第16話:ジャングルの恐怖
ジム一行は朝早く拠点を出発し、スパイグラスの丘を目指してジャングルの奥深くへと進んでいた。
ケローネが先頭に立ち、コンパスとシルバーから盗んだ詳細地図を交互に見ながら道を切り開く。ヘレンとアダムスがその後ろ、ジムは最後尾で周囲を警戒しながらついていった。
蒸し暑い空気の中、ジャングルはまるで生き物のように息づいていた。
高く茂った木々の葉が陽光を遮り、地面には濃い影が落ちている。湿った土と腐葉の強い匂いが鼻を突き、汗が額から滴り落ちて目に入りそうになる。
太い蔓が足に絡みつき、巨大な葉が顔や腕をべったりと叩くたび、不快な湿り気が肌に残った。
遠くで奇妙な鳥の鳴き声が響き、時折近くの茂みで何かがガサガサと動く気配がして、全員の神経を尖らせていた。
ケローネが先頭でコンパスを何度も確認しながら、低い声で指示を出した。
「ここを右だ……あと少しで洞窟の入り口に近いはずだ。気を引き締めろ、油断するな」
一行は黙って頷き、足を進めた。
ヘレンはジムの少し前を歩き、アダムスがその横を守るように進む。
ジムは最後尾で周囲を警戒しながら、背中に感じる重い空気に眉を寄せていた。
その時だった。
ジムは突然、背筋に冷たい殺気を感じた。熱帯の蒸し暑さとは別の、鋭く冷たい視線。
誰かに——いや、何かに、じっと狙われているような、圧倒的な存在感。
獲物を定めた猛獣の目が、こちらを捉えている。
「……みんな、止まって」
ジムが小さく警告した瞬間、ジャングルの風景が不自然に「動いた」
緑と茶色の斑模様が、木々の陰から滑るように浮かび上がる。虎の毛皮が、周囲のジャングルと完璧に同化していたのだ。
「虎だ——!」
次の瞬間、巨大なベンガルトラが咆哮を上げて飛びかかってきた。体長は3メートル近くあり、筋肉質の体躯が凄まじい速度で迫る。先頭近くにいた船員二人が、悲鳴を上げる間もなく爪と牙に襲われ、血しぶきを上げて倒れた。
「逃げろ!」
ケローネの叫び声とともに、全員が一斉にジャングルの中を駆け出した。
虎は倒れた船員二人の体に食らいつき、骨を砕くような音を立てながら血を啜っていた。
しかし、獲物を貪る時間は短かった。
虎はすぐに巨大な頭を上げ、血に濡れた口から低い唸りを漏らしながら、次の獲物を求めて顔をこちらに向けた。
「来るぞ! 走れ! 全力で走れ!」
ケローネが叫んだ。
一行は木々の間を必死に駆け抜けた。
後ろから迫る重い足音と、枝をへし折る音が恐怖を煽る。
「くそっ、速すぎる!」アダムスが息を切らしながら叫んだ。
ヘレンがジムの腕を掴みながら走る。「ジム! こっちよ! 右の獣道の方が開けてる!」
ジムは振り返りながら叫んだ。「みんな、散らばらないで! 固まって走るんだ!」
虎の唸り声がすぐ後ろまで迫っていた。木の幹に爪が立てる鋭い音が響き、飛び散る土が背中に当たる。
「やばい……! こっちに引きつけすぎた!」船員の一人が悲鳴を上げた。
ジムは走りながら大声で提案した。「ケローネさん! 火薬を使いましょう!
シルバーの船から持ってきた火薬で爆破します!でも誰かが囮にならないと……!」
ケローネは木の根を飛び越えながら即答した。
「いいぞ、ジム! 作戦だ!だが危ない……誰が囮になる!?」
ジムは迷わず声を張り上げた。
「僕がやります! 僕が虎を誘導します!火薬は先に仕掛けておいてください!」
ヘレンが驚いて叫んだ。「ジム! 危ないわよ! やめて!」
ジム「他に方法がないだろ! 僕がやる!ケローネさん、火薬の準備を! 導線も長めに!」
ケローネは頷く。「わかった! 任せろ!お前は絶対に死ぬなよ、ジム!」
ジムは深く息を吸い、虎に向かって大きく両手を振りながら挑発した。
「おい! デカい猫野郎! こっちだ!お前なんか怖くないぞ! 来いよ!」
虎は低く咆哮を上げ、獲物を替えると猛烈な勢いでジムに向かって突進してきた。
ジムは全力で逃げ始めた。
爪が背中をかすめ、シャツが裂ける音がした。
「今だ、ジム! こっちへ!」
ケローネが叫ぶ声が聞こえた。
ジムは死に物狂いで火薬を仕掛けた場所まで走り抜け、
木の陰に飛び込んだ。
「ケローネさん! 今!」
——瞬間、轟音とともに大爆発が起きた。
虎の体が炎と煙に包まれ、木端微塵に吹き飛んだ。肉片と血しぶきが周囲の木々に飛び散り、ジャングルに一瞬の静寂が訪れた。
ジムは地面に倒れ込み、荒い息を繰り返した。
ヘレンが駆け寄り、彼を抱き起こす。「ジム! 大丈夫!?」
ジムは汗と土にまみれた顔で、弱々しく笑った。「……やった、みたいだね」
ケローネは倒れた二人の船員のもとに駆け寄ったが、すでに手遅れだった。彼は厳しい表情で皆を見回した。「犠牲は出たが……先へ進むぞ。ここで止まるわけにはいかん」
一行は再び動き出した。
虎の脅威は去ったものの、宝島の危険はまだ始まったばかりだった——




