第9話:ジョンシルバーの恐ろしさ
翌朝、宝島の空は再び快晴だった。
ジムたちの拠点では、選ばれた船員たちが小屋の建設に取り掛かり、木を切り、壁を組む音が森に響いていた。
ジムは川辺で地図を広げ、X印の場所までの道筋を何度も確認していた。
一方、浜辺ではシルバー一味も上陸を終え、野営の準備を進めていた。
義足の音をコツコツと響かせながら、シルバーは部下たちに指示を飛ばし、密林の入り口に陣を張り始めた。
「ここは悪くねえ。見張りを増やせ。ジムたちの小僧どもがどこに隠れてるか、探るんだ」
シルバーの隻眼が鋭く光り、部下たちは慌ただしく動き出した。
その時――水平線に新たな帆影が現れた。
もう一隻の船だった。
英国海軍の軍艦「ハーキュリーズ号」
演習のためカリブ海域を巡っていた艦隊から離れ、一休みのためにこの無人島に寄港しようと近づいてきたのだ。
甲板では、海軍提督アダムスが双眼鏡を手に、島を眺めていた。
彼はそれなりに地位のある中年男で、整った制服に白い髭を蓄え、威厳を漂わせている。
「やっと島ね……もう船旅ばかりで疲れちゃったわ」
そうぼやいたのは、提督のすぐ横に立つ少女だった。
17歳のヘレン・アダムス。
アダムスの一人娘で、男勝りな性格の持ち主。
本当は港でこっそり父親の船に忍び込んでいたのを、出航直前に見つかり、アダムスは渋々連れてくることになった。
今も海軍船員と同じ粗末なズボンとシャツを着こみ、長い髪を後ろで無造作に束ね、まるで少年のような格好をしている。
彼女は甲板の手すりに寄りかかり、島の緑を目に輝かせていた。
「ヘレン、船内に戻っていろ。危険だ」
アダムスがため息混じりに言ったが、ヘレンは笑って首を振った。
ちょうどその時、船員の一人が叫んだ。
「海軍船を発見しました! あれは……海賊船です! 黒い錨号に間違いありません!」
アダムスの目が鋭くなった。
「思わぬ収穫だな! よし、上陸して一網打尽だ! 捕らえるぞ!
海賊どもを連行だ!」
ハーキュリーズ号には、屈強な海兵が100人以上乗り込んでいた。
大砲も十分に積まれ、訓練された兵士たちだ。
一隻の海賊船を奇襲で制圧するなど、楽勝のはずだった。
ボートが次々と降ろされ、海兵たちが武装して浜辺を目指し始めた。
だが――。
シルバーは感が異常に鋭かった。
長年トム・ゴールドの副船長を務め、数々の奇襲を成功させてきた男だ。
遠くから見えた軍艦の帆影を一瞬で見抜き、部下に命じた。
「全員、森に隠れろ。
奴らは俺たちを狙って上陸してくる。
こっちから仕掛ける……静かに、音を立てるな」
シルバー一味は素早く森の奥に身を潜め、木々の影に溶け込んだ。
海兵たちが浜辺に上陸し、油断したまま前進を始めた瞬間――
突然、銃声と喊声が炸裂した。
「撃て!」
シルバーの号令一下、茂みから一斉に銃撃が浴びせられた。
海兵たちは慌てて応戦したが、すでに包囲されていた。
シルバーは義足を鳴らしながら部下を指揮し、まるで影のように動き回る。
「捕らえろ! 殺すな、価値のある奴は生け捕りにしろ!」
戦いは一方的に進んだ。
100人を超える海兵たちも、奇襲の完璧さとシルバーの冷徹な采配の前に、次々と武器を落とし、縄で縛られていった。
アダムス提督は剣を抜いて抵抗したが、背後からナイフを突きつけられ、膝をついた。
ヘレンは父親を守ろうと小石を投げたが、すぐに取り押さえられた。
シルバーは浜辺に立ち、捕虜となった海軍の列を眺め、ゆっくりと笑った。
隻眼が冷たく輝き、義足が砂を抉る。
「ふん……海軍の提督様か。思わぬ大物が釣れたぜ。」
ジムたちの拠点では、遠く響く銃声に全員が身を固くした。
ケローネが双眼鏡を覗き、顔を青ざめさせた。
「……シルバーの奴、やりやがった。
海軍を……一瞬で捕らえやがった」
ジムは震える手で複製地図を握りしめた。
この一件で、改めて思い知った。ジョン・シルバーの恐ろしさを。
あの男は、ただの海賊ではない。冷徹で、狡猾で、どんな状況でも一瞬で逆転する――
まさに、伝説の副船長だった。
宝島の森は、静かにその惨劇を飲み込んでいた——




