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君に捧ぐ花の星  作者: 水底 眠
第3部
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惑星のオークション

 

 会場は緊迫感に包まれていた。アートオークションなどと違い、オークショニアによる商品を魅力的に見せるための前口上もなかった。


 オークションは、始まれば一時間と経たずに決着がついてしまうほど進行が速い。しかも外ではテロと思しき事態が進行中で、会場中の誰もが一刻も早い決着を望んでいた。


「皆様ご準備よろしいでしょうか」


 オークショニアが参加者たちへと視線を送った。アレクシス、イニョンともに頷き返す。二人の手元にはビッド札代わりのボタンがあり、イニョンは一、アレクシスは二と附番されていた。


「これより惑星エンナの競売を開始いたします。最低落札価格は三十兆地球ドル。それでは始めます」


 三十兆地球ドルでイニョンがボタンを押す。三十兆五千億ドルとオークショニアが言ったところで、アレクシスが三十一兆地球ドルと発言してボタンを押す。元より険しかったイニョンの表情がさらに曇り、外部と連絡を取り続けている二人の妻も険しい顔になる。だが、イニョンがボタンを押した。


「三十五兆」


 吹っ切れた顔をしたイニョンは、一方の妻のイヤリングを奪って自分の耳に付けた。イヤリングを取られた妻はさっと顔を赤くしたが、無言で視線を下げた。


 すさまじい金額に釣り上がっていく様におののいて声が出せないオークショニアに先んじて、アレクシスがボタンを押す。


「四十兆」

「……四十二兆」

「五十兆」


 ヴァイオレットの耳元で支援者たちの口笛や歓声が聞こえた。彼らのほとんどはアレクシスの桁外れで常識外れの行いを面白がっている連中で、この状況でさらに合計五千億地球ドルの支援金が入金された。


 ヴァイオレット個人に対して熱意を持っている連中もすさまじい数がおり、真剣な表情をしているヴァイオレットに対しても延々と投げ銭が送り込まれていた。


 アレクシスの癇に障る発言をした者は自動的に支援者室から弾き出されるので、ヴァイオレットに対して結婚を求める支援者は永久追放されており、現在も残っているのは分を弁えている者だけだった。


「五十兆、五十兆が出ました」


 オークショニアが震える声でイニョンに伝えた。


「言われなくても聞こえてるわよ! 五十五兆!」


 イニョンが妻の持っていた扇子をオークショニアに投げつけた。あまりの剣幕にオークショニアは半泣きになったが、台から降りることはなかった。


「五十五兆が出ました、では……」

「六十兆」


 アレクシスが冷静に言い放ち、再び追撃した。


 アレクシスとヴァイオレットたちが集めた資金は百五十兆五千億地球ドルにも上る。


 イニョンがさらに金額を釣り上げてきても応戦可能だったが、ヴァイオレットはもう終わって欲しいと切に祈っていた。そうしないと心臓が持たないと思った。


 躍起になったイニョンが口を開こうとしたが、それをイヤホンをしている方の妻が慌てて止めた。そしてイニョンの耳元で何かささやいた。イニョンの顔が真っ赤になり、やがて血の気が引くと、静かに席を立った。


「このオークション、降りるわ」


 オークショニアが木槌を叩いた。


「六十兆、六十兆地球ドルにて落札です」


 ヴァイオレットの耳元で支援者たちの歓声が上がった。ヴァイオレットはしばらく呆然としていたが、アレクシスに抱き寄せられて今起こっていることが現実だと認識することができた。ヴァイオレットはアレクシスの胸で泣いた。


「ありがとうございます、アレクシス様。ありがとうございます。皆さんも、本当に……」


 支援者たちに礼を言いかけたところで、イヤリングが外れた。顔を上げると、アレクシスがイヤリングを取っていた。


「な……、どうして取るのですか、まだ皆さんが……」

「せめてもう一度、俺に礼を言ってからにしてくれ」


 ヴァイオレットが違う意味でぽかんとしていると、イニョンが座っていた椅子を蹴り飛ばした。けたたましい音が響き、室内がしんと静まり返る。


「せいぜい今のうちに喜びなさい。今に無駄金だったとわかるわ。お前の弟のせいで、何もかもが台無しよ!」


 凄まじい形相で言い捨てて、イニョンはつかつかと外へ出ていった。取り巻きたちも不安げな顔でその後に続いた。


 イニョンたちが退室して静かになったところで、オークショニアや職員たちが二人の元へ近づいてきた。


「君は外で何が起こってるか確認してくれ。俺は落札手続きをする」

「わかりましたわ」


 ヴァイオレットは涙を拭いて収まらない感動をどうにか落ち着けると、再びイヤリングを付けた。視界に拡張現実が重なり、音声も聞こえだした。オークションは終わったが、拡張現実の支援者室には多くの人が残っていた。


 支援者の一人がヴァイオレットの視界に映像ウィンドウを投げて寄越した。画面の中でアレクシスそっくりのローラントの顔が大写しになっていた。


「ヴレードル惑星民の皆々様、どうもごきげんよう。俺は解放戦線ソドムのローラントだ。すでに頭部が破裂した遺体がいくつも発見されていることだろう。我々は機械脳を操り、自在に爆発させることが可能だ。このヴレードルには十億もの人間がいるが、果たしてそのうち機械脳使用者はどれだけいるんだろうな?


 さて、抵抗すべきでないことが明らかになったところで、我々の目的を話そう。我々は惑星ソドム、いいや惑星エリュシオンに対する銀河連盟の罪を認めさせることが目的だ。銀河連盟はエリュシオンに対する人道的支援を断ち切り、惑星外渡航を実質的に禁じるという蛮行を行った。最終戦争の際に惑星から脱出を図った船は全て撃ち落とされ、俺が乗った船もまた同じ運命を辿ったが、緊急脱出装置のおかげで俺だけは助かった。だから、俺はこの命を故郷エリュシオンの名誉回復のために使い果たすつもりだ。


 我々の要求は二つ、まず一つは銀河連盟が罪を認め謝罪声明を出すこと。もう一つはエリュシオンの末裔のために惑星エンナを明け渡すこと。以上が我々の要求だ。回答期限は明日ヴレードル時間十二時までとする。回答が得られなかった場合、もしくは拒否された場合には、ヴレードルの保有する対惑星兵器を使用すると宣言する。できないと思ってくれても構わないが、その時は他の星が消滅するだけだ。ヴレードルから逃げ出そうとする船があれば撃ち落とす、エリュシオンの時と同じように。


 それでは銀河連盟平和保障理事会議長ファイヴァル殿、色よい返事を期待している」


 犯行声明とは思えない明るい笑顔でローラントの映像は終了した。


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