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君に捧ぐ花の星  作者: 水底 眠
第2部
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銀河にも稀なる贈り物

 アレクシスとの長い旅が終わり、ヴァイオレットは人類の始まりの地である地球に降り立った。


 宇宙港からアレクシスの家に着くまでヴァイオレットはあらゆる乗り物の窓から外の景色を眺め、自分の目に焼き付けた。惑星造形師が設計したエンナやヴレードルといった惑星の整然とした風景とは違い、地球は非常に雑多で全ての場所が予想もつかない使われ方をしており、興味が尽きることがなかった。


 地球の北半球にあるアレクシスの家は、ヴレードルの別荘と同じくらい巨大だった。その上人里離れた自然豊かな土地にあったので、二人で異世界に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えた。


 本宅もヴレードルの別荘と同じく無人で、ロボットだけが熱心に働いていた。シシィも同型の彼らと一緒に働くことになったが、引き続きヴァイオレットの身の回りの世話をしてくれた。


 長い旅の疲れを取って地球の環境に体が慣れてくると、婚約披露宴の準備が始まった。全てアレクシスが主導で行われ、会場選びから式次第、招待客、当日の衣装や話す内容に至るまで緻密な計画が立てられた。婚約披露宴の段階だというのに夥しい人が関わり、ヴァイオレットはその全員の顔を覚えることもできなかった。


 ヴァイオレットは、衣装合わせを除いて、時々手伝う程度だった。それよりも語学の勉強をするようアレクシスから指示があったので、地球共通語を淀みなく話して聞き取れるレベルになるまでみっちりと勉強に取り組んだ。


 エンナではそもそも宇宙共通語が公用語として使用されており、ヴレードルでも同じだったので苦労しなかったが、地球は今でも宇宙共通語を公用語としていなかった。地球人は宇宙共通語を話せる人が多いとされているが、人類の始まりの惑星であるというプライド故に地球共通語が日常的に使用されていた。


 婚約披露宴は、地球上のどの国にも属さない海上都市アトランティスの歴史あるホテルで行われた。


 地球内外のアクラシエル商会や財界の関係者が広く招待され、現地参加者だけで優に三百を超える人が集まった。謎多きアクラシエル商会の会長アレクシスへの関心はもちろんのこと、その相手が秘境の惑星エンナの元後嗣であるという噂を確かめようと人々は集まったのだった。


 式が始まると、妖精もかくやという現実離れした美しいドレス姿で現れたヴァイオレットに、招待客たちは一目で心を掴まれた。それは当然アレクシスの目論見通りだった。


 式がつつがなく進行し、記念品交換の段になると、ヴァイオレットからアレクシスには真っ赤なバラのバスケットが贈られた。


 それはエンナでのみ咲くレッドクリスタルという品種で、空気中の水分に反応して花びらの半透明になって水晶のように輝くバラだった。その美しさと比例するように栽培難易度は非常に高く、美しく咲くまでに十年もかかっていた。


 ヴァイオレットが実家から持ち出してアレクシスに贈ったバラのバスケットは赤と白と二つあり、そのうち赤いバラを披露宴で使うことをアレクシスが決めた。その色がアレクシスの髪色と偶然そっくりであることと、ヴァイオレットがお見合いの為にエンナを出る直前に永久保存処置を施したという事実が気に入って選んだのだった。ヴァイオレットは恥ずかしいからとぎりぎりまで反対していたが、結局折れた。


 続いてアレクシスからの贈り物を渡す流れになったが、彼は手ぶらだった。それを見た招待客たちはひそひそと声を交わした。期待と疑いが最高潮に達し会場が沈黙に包まれた時、アレクシスはようやく口を開いた。


「今しがたご覧いただいたように、私の婚約者の故郷では婚約に際し自らが育てた最高の花を贈るのが習わしです。しかしながら、私は大地を離れ宇宙を往く商人でございますので、私なりの方法で彼女に花を贈ろうと考えております。美しき花の惑星であり、彼女の故郷でもある惑星エンナを競り落とし、彼女への贈り物といたします」


 空前絶後の贈り物に招待客たちがどよめいた。そして、衝撃が引いた後には、果たしてなぜアレクシスが惑星エンナを競り落とすなどと大それたことを宣言するに至ったのかに関心が向けられた。


 どよめきが収まったところで、アレクシスは、いかにも感情を押さえているかのように、これまで宇宙社会でほとんど注目を集めていなかった惑星エンナの窮状について滔々と説明し、並大抵の悲劇では心を動かさない招待客たちの同情を掻っ攫った。


 その後、歓談の時間になっても会場の熱気は収まらず、見送りの段になっても招待客たちのほとんどがヴァイオレットたちに援助を約束してから帰っていった。


 婚約披露宴が終わったころにはすでに地球中に劇的な二人の婚約のニュースが駆け巡っており、銀河中の耳目を集めるのも時間の問題だった。


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