マギステル
「……なぜ私が、教壇などに立たねばならないの」
魔法学校の特別講義室。目の前には、輝く瞳でノートを広げる将来有望な学生たちが、鈴なりになっていた。
隣では、アルフォンスが嫌々ながらも、完璧な「名門の家長」として教卓に手をついている。
「諦めろ。いつもの気まぐれ王妃が『愛は魔法の根源』などという論文を勝手に出版したせいだ。……今日の目的は、あまりにも不真面目な授業を行い、即刻クビを宣告されること。いいな、エルゼ」
「……ええ、承知いたしましたわ。期待していてくださいな」(不運な事故として処理してあげるわ、アルフォンス)
講義のテーマは『対人魔法における精神的リンクの重要性』
私たちは、学生に「愛の魔法」を見せつけるフリをして、白昼堂々の「ガチ喧嘩」を披露することにした。これほど教育に悪い光景を見せれば、聖夫婦の化けの皮も剥がれ、即刻学園を追放されるはず。しかも被害は子供の猛言のみ。これからの苦痛を被れば、軽傷で済む。
「では、手本を見せよう。……エルゼ、構えろ」
アルフォンスが杖を抜くと同時に、容赦のない「凍結魔法」が私を襲う。
(そのまま氷像になり、学校の備品として永久保存されるがいい)
「あら、そんな温い魔法では、私の指先すら凍りませんわ」
瞬時に「爆炎魔法」で氷を蒸発させ、その蒸気に紛れて、彼の足元から鋭い土の槍を突き上げさせた。
(死ね、アルフォンス。そのまま串刺しになり、明日の晩餐のメインディッシュになればよろしい)
教壇の上で、魔法の応酬が始まる。
防御魔法など一切なし。お互いの急所を的確に狙い、魔力と殺意を極限までぶつけ合う、文字通りの「死闘」だ。
閃光が走り、爆風が教室の窓を叩き割る。学生たちは悲鳴を上げ……ていると思いきや、なぜか全員が涙を流して立ち上がった。
「……すごい。魔法の威力が、お互いの信頼によって限界を超えている!」
「見て! あの激しい炎と氷の衝突は、互いの個性を尊重しつつ、高みを目指す究極のディスカッションだわ!」
一刻も早くクビになりたい私は、禁忌に近い高火力魔法を展開した。
「これで終わりですわ、アルフォンス様!(さっさと浄化しなさい!)」
「ふん、受けて立とう!(お前こそ、退職金代わりにこの一撃を食らえ!)」
放たれた魔法が中心で激突し、美しい虹色の魔力残光が教室中を優雅に満たしていく。
……一瞬の静寂。
「……合格だ。二人とも」
廊下で静観していた校長が、深く頷き拍手を送った。
「魔法とは力ではない、魂の共鳴だということを、君たちは身をもって示した。……この講義の内容は、『愛妻魔法戦』として、来年度からの国定教科書に採用することが決定した」
(……………………………)
不真面目どころか、私たちは「魔法教育の革命児」として祭り上げられてしまった。
教科書の挿絵には、私たちが殺意を込めて杖を突き出し合う、あの「最悪の瞬間」が『魂の対話』というキャプション付きで掲載されるという。
「……エルゼ。……もう、魔法を教える気力もないよ」
「……同感ですわ、アルフォンス。普段から街は結界で魔法が使えないですものね。……でも、教科書の印税が入るそうですから、それであなたに効く『一番高い毒薬』でも買わせていただきますわね」
私たちの殺意は、ついに学問という名の聖域までも侵食し、後世にまで呪いのように語り継がれることになったのだ。




