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君に捧ぐ花の星  作者: 水底 眠
第3部
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支離滅裂で、論理性を欠き、まじりけのないもの

 

「ローラントは俺の双子の弟だ。生きているとは思わなかった、隕石が降り注いだ星で生き延びられるはずがないと思っていた。ソドムの隕石誘導の最終承認を下したのはローラントだ、奴があの惑星を滅ぼした張本人だ。終末期の腐り切った帝国には、たかが十四の子どもにそんな権限を与えた愚かな父親がいたんだ。俺はローラントを殺さなかった。殺すべきだった。殺しておけばせめて隕石だけでも阻止できたかもしれなかった。あの時、引き金を引けたのに、引かなかった」


 のしかかっていたアレクシスの体重が消えた。光を失った瞳がそこにはあった。一瞬、ヴァイオレットはキスされるかと思ったが、アレクシスはヴァイオレットの背後の壁に額をぶつけた。


「奴を殺して、俺も死ぬべきだった。そうすれば、もしかしたらエリュシオンは……」


 ヴァイオレットは最後まで言わせなかった。アレクシスの頭を抱えるように抱きしめ、壁にぶつけたところを撫でた。


「いいえ、死ぬべきではありませんでしたわ。アレクシス様は、生きていて正しいのです。アレクシス様がいたからこそエンナは救われました」


 アレクシスは無理やりヴァイオレットを壁に押し付けて体を離した。アレクシスの表情の険しさに、ヴァイオレットは息を止めた。ローラントにぶつけたのと同等か、それ以上の怒りが彼の全身から迸っていた。


「あの話を聞いて出した君の結論がそれか?」


 地を這うような低い声で問われた。薄暗い地下空間の不気味さのせいで、それは異様に響いて聞こえた。


 ヴァイオレットは、覚悟を決めて頷いた。誤魔化しようがないほど手が震えたが、声は出すことができた。


「ええ、嘘偽りのない本心ですわ。たとえアレクシス様がご自分を人間だと思えなくとも、人を殺めたことがあったとしても、死の商人だったとしても、生きていることが間違いである人はいませんわ」

「綺麗事など聞きたくない、その口を閉じろ」

「閉じません、綺麗事ではないのですから」


 必死で言い返すと、アレクシスがわずかに狼狽えた。


「あの夜から自分なりに考えたり、エリュシオンの歴史を調べたりいたしました。怖かったけれど、アレクシス様のことを少しでも理解したかったのです。でも、途方に暮れることしかできませんでした。世界の捉え方も、自由の限界も、弱さや強さの意味も、何もかもが違っていて、同じ人生を生きられない限り本当のことなどわからないと思いました。だから、私が自分の目で見たものを信じることに決めたのです。私にとってアレクシス様は、常に私の身を守り、遠い場所まで迎えに来て、星を贈ってくださって、いつも私に優しく触れる方です。その行動の全てがアレクシス様の心であって、本当のあなたですわ」


 今度こそアレクシスはヴァイオレットに口づけた。ヴァイオレットの肩に爪が食い込み、うめいた声も飲まれた。口の中に鉄の味が広がり、口づけられたのか噛まれたのかも判断がつかなくなった。


 ヴァイオレットを見下ろす灰色の瞳の奥には底の見えない何かがあり、普通、人が愛と呼称するものではなかった。


「俺はキスもセックスも、暴力の一種だと学んで育った。人を辱めて屈服させるための一手段だと。ソドムを出てからそれは誤りだと教えられたが、今でもその考えは俺の根底に染み付いている。行為であろうと嘘を吐くのは容易いことだ。心の伴わない行為は存在しないという君の考えはただの幻想だ。だから俺は……」


 ヴァイオレットは震える手でアレクシスの頬を撫でて、口づけた。キスを教えた人に、教えられた通りにしてみせた。


「たとえ行いの裏にどんな思いがあろうと、あなたが下さったのは優しさだけでしたわ」


 アレクシスは言葉を詰まらせた。表情は強張り、視線が揺れる。誰も信じることなく、誰にも信じられない彼は、自分でさえ自分を信じられない。だから、自分の内にあるものを言葉や行動で表して嘘にしてしまうのを恐れているのだと、ヴァイオレットには手に取るように分かった。


 ヴァイオレットがふっと笑うと、アレクシスは再び険しい表情になった。


「今度は何だ、何がおかしい?」

「いいえ、ただ、アレクシス様は本当に嘘つきで悪い御方なのだなと思っただけですわ。最初からそうだと教えてくださったなら、迷わずアレクシス様と結婚していましたわ。悪い人なら、騙しても心が痛みませんもの」

「どうだか、君は相手が悪人だろうが人を騙せば心を痛める人間だろう」


 忌々し気に言ったが、すっかり気を削がれたアレクシスは自嘲気味に微笑んだ。


「ああ、だが、君の言う通りだな。俺も君も、初めから何も偽る必要などなかったのかもしれない」


 ヴァイオレットはアレクシスを抱きしめた。もう何度目になるかもわからなかったが、自分の腕の中の小ささを痛感させられた。この広い銀河と比べれば猫の額ほどの大きさしかないことが辛く悲しく、だが、だからこそこの人が腕の中にいる限りは疑いようもないほど愛おしみたいと切に思った。


「私も愛していますわ、アレクシス様」


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