愛の余韻
「いい加減にして。アンタたちの『仲良しごっこ』には、吐き気がする」
ある朝、テオが書き残した置手紙には、そんな短い一言が記されていた。
テオの失踪。それは、私とアルフォンスにとって「演技の失敗」を意味する。まあ、それほど隠すほど騙せる子でもなかったけど。しかし、もしこの件が王妃様に知れれば、「愛の極致であるはずの家庭から、子供が逃げ出した」という、今や国家規模のスキャンダルになりかねない。
「……アルフォンス。もしテオが他国のスパイに捕まり、私たちの『本当の仲』を暴露したら、今度こそ私たちは反逆罪で処刑されますわよ」
「貴族だから処刑はされないさ。それに先に入ってる侯爵が、もしもの時は色々手助けしてくれるだろ」
「何を呑気な事を。あなたはどうなってもいいけど、道連れなんてごめんよ。軟禁なんて絶対に嫌」
「わかっている。……あのガキ、面倒なことをしてくれたものだ。……死ぬ気で(体面のために)連れ戻すぞ」
私たちは、かつてないほどの必死さでテオを捜索し始める。
私は魔道具の探知機をフル稼働させ、アルフォンスは騎士団を総動員して、血眼になって王都の路地裏から森の奥までを徹底的に洗い出す。
その時の私たちの形相は、まさに「怪物」そのもの。
髪は乱れ、瞳には殺気がこもり、邪魔をする者はすべてなぎ倒さんばかりの勢い。
市民たちは、その姿を見て震え上がっていた。
「見ろ……公爵夫妻が、愛する息子を失って、理性を失うほど嘆き悲しんでいる……!」
「あんなに美しい方々が、なりふり構わず泥にまみれて……。なんて壮絶な親の愛なんだ!」
((違う、ただの保身のための焦りよ!!))
一方、テオは王都外れの廃屋で、かつてモルガン侯爵に雇われていた「残りカスの傭兵たち」に捕まっていた。
「ふん、公爵夫妻の弱みを見つけたぞ。このガキを人質にすれば未払い銀貨も……」
そこへ、扉を物理的に破壊して、私とアルフォンスが同時に雪崩れ込む。
「……見つけたわよ、テオ。……私の平穏を乱した罪、じっくり償わせてあげますわ」(さっさと帰れ。王妃様にバレる前に!)
「……おい、暗殺者ども。その子に触れるな」(勝手な真似をするな。監督不行届になったらどうする!)
私たちが放った「殺意」は、暗殺者たちの戦意を瞬時に粉砕。
彼らは「親の怒り」という名の暴力的なオーラに圧倒され、戦う前に泡を吹いて倒れていった。
テオは、埃まみれになりながら、私たちの「あまりに必死(で形相がひどい)」な顔を見上げてくる。
「……ふん。……そんなに僕がいなくなって困るの? ……そんなに僕のことが『必要』なんだ」
テオの瞳が、少しだけ潤んだように見えた。
彼は、私たちの焦りを「自分を愛しているがゆえの必死さ」だと、あろうことか勘違いしてしまった。
「……仕方ないな。……そんなに泣きそうな顔(実際は怒りに震えている顔)をされたら、帰るしかないじゃない」
「……ええ。……さあ、帰りましょう。……家で、たっぷりと『説教(再教育)』をしてあげますわ」
翌日、王都の新聞には感動的な見出しが踊り狂う。
『愛の猛火! 奪われた子を救うため、地獄の業火となって暗殺者を焼き尽くした公爵夫妻』
テオは、それ以来、少しだけ素直に(?)私たちの毒味に付き合うように。
私たちの「演技」は、皮肉にもテオという「本当の絆」を内側に抱え込み、ますます外せない呪縛となって完成へと近づいていくことに……。




