ペアレンツ
テオが私達の元に来て、しばらく経ったある日のこと。
「……行きたくないわ。なぜ私が、子供たちが杖を振り回す学芸会を見守らねばならないの?」
私は鏡の前で、不機嫌極まりなくドレスの襟を正した。
隣では、公爵家当主としての威厳(という名の殺気)を全身から放つ、うざいアルフォンスが、冷たい目で作法を確認している。
「諦めろ、エルゼ。王妃様が『聖夫婦の教育方針を全親の模範に』と、勝手に出席を確約してしまったんだ。……テオ、準備はいいか。もし不細工な魔法を見せたら、屋敷の庭の掃除を一生やらせるからな」
「……言われなくても。アンタたちの顔に泥を塗るのが一番の恐怖だよ」
テオは憎たらしい溜息を吐き、魔法学校の制服を翻して先に馬車へと乗り込んだ。
学校に到着すると、そこは異様な熱気に包まれていた。
「聖夫婦」を一目見ようとする保護者たちが、まるで伝説のペガサスを待つような目で見守っている。
授業は、親子の「魔力的共鳴」を確認する実技だった。
親が魔力を放ち、子がそれを変換して魔法を発動させるという、信頼関係が試される高度な試験だ。
「さあ、テオ・フォン・公爵令息! ステージへ!」
教官の呼びかけに、テオが前に出る。
アルフォンスが私の腰を抱き寄せ、背後からテオに向けて魔力を送り込んだ。(さっさと終わらせろ。私の魔力を受けて倒れるなよ、この小僧)
私もまた、アルフォンスの手の上に自分の手を重ね、鋭い魔力を注ぎ込む。
(アルフォンス、あなたの魔力が混ざって不快だわ。私の魔力だけで、この場であなたを吹き飛ばしてあげたいくらいよ)
私たちが互いを牽制し合い、限界まで圧縮した「殺意に近い魔力」が、アルフォンスの手を通じてテオへと流れ込む。
普通の子供なら、そのあまりの圧力に失神するはずだった。
だが、テオはその「激流」を涼しい顔で受け止め、杖を天に掲げた。
「……顕現せよ」
放たれたのは、美しいスレイプニル。
それは校庭の空を覆い尽くし、あまりの魔力の密度に、周囲の親たちの魔法が次々と霧散していく。
「な……なんという威力だ! 親子三人の魔力が、完璧な調和を保っている!」
「見て! あの激しい魔力の衝突……! あれは、お互いを高め合おうとする、苛烈なまでの愛の競演だわ!」
保護者たちは、私たちの「互いの魔力を打ち消そうとして、結果的に威力が跳ね上がった現象」に涙して拍手喝采を送った。
教官は震える手でノートに記す。
「これぞ教育の真理……! 甘やかすのではなく、極限の緊張感の中で個を磨き上げる。これこそが『聖夫婦流・超魔導教育法』だ!」
((違う、ただの魔力の押し付け合いよ!!))
授業の後、私たちは「教育界のカリスマ」として、他の親たちに囲まれ、育児相談を受ける羽目になった。
「公爵夫人、どうすればあんなに凛々しいお子さんに育つのですか?」
「……そうね。毎日、寝首を掻かれないよう気を張らせることかしら?」
私の正直な回答は、なぜか「常に緊張感を持たせ、自立心を促す究極の助言」として、保護者たちの手帳に猛烈な勢いでメモされた。
「……エルゼ。……疲れたよ。……帰ったら、テオに毒見をさせてから、ゆっくり休みたい」
「……賛成ですわ、アルフォンス様。……でも、テオに毒を盛ったら、彼、魔法で倍にして返してきそうですわね」
私たちは、自分たちが作り上げた「最強の息子」という名の新たな天敵に頭を抱えながら、夕暮れの学舎を後にしたのである。




