第5話 Life is Beautiful⑥
「あの子、エイミーさんの子?」
しょんぼりとした様子でライアンの隣の席に腰掛けたフィーに訊ねると、彼女はしょぼしょぼとした様子のままこくりと頷く。
「うん。アルフレードさんと一緒に育ててるんだって」
「アルフレードとねぇ……」
呟いてから内心何故かほっとしている自分がいて、ライアンは思わず「ん?」と呟いてしまう。
「ライアン? 眉間に深いシワ寄せてどうしたの?」
そんなライアンの様子を不思議に思ったのか、フィーがライアンの顔を覗き込みながら訊ねる。それをしっしっと払いながらライアンはふぅと、短く息を吐き出した。
「……別になんでもねぇよ。あー、てことはあれか? アルフレードとエイミーさんって夫婦なのか?」
ライアンの素朴な疑問に、フィーがニヤァと楽しげな笑みを浮かべる。
「んだよその顔は。俺変なこと言ったか?」
「いやぁ? ライアンもやっぱりそう言うの興味あるのかなぁと思って」
「別にフィーが考えてるようなことじゃねぇよ。ただ、気になっただけだっつーの」
ライアンは一息にそう言ってしまうと、そのまま「いただきます」と言って、白パンに齧り付く。
柔らかい食感と、口の中に広がる小麦の甘さ。ここ最近食べたパンの中でもかなり上位に入る美味しさだ。
「……うめぇな」
「でしょー!」
「いや、これフィーじゃなくてエイミーさんが作ったやつじゃねぇの……?」
「ふーんだ。ちゃんとあたしも手伝ったもん!」
ドヤッと胸を張る彼女に、ライアンは机の上に座るイニへと視線を向ける。
「フィーも色々やってたわよ。小麦粉引いたり卵割ったり……ついでにお皿も割ってたけど」
「イニー! それ言わなくてよくない!?」
「まあ……いつも通りのフィーで安心したよ」
「ちょっとそれどう言う意味!?」
頬を膨らませてぷりぷりと怒るフィーを無視して、ライアンはそのままスープを口に付ける。味付けは薄いが野菜から滲み出た旨味が、寝起きの身体に染み渡り、思わずほぅっと息を吐き出してしまう。
フィーの文句を適当に交わしつつライアンが慣れない左手で食事を摂っていると、スヤスヤと眠る赤ちゃんを抱いたエイミーが戻ってきた。
「ごめんなさいね、挨拶もそこそこだったのに」
「いやいや、それはフィーが騒いだからだし、エイミーさんが謝ることじゃねえだろ。むしろ、こっちこそ迷惑かけた」
「ふふっ。そんなこと、ここだと迷惑でも何でもないわよ。それにしてもライアンくんってしっかりしてるのね」
「そんなことねぇって。単純に比較対象がアレなだけだよ」
ライアンが言いながら隣を見遣ると、フィーがどこか不満そうにぷくっと頬を膨らませながらこちらを睨んでいる。何でお前がそんな顔できるんだよ。
「ちょっとライアン? それどう言う意味よ」
「別に何でもねぇよ。それにしてもいいとこだな、ここ」
ライアンは言いながら、ぐるりと辺りを見渡す。確かに人々の装いや住まいは貧しそうに見えるが、それでも老若男女関係なく人々が笑っている。その光景を見て、ここが彼らにとって安らぎの場所であるのは一目瞭然だった。
「でしょ? ここは貧しいけれど、みんな笑ってる。ハーネス・シティの人達はここのことを悪く言う人もいるけど、私にとっては掛け替えのない、大好きな場所なの」
そう言って微笑むエイミーの表情に嘘はなくて、ライアンも素直に頷いてみせる。
「同感だな。みんな笑ってる場所はいいとこだって俺も思うよ。それにしてもみんなが笑ってるのには何か理由があったりすんのか?」
「理由……理由かぁ。うーん、どうかしら。ここにいるみんなが、人生は美しいものだって本気で信じてるからかもね」
「美しい、ねぇ」
ズッとスープ啜りながら、彼女の言葉を口の中で転がしてみる。
「それはこの辺りでは主流の考え方とか?」
「どうかしら? でも、わたしの主治医がよくそう言ってくれるの。だから、きっと先生に診てもらってる人はみんな聞いてるんじゃないかしら」
「ほーん。なるほどな」
「ねぇライアン。その態度はどうかと思うよ?」
「あん?」
ぷくっと頬を膨らませたフィーが、そう言ってライアンをじっと睨む。
「ふふっいいのよフィーちゃん。ライアンくんも先生と話したら、きっとその意味が分かると思うわ」
「それはそうかもだけどぉ……」
まだ何か不服そうなフィーだったが、やがて「それもそっか」とまたいつも通りの笑みを浮かべた。その様子にライアンは片眉を上げてイニを見る。
「それを判断するのは私じゃなくて、ライよ」
「……イニの言う通りか。んで、アルフレードは? さっきから姿が見えねぇけど」
ライアンがパンを頬張りながら訊ねると、エイミーが「そうだった」と言ってにこやかに微笑んで見せた。
「ライアンくんがご飯を食べ終えたら、三人には行って欲しい場所があるの」




