第17話:岩山の恐怖
一行は虎の残骸を後にし、傷ついた体を引きずりながらさらに奥へ進んだ。
やがて密林が途切れ、岩肌の露出した急な岩場に出た。
足元は急斜面で、崩れやすい小石がごろごろと転がり、一歩踏み出すたびに滑り落ちそうになる。
ジムは汗を拭いながら岩を掴み、慎重に体を押し上げた。
「くっ……足場が悪いな。ここ、結構きついぞ」
後ろからケローネが低い声で言った。「気をつけろ。油断したら一気に滑落だ」
岩場を登るにつれ、視界が一気に開けた。
眼下には宝島の美しい海岸線と、太陽の光を浴びて宝石のように輝く海が広がっていた。
白い砂浜とエメラルドグリーンの海が織りなすコントラストは、息を呑むほど美しく、波が岩に当たって砕ける様子が遠くからもはっきり見えた。
ヘレンが思わず立ち止まり、息を飲んだ。
「すごい……こんなに綺麗な海、見たことないわ。まるで宝石を溶かしたみたい……」
アダムスも娘の肩を軽く叩き「確かに素晴らしい景色だ。だが、油断するな。ここはまだ島の奥だ」と静かに注意した。
ジムは岩を一つ乗り越えながら、振り返って微笑んだ。
「ほんとに綺麗ですね。でも……なんだか不気味な感じもする」
一行がさらに岩場を登り続けると、空を見上げたジムは違和感を覚えた。
多数の鳥が上空を旋回しており、ギャーギャーと不快な鳴き声を上げていた。
その中の一つの影が、急に大きくなりながら一直線に近づいてくる。
「なんだ、あれ……?」ジムが目を細めた瞬間、船員の一人が叫んだ。
「うわあああ!!」
それは異常に巨大な鷹だった。翼を広げれば優に3メートルを超える、宝島に生息する伝説級の猛禽。前から列を割るように急降下し、鋭い爪を輝かせて襲いかかってきた。
標的は、ジムのすぐ後ろを歩いていたヘレンだった。
「ヘレン!」
ジムの叫びも虚しく、巨大な鷹はヘレンの肩と腰に爪を立て、彼女を軽々と持ち上げた。ヘレンの悲鳴が響き、鷹は翼を大きく羽ばたかせて岩場の頂上へと飛び去っていった。巣があるのは、この岩場の最も高い突起部分だった。
「ヘレンッ!!」
ケローネとアダムスが慌てて止めた。
「ジム、待て! 周りは危険すぎる! 足場も悪いし、落ちたら終わりだ!」
しかしジムは聞く耳を持たなかった。
短剣を片手に、岩を掴みながら必死に頂上へと登り始めた。
足を滑らせながらも、歯を食いしばって這い上がり、ついに鷹の巣に辿り着いた。
岩は脆く、崩れやすい箇所が多く、何度も足を滑らせては腹ばいになって必死にしがみついた。手のひらは血にまみれ、指の爪が剥がれそうになる。
息が上がり、視界がぼやけても、ジムは一心不乱に登り続けた。「ヘレン……! もう少しだ!」
巣に到着した瞬間、巨大な鷹が翼を大きく広げて威嚇した。鋭い口ばしが一直線に突き出され、ジムの左肩を深く抉った。
激痛が走る中、ジムは短剣を振り回し、鷹の翼に切りつけた。「この野郎……! ヘレンに手を出すんじゃねえ!」
鷹は怒り狂い、爪でジムの胸を薙ぎ払った。
シャツが裂け、鮮血が飛び散る。ジムは痛みを堪え、転がるようにして距離を取り、再び飛びかかった。
短剣を両手で握り、鷹の首元めがけて全力で突き刺す。刃が深く入り、鷹は断末魔の叫びを上げながら激しく暴れた。
最後に翼でジムをはたき、岩の縁まで吹き飛ばした。ジムは血を吐きながらも、なんとか巣の中央にへたり込んだ。
ヘレンが震える足で駆け寄り、倒れかけたジムを抱き抱えた。
「ジム! ジム……! 馬鹿……どうして私なんかのために……!」
ヘレンはジムの傷口を必死に押さえながら、涙を浮かべて彼を見つめていた。
胸の奥から込み上げてくる感情が、友情なのか、それとももっと深い愛情なのか、彼女自身にも分からなかった。ただ、ジムが自分のために命を懸けてくれたことが、たまらなく嬉しく、怖かった。
ジムはヘレンの手を弱く握り返し、痛みを堪えながら言った。
「さあ……冒険の続きに戻ろう。みんなが待ってる」
ヘレンは頷き、ジムを支えながらゆっくりと岩場を下り始めた。
血に染まった少年と、涙を堪える少女。二人の絆は、この宝島で確かに深まっていた。
ケローネたちが駆け寄り、ジムの傷を手当てしながら一行は再び動き出した——




