第4話 Devilcry⑩
冷めた口調で放たれた言葉はそこまで大きくはなかったが、それでもハッキリと周辺にいる者の鼓膜を揺らした。
ゆっくりと握られていくマモンの手の平。ライアンは彼女の視線の先に、イニとフィーがいることを察すると、全身が悲鳴を上げることを少しも気にかけず、一気に駆けてフィーの身体を抱き上げその場を離れる。
フィーとイニを抱えたライアンが転がる様にその場を後にするのと、マモンがギュッとその手を握ったのは同時だった。
先程までフィーが座り込んでいた場所のすぐ後ろに立ち並んでいた家々から悲鳴の様に木が軋む音が聞こえたかと思うと、瞬く間に周囲の建物が一瞬にして潰れてしまう。
後少し、ライアンが気が付くのが遅かったら。そう考えただけで、背筋がゾッとしてライアンの頭からサッと血の気が失せていく。
「おい! フィーは無関係だったんじゃ……」
マモンが立っていたその場所に向けてライアンが叫ぶも、既にその姿は消えてしまっていた。更に言えばサタンもリヴァイアサンの姿もいつの間にか見えなくなっていた。
「消えた……?」
フィーのそんな呟きに、ライアンはこくりと頷く。
「汽車の時と同じだ」
ライアンが言うと、ようやくフィーも合点がいったのか、目を大きく見開いた。
「もしかしてあの人達って……」
「あぁ、あのサタンとマモンって二人は汽車で消えたのと同一人物だろうな。リヴァイアサンって人は初めて見たけど……ツッ!」
苦悶の表情に顔を歪ませるライアンに、フィーは慌てて彼の身体をさする。
「ライアン!? こんなにボロボロになるまで……なんでキミはそんなに無茶するのよ!」
「大丈夫。多分肩が折れてるだけだよ」
「折れてるだけって……ねぇイニ! ライアンがすぐ治るような魔法はないの!?」
訴える様に腕の中のイニに問い掛けるが、彼女は「無理ね」と言ってフィーの腕をペシペシと叩いた。
「確かに治癒の魔法はあるわ。でも、残念ながらライが使える魔法じゃないの」
「そんな……」
今にも泣きそうな顔をして言う彼女に、イニは「魔法はそんな便利なモノじゃないって言ったでしょ」と冷静に告げる。それからイニは辺りをキョロキョロと見渡すと、「ねぇ」と二人を呼んだ。
「とりあえず今はここから離れましょ。ただでさえ大喧嘩しただけじゃなくて、ライも魔法をしっかりと使ったんだから。変な噂が立つ前に逃げた方がいいわね」
「で、でも逃げるって……」
フィーが震える声で呟いた瞬間、遠くから「おーい!」と誰かの声が聞こえた。そちらへ三人が顔を向けると、汗だくでこちらに駆け寄って来るバッカスの姿が見えた。




