第4話 Devilcry⑪
「客からライアンが喧嘩がしてるって聞いて来てみりゃなんだよこれ!? ってかライアンお前ボロボロじゃねぇか! とりあえずこれ着とけって」
そう言ってバッカスはライアンの肩に、エリックを出る時にラッシュバレーから貰った革のジャケットを掛けてくれる。
「あんがとなバッカス」
「いやそれは大丈夫なんだが……何があったんだよ。ただの喧嘩でこんなことなるはずねぇだろ……」
呆然と、辺りを見渡すバッカスに、ライアンは「ちょっとな」と答える。
「とりあえず俺達は大丈夫だ。でも、そんなことよりガーネットさんが……」
ライアンが呆然と空を見上げたままのガーネットへ視線を向けると、バッカスもようやく事態を察したのかこくりと頷いて見せた。
「あ、あぁ……ガーネットさんは俺が何とかする。後、今言うことじゃねえかもしんねぇけど、店に警察が来たんだ」
「警察が?」
「あぁ。これ、本当か?」
バッカスはそう言うと、ポケットからくしゃくしゃになった二枚の紙を取り出してライアンに手渡してくれる。
「なっ――!」
ライアンが目を見開くのを見て、フィーは怪訝そうに「どうしたの?」と訊ねた。しかしライアンは首を左右に振りながら「違う!」とバッカスに叫ぶ。
「これは確かに俺とフィーだけど、俺らはこんな変な集団の一派じゃねぇし、ましてやテロなんて……なん、て……」
そこまで言ってから、頭の中で少し前に起こしたエリックでの出来事が次々と思い起こされて、冷や汗がダラダラと流れ始める。
ライアンの手元を覗き込んだフィーもどうやら同じらしく、おおよそ年頃の女子がしてはいけないような顔でライアンの手に握られたそれ、二枚の手配書を眺めている。
そこには確かにライアンとフィーの似顔絵が描かれていて、そのすぐ下には生きて捕らえた場合にのみ懸賞金を支払う内容が、フィーでも読めるような平易な文章で綴られていた。
しかしバッカスはそんな二人の様子には気が付いていないようで、「だよな」と安堵の溜め息を吐き出した。
「ライアン達と知り合ってまだ日は浅いけど、そんなことするようなヤツじゃないって分かってる。それはウチの店に来た人ならみんなそうだ。でも、警察はライアン達のことを指名手配までして追ってるんだ。ここに来るまでに警察が人集めてるのを見たし、今は逃げた方がいいだろうな」
「で、でもバッカス! 逃げるってどこに行けばいいの? ライアンはこんなに怪我してるんだから遠くに行くなんてとてもじゃないけど無理よ」
フィーの言葉に、イニがコクコクと頷いて同意する。
「この子の言うとおりね。少なくとも今の話を聞いて、バッカス達の店に戻る訳にはいかないわ。でも、ライのこの怪我で遠くへ逃げることはできない……ねぇバッカス。何か案はないかしら?」
「それなら大丈夫だ。ライアン、さっき俺やジェニーが住んでた場所について話したこと、覚えてるか?」
「あ、あぁ……もちろん?」
「……その様子だとちょっと怪しいけど、今はそんなこと言ってる暇はないか。とりあえず、この道を真っ直ぐ行けばスラム街がある。大丈夫、見りゃすぐ分かぐらいには荒れてるからさ」
それはどうなんだと思うライアン達を他所に、バッカスは言葉を続ける。
「そこに俺の弟がいるって言ったろ? とりあえずそいつを頼れ。それに、アイツは医者の卵だ。頼りにはなんねぇかもしれねぇけど、それでも応急手当てぐらいならしてくれるだろ。それに、あそこは少し治安が悪いけど、警察に追われてるって言えばみんな味方してくれるよ。あいつらにとっても警察は敵だしな」
バッカスはそう言ってニッと笑うも、すぐに背後を睨んでチッと舌打ちをした。
「やばいな、騒がしくなって来た。とりあえず今すぐ逃げろ。後は俺がなんとかするからさ」
「いや、でもそれだとバッカスや店長にも迷惑が――」
「ライアン……お前真面目すぎんだよ。俺とお前はもう友達だろ? それに、フィーもイニも俺達の仲間だ。仲間を見捨てたなんて知られたらジェニーに顔向けできねぇよ」
バッカスは三人を安心させるように「なっ?」と続けて、ライアンの右肩を勢いよく叩く。
「痛ってぇ!」
「あっ、悪りッ」
「あのなぁ……」
ライアンはそう言ってバッカスを睨むも、やがて二人揃って小さく吹き出す。
「また店来いよ。待ってるからな」
「もちろん。悪いな、何から何まで」
「だから気にすんなって。ほら、さっさと逃げろよ。向こう着いたら適当なヤツにバッカスの友達で、アルフレードを探してるって言えばいい。そのことだけ忘れんなよ。ほら、分かったらここは俺に任せてもう行けって」
バッカスに肩を借りながら、ライアンはよろよろと立ち上がる。そのままフィーに身体を預けつつ、ライアンは「ありがとな、バッカス」と呟くように言った。
「おう」
その声を合図に、三人は歩き出す。
背後がにわかに騒がしくなるも、振り返っている暇はない。ただ、バッカスに言われたその場所を目指すために歩き続けるだけだ。
必死に前を向きライアンを支えるフィーとは対照的に、ライアンは地面を睨みながら、薄れゆく意識の中、ギュッと奥歯を噛んだ。




