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Lacrima EX MACHINA  作者:
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第9話 Sightseeing①

「さあ、着きましたよ」


 早朝。何もない駅に降り立つなり、ソフィアが言った。


「………………え?」

「フィー、何を期待してたかは分かんないけど、ここが目的地であり、ライが育った町。ウエスト・ベルズ・ウッドよ」

「ここが?」


 イニの言葉を確かめるようにフィーがあたりを見渡すも、見えるのは一面の広大な草原。

 なんと、近くでは羊や馬がのんびりと草を食んでいる様子も見れる。

 少し先には森と朝日を反射してキラキラと輝く湖があるものの、家は全くと言っていいほど見当たらない。

 よく言えばのどか。悪く言えば……いや、やっぱり止めておこう。

 ちらりと隣を見ると、まだどこか眠そうなライアンがいて、二人が冗談を言っている可能性もあるかと、念のため確認してみることにする。


「ねえライアン。あたしには見渡す限りの大自然しか見えないんだけど」

「そりゃあな。そういう場所だし」


 欠伸混じりに言うライアンに、フィーはがっくりと肩を落とす。彼が嘘を吐かないことは、一緒に過ごして来て嫌というほど分かっている。


「うわあぁマジかぁ」


 がっくりとフィーの肩が落ちる。このまま地面にめり込みそうだ。

 そんなフィーをあざ笑うかのように、背後の汽車は重い音を立てて走り出してしまう。

 その姿をぼんやりと見送りながら、溜め息を一つ。

 いやね、フィーだって分かってはいた。彼の野生児じみた身体能力はおおよそ町中では培われないものだろうし。

 だとしても、まさかここまでとは。


「……はあ」

「んだよフィー。不満でもあんのか?」

「不満とかじゃないけどお……でもさあ。もうちょっとエリック的な感じでもよかったんじゃない? とは思っちゃうんですぅー」

「はいはい。二人とも行くわよー。ここからは遠いんだから」


 ソフィアの肩に乗ったイニがどこか楽しそうに言う。ライアンは特に何かを言うわけでもなく、ただ黙って荷物を背負うだけだ。


「えーここから歩くのー?」

「不満言ってもしょうがないでしょ? それに、ここで待っててもいいけど、次の汽車が来るのは七時間後よ」

「七時っ……」


 思いも寄らない時間にフィーが青い瞳を見開いている間も、先程走り出した汽車は遠くなっていくばかりだ。

 追いかけて間に合うどうこうの話ではない。


「嘘、だよね? だ、だってエリックですら二時間に一本汽車が走ってたんだよ!?」

「二時間に一本も大概だとは思うわよ?」


 呆れ顔で言うイニに、フィーはその場にへなへなと崩れてしまう。まさか初めての国外がこんなことになるなんて。


「ここもそんな悪いとこじゃねえよ。村まで行けば人もいるしな。後、飯が美味い。欠点を言えば何もねえってだけだな」

「全然励ましになってなーい!」


 やだやだと駄々をこねても意味がないことぐらい分かってる。でも、駄々ぐらいこねさせて欲しい。


「ったく……ここでダラダラしてても時間がもったいねえだろ? ほら行くぞ」

「ふぁーい」


 差し出された手を握りながら、すっかり顔がしょぼしょぼになったフィーはなんとか立ち上がる。


「これから先のこと考えたら先が思いやられるな」

「ちょっとそれどう言う意味よ」


 じとーっと睨んでやるも、ライアンはどこ吹く風。もう少し気遣いぐらいしてくれてもいいんじゃないですかーなんてことを考えるも、そんなことが無駄なことぐらいフィーだって分かってる。

 そんな二人の会話を眺めていたソフィアが、やれやれとでも言いたげに小さく息を吐き出す。


「あら、ソフィアは不満?」

「そういうワケではありませんよ。ただ、また賑やかになるのかと思っただけです」

「言えてるわね。まっ、向こうに着いたらゆっくりお喋りでもしましょ。私達二人でね」

「名案です」


 友人から提案された楽しい予定に、ソフィアは少しだけ表情を崩す。だが、それも前を歩き始めた二人を見て、すぐに顔を引き締めた。


「フィー様は初めてですし、途中途中で休憩を挟みながら行きましょう。それでも昼過ぎには問題なく到着できるでしょう」

「えーっと、ちなみに休憩しなかったらどれぐらいで着くんですか?」

「残念ながら昼過ぎですね」

「えっ」

「そりゃしょうがねえよ。休憩しないとフィーが疲れるだろ。そしたら歩くのが遅くなる。んで、結果的に昼過ぎって感じだな」

「うぇー何それ」


 露骨に不満そうな顔を浮かべるフィーに、イニがけらけらと楽しそうに笑う。


「急がば回れってヤツね。ほら、お喋りしてたらドンドン遅くなるわよー」

「……ホントに行くの?」

「はいはい。文句言わない。フィー、足止まってるわよー」

「ぬあああああ」


 そんな悲鳴ともつかない何かが、早朝のウエスト・ベルズ・ウッドの駅に響く。

 フィーの声に返事をするかのように、遠くから牛の鳴き声が聞こえた。

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