッソスで海中都市を建設し、開発した技術や商品を他の惑星に売って莫大な財を成した。人間が生存可能な惑星にはほとんど必ず海が存在したため、ダシャの祖先一族の商品の買い手は星の数ほどいたのだ。
「また会えて嬉しいよ、ヴァイオレット。今日も輝くばかりに美しいわね」
とろけるような声で言って、ダシャはヴァイオレットを抱きしめた。彼女は首から下をすべてぴったりと覆う服を着ていて、触れ合うと彼女の体のラインがはっきりとわかってしまうほどだった。
ラリッソス人は人との距離が非常に近く、スキンシップも多い。惑星の外に出るまで他人と手を握ったこともほとんどなかったエンナ人のヴァイオレットにとって、最も緊張させられる見合い相手だった。ヴァイオレットは軽くダシャを抱きしめ返して、すぐに離れた。
「こちらこそ会えて嬉しいわ、ダシャ。今日はどこへ連れて行ってくださるの?」
「海洋博物館に行こうよ」
ダシャはヴァイオレットの手を握ってきた。
自分の常識は相手の非常識、常識は星の数だけ人の数だけ、とコーディネーターから口酸っぱく言われたヴァイオレットは、手を振りほどきたいのを我慢した。
宇宙裁判所近くにある海洋博物館は、何百光年も遠く離れた地球の海から運んできた海水と生物を展示していた。ダシャは水槽を泳ぐ生き物たちを解説してくれた。その説明はユエとは比べ物にならないほど聞き手の興味を引く技術に長けていて、手を握られていることも忘れて聞き入ってしまった。
「ヴァイオレット、あなたはこういう景色好き? もし結婚してくれるなら、ラリッソスで毎日こういう景色が見られるんだよ。私の家は海の中にあるの。遥か昔、地球人がまだ宇宙へ出る前に夢見たような、海の中のお城。素敵でしょう?」
「え、ええ、とっても素敵ね。あー、そうだわ、私のように海の中で息ができない人はどうするのかしら?」
「手術をすればいいらしいよ」
「手術……。それって、具体的に何をどうするのかしら?」
「さあ、うちの医者ができるって言ってたけど、詳しいことは聞いてないなあ。きっと大丈夫よ、必ずうまくいくって」
そう言い切ったダシャの海色の瞳は澄み切っていた。
「わ、わかったわ、考えておきます」
「ぜひそうして。きっとラリッソスを気に入るよ。大いなる海もきっと、紫真珠のように美しいあなたを気に入るわ」
ダシャとは食事をしてから別れた。ホテルに戻ると、ダシャから大量のプレゼントが届いていた。
「どうして住所を聞かれたのか不思議だったけれど、このためだったのね」
積み重なっている箱の一番上のものを開けると、淡い色の紫真珠のネックレスが輝いていた。真珠はひと粒ひと粒が瑞々しい輝きを宿しており、ヴァイオレットの髪色と色がそっくりだった。
いくつか中身を確認してから、ヴァイオレットはその全てに再び蓋をした。それからソファーに座って贈り物のタワーを眺め、これらの購入価格を考える。ダシャは少なくとも結婚前には相手にお金を湯水のように使ってくれる人のようだ。
「それにしても、異星の人たちって消えない物を相手に贈るのね。……あら、ほかの方も同じだったらどうすればいいのかしら?」
ヴァイオレットは首を傾げた。
花と共に生きるエンナ人が意中の相手に送るのは花だ。結婚を申し込むときにも自らで育てた最上級の花を贈るのが習わしだ。気軽なプレゼントも消え物が喜ばれるので、手元に残る品を贈ることもまれだ。
ヴァイオレットはホテルの部屋を見回した。
コーディネーターが手配した部屋は広く、ベッドルームとダイニングルームとリビングルームが別になっており、ひとまずダシャからのプレゼントを置いておくことはできそうだった。
「全員がプレゼントをくれる訳ではない、わよね……?」
その後、ヴァイオレットの嫌な予感は的中した。残る四人ともヴァイオレットに贈り物をしてきた。あのユエでさえも祖国の伝統のものだと言って地球産シルクのドレスを贈ってきた。おかげで部屋のクローゼットはぱんぱんになってしまった。
ヴァイオレットは贈り物には困らせられたが、彼らが愛する人に惜しみなくお金を使ってくれることが分かって満足した。あとは結婚後もそれ以上にお金を使ってくれるのかを見極めるだけだった。




