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Lacrima EX MACHINA  作者:
114/115

第8話 scarlet⑤

「ここですか?」

「えぇ。少々お待ちください。ライアン、迎えが来ましたよ」


 言いながら、ドロシアがコンコンっと優しく扉を叩く。しかし、返事はない。

 無視しているのか、それとも気が付いていないのか。


「ライアン? 開けますよ」


 言うが早いが、ドロシアが扉を開く。一瞬、バキッと何かが壊れる音がした気がするが、気のせいだろう。きっとそうに違いない。

 ゆっくりと、扉が開いていく。

 その向こう、一番奥にライアンはいた。

 こちらを振り向くことさえせず、丸まった背中はずっと机に向かったままだ。


「ライアン。お迎えですよ」


 ドロシアが再び彼を呼ぶ。しかし、彼が振り返ることはない。その様子は無視しているというより、手元に集中しているようだった。


「ライアン」


 スズナも、彼の名前を呼んでみる。きっと反応はないだろう。そう思って彼の名前を口ずさんだ。


「――え?」


 ふいに振り返ったその顔に、思わずスズナの口から声が漏れた。

 似ている。いや、似ているなんてもんじゃない。

 スズナにとって、初めての弟子であり、最後の弟子だった彼。

 金色にカールした髪。エメラルドのように輝く緑色の瞳。


 運命なんて言葉を信じることは、スズナがこっちに来てからもうなかった。

 緋色の魔女として生きていくことになったあの日、運命なんてないのだと自分に言い聞かせたのに。

 きっと、もう信じることはないと思っていた。


 彼の死に際。少しだけ話をした。

 それで終わりだと。

 そこでこの関係は完全に途切れたと、思っていた。

 でも、そうか。こうして再び縁が繋がったのなら、全力で応えようじゃないか。

 それが、君の師であるわたしの勤めだ。


「アハハハハハハッ! そうかそうか。君がそれを望むなら、わたしは全力で叶えようじゃないか。そうだろ? わたしの一番弟子、ルーベンス」

「……?」


 突然笑い出したスズナに、ライアンとドロシアが顔を見合わせる。その様子が面白くて、スズナはまた笑ってしまう。

 子どものように、久々の再会を懐かしむように。

 でも、そうすることでもう彼に会えないことが分かって、ほんの少しだけ、寂しくもなってしまうのだけれど。


「改めまして、わたしはスズナ。今日からキミを迎え入れる、ただの魔女だよ」


 ◇


 暖炉の中で、火の粉が楽しそうに弾ける音に、意識が眠りから浮かび上がる感覚がした。


 ゆっくりと、緋色の魔女は目を開く。

 どうやら少し眠ってしまっていたようだ。

 昔の夢を、見てしまった。

 弟子の帰宅を心待ちにしていたからか、これからの未来を想像してしまったからか。それはスズナには分からない。魔女はそんなに万能じゃないのだから。


 首を少し動かすと、髪がサラサラと零れ落ちる感覚があった。


「……そろそろかな」


 壁に掛けられた時計に視線を向けると、もうすぐ昼の二時を指すところだった。

 耳を澄ませば、遠くから愉快な話し声が聞こえてくる。

 さあ、こうしてゆっくりとする時間は終わりだ。

 もう、運命は動き出してしまった。

 なら、スズナもいい加減重い腰を上げなければ。


「騒がしくなるね、ルーベンス」


 ふふっと小さく微笑んだのと、扉が勢いよく開かれたのは同時だった。

 そこには見知った家事妖精と、彼女の腕に抱かれた小さな機械人形。

 その後ろには不安そうな顔をした見知らぬ黒髪の少女。

 そして、最後にふてくされた表情の見慣れた少年がいた。


 何はともあれ全員が無事に帰ってきたことに安堵する。

 なら、この家の主として、掛ける言葉はただ一つ。

 スズナは、ふっと微笑み、口を開く。


「お帰り、三人とも。それからようこそ、フィー・ソムニウムさん」

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