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Lacrima EX MACHINA  作者:
112/115

第8話 scarlet③

 このまま突っ立っていても仕方がないかと、ソファに腰掛けようとしたとき、視線を感じて動きを止める。

 視線の先では先程遠巻きで見ていた子ども達が、部屋の前でじっとスズナのことを見ていた。


「おやおや。君達、そんなに興味津々でどうしたのかな?」

「なあ、変な髪色のおばさん。俺を貰ってくれよ」


 一番前にいる男の子とが、ふいにそう言った。それを皮切りに、子ども達が僕も私もと近寄ってくる。

 あまりにも熱量のあるそれに、スズナは思わず圧倒されてしまう。だが、スズナは慈善活動をしにここを訪れたわけではない。だから、どれだけ心苦しくても断らなければならない。


「君達の気持ちは受け取った。だが、申し訳ないがわたしはライアン・カーライルという少年を引き取りにここへ来たんだ」


 その言葉に、子ども達が一斉に顔を見合わせた。おや? 何か変なことを言っただろうか。


「ねえ、赤髪の綺麗なお姉さん。ライアンって、あの?」

「あの、とは?」


 先程言葉を発した、ウサギのぬいぐるみを抱えた少女に訊ねる。彼女はぎゅっとぬいぐるみを強く抱きしめると、ポツポツと言葉を紡いでくれる。


「あの子、変なのよ。だって、しゃべりかけても全然返事してくれないし、いっつも難しそうな本読んでるの」

「そうそう。それに、いっつも部屋に籠もってるよね」

「……ふむ」


 子ども達の話を聞く限り、どうやら難ありの子らしい。なら、せっかくの機会だ。これから引き取る前に、どんな子かぐらいは情報収集をしていてもいいかもしれない。


「他にライアンについて知っていることはあるかな?」

「あっ、俺知ってるぜ! あいつ、いっつも部屋に籠もってるから何してるのか覗いてみたんだ。そしたら何してたと思う?」


 最初に声を掛けてきた少年が、にやっと意地悪そうな笑みを浮かべる。


「ほう、気になるな。何をしていたんだい?」

「あいつ、なんか機械の人形触ってんの! 男の癖に人形遊びしてんだぜ?」

「人形遊び?」


 飽くまでも推測ではあるが、どうやらライアンという少年は人間付き合いよりも、自分の趣味に没頭することが好きな子なのかもしれない。

 自分も昔はそうだったから、いわば似たもの同士。でも、だからといってライアンの心を開くことができるかどうかは別問題だ。


「なるほどね。他にも普段の様子を聞かせて貰えるかい?」

「え、あ、あぁ」


 まさか平然とした様子で返されるとは思っていなかったのだろう。少年はどこか驚いた様子で頷いた。

 おおよそこの手の子は、自分が有利になるために周りの評判を下げることがある。昔、スズナが医師をしていた時にも、そういった子がいた。

 ……将来苦労しなければいいが。


「あいつはそうだなぁ……基本飯の時以外は机に向かってるよ。外で遊んでるとこ見たことねえもん。でも、運動はできんだよなあー腹立つけど」

「そうかそうか。じゃあそれ以外で知ってることは?」

「知ってることって言われても……」


「では質問を変えようか。いつからここにいるかとか、何でもいい。知ってたりはしないかい?」

「あーそれなら三年ぐらい前かな? 院長が連れてきたんだ。俺がここにきた次の日に来たんからよく覚えてるぜ」

「そうか。すると君はその頃からの付き合いなんだね。確かに、同じタイミングで入って来た子がいなくなるのは寂しいか」

「なっ! そんなんじゃねーし!」


 少年の顔が真っ赤に染まる。その様子が年相応で、スズナはくすくすと笑ってしまう。


「そうかそうか。どうやらわたしの勘違いだったみたいだ」

「お、おう……分かりゃいーんだよ!」


 ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた少年に、スズナはまた笑ってしまいそうになる。でも、ここで笑ってしまえば彼はまた機嫌を損ねてしまうだろう。


「さて、改めてわたしはライアンという少年を引き取りに来た。ある人から頼まれてね。だから、君達の期待には応えられないんだ。すまないね」


 スズナがそう言って微笑むと、子ども達は顔を見合わせる。やがて一人、また一人とこの場を後にして行き、最後は誰もいなくなっていった。

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