第8話 scarlet④
その光景を見届けてから、スズナはようやくソファに腰掛ける。
年期は入っているが、よく手入れのされた柔らかな感触に、スズナの表情が楽しげにゆがむ。
「おお……これはなかなか」
「ふふっ気に入っていただけたみたいですね」
「これはこれはお恥ずかしいところを」
ドロシアに見られたことが少しだけ恥ずかしくて、スズナは照れ隠しのようにキャペリン帽のツバに触れる。
「いえいえ。緋色の魔女様にそのような可愛らしい姿があったとは、夢にも思わなかっただけですよ」
「おや、緋色の魔女のお話を?」
「えぇもちろん知っていますとも。六人いる魔女の一人、赤の魔女が死んだ後、彼女の意思を継いだのがあなた様です。違いますか?」
「それはただの伝説ですよ」
肩をすくめるスズナに、ドロシアは分かっているとでも言いたげに微笑む。
「そうですね。正直、私も今この瞬間までは疑っていました。ですが、今目の前のあなたの持つ、まるで炎が取り憑いたかのようなその緋色の髪と瞳。おおよそ人が作りたもう姿には見えません。ただ、それだけです」
「……なるほど、そうですか。では、ジルフォードさんの慧眼に敬意を表して正直にお答えしましょう。確かにわたしはあなたの言う緋色の魔女で間違いありませんよ」
その言葉に、ドロシアの目が大きく見開かれた。この反応も随分久しぶりだ。
「やっぱりそうでしたか。まさか伝説をこの目で見られるなんて思いませんでした。長生きはするものです」
「いえいえ、わたしはそんな大層なものではありませんよ。わたしは緋色の魔女とは名乗っていますが、ただ長生きしているだけのバケモノです」
「ふふっ緋色の魔女様は謙虚なお方ですね」
「残念ながらただの事実を言ったまでです。……さて、この話はここまでにしていただけると嬉しいのですが」
「あぁそうでした。私としたことがすっかりお喋りに夢中になってしまいましたわ。それで、ライアンなのですが……」
「何か問題でも?」
スズナの言葉に、ドロシアは少しだけ言いずらそうに口を開く。
「迎えが来たことを伝えたのですが部屋から出てこなくて……」
「部屋から?」
「えぇ、いつものことではあるのですが、あの子には困ったものです」
杖に体重を掛けながらやれやれと首を振るドロシアの様子に、スズナはなるほどと立ち上がる。
「それでは行きましょうか。ここで待っていても会うことはできないようですし」
「うちのライアンが申し訳ありません」
「いえいえ。お気になさらず」
ぺこりと頭を下げて歩き出した彼女の後を進む。
ドロシアの突く杖が、コツコツと床を叩く音が心地いい。
窓から差し込む日は温かく廊下を照らしていた。
外に視線を向けると、先程までスズナに興味津々だった子ども達が楽しそうに遊び回っている。
「ステキな場所ですね」
心からの言葉だった。
「ふふっ、ただのぼろ屋ですよ」
「だとしてもですよ。どこも綺麗に掃除されていて、まさに清潔そのものです」
歩きながら、何となしに触った窓枠には埃一つない。そんなスズナの様子に、ドロシアは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ここの子ども達がいつも丁寧に掃除してくれるおかげですよ」
「なるほど……それだけ子ども達にとって、ここが居心地がいい証拠ですね」
「だといいんですけどねぇ」
そんなたわいもない話をしていると、やがてドロシアが一つの扉の前で脚を止めた。




