10 『久しぶり』
白い光が瞬き『鉄血の砦』が木っ端微塵に吹き飛ぶ映像が頭に流れ込んで来た。運が良すぎるだろシルフィア。
とりあえずはもう『顕現』で良い聖遺物が来るのを祈るしか無い。最悪の場合は錬金して新しいスキルを作るか。
『顕現』を使用する。目の前の空間に亀裂が入り、中から豪奢な槍が現れた。
【『顕現』により聖遺物レプリカ 『誤認の槍』
放たれた瞬間ありとあらゆる人物から認識されなくなる】
使えるけど今は使えねえ。
ギルドを何とかして守り抜かないと。空を見上げる。黒い雲がギルドの真上に集まって来ていた。中では雷が煌めき、今にも落ちて来そうだ。あれがシルフィアの呼び出した聖遺物かよ。くらえばひとたまりもない。
どうすれば逃げ切れる。その方法を考えるしか無い。このままだと後数十秒で負けだ。俺は『転送』で逃げられるけど――ギルドは。
いや待て、ルチルの銅像さえ守りきれば良いのか。最悪ギルドは破壊されても負けにはならないのか。陣地取りと言っていたから不安は残るが、守る対象さえ守れれば騎士としての役目は果たせているという事か? ならばルチルの銅像と俺が一緒に『転送』を使えば逃げ切れるかもしれない。
空の雲は黒みを増していき、雷の煌めきは激しさを増していく。大丈夫、まだ間に合う。
ギルドの扉を蹴破り、飛びつくようにルチルの銅像に抱き付く。迷わず『転送』を発動させる。
ここに移動して来るにあたって随分と使い勝手の良いスキルを貰ったものだ。
気がつくと俺はベランダに立っていた。腕にはルチルの銅像がある。遥か前方の空には黒い雲がかかっていた。光の塊が、轟音と共に真下に落ちた。激しい衝撃波が辺りの家のを吹き飛ばす。爆風に乗って木材やレンガが飛び散った。弾丸のようなスピードで端材が突撃してくる。あんなのに当たったら間違い無く身体は貫かれてしまう。咄嗟にしゃがんで木片などを避けた。だけど、目の前の窓ガラスが風で割れ、ガラスが降り注ぐ。
「ちくしょう!」
ルチルの銅像に馬乗りになる事でルチルが傷つく事を避ける。こんなの見られたらルチルに殺されちまう。俺の肩や頬にガラスがかすってしまったが、ルチルは無事だ。傷口から血が垂れる。熱を持っていてジンジンする。かなり痛いが戦いに支障が出るほどじゃ無い。
ルチルの銅像を家の中に隠し、俺はベランダから飛び降りた。『鉄血の砦』は全壊しているので、シルフィアがあの場へ確認しに行くことは確かだ。
その間に『鉄の心』を探し出してアルミラの銅像を破壊するか。でも場所も形も分からない。
今から『鉄血の砦』まで戻って、ノコノコやって来たシルフィアに『誤認の槍』を背後から投げつける方が手っ取り早いか。
そうだな。そうしよう。『鉄血の砦』まで『転送』で移動する。破壊された家の影に隠れて様子を伺っていると、シルフィアは血眼になって『鉄血の砦』の瓦礫を漁っているのが見えた。
「アレン君どこ!? 聞いてない! あんなギミックがあるなんて知らないよ!」
シルフィアは傷だらけになりながらも探すのを止めない。ギミック? あれはシルフィアの聖遺物による技じゃ無いのかよ。
「おいシルフィ――」
言いかけて、声が詰まる。
シルフィアの上空。雲が晴れ、日が射している。そこに一人の男が浮いていた。人を馬鹿にしたような薄ら笑みを浮かべる金髪の少年。俺が彼と会ったのは一ヶ月前の入団式の日。
サイケルという貴族の少年がそこにいた。彼は一瞬で消え――シルフィアの隣に現れた。
「おいシルフィア避けろ!」
サイケルの腕は雷を纏っている。あれで掴まれたらひとたまりも無い。丸焦げだ。俺は叫ぶと同時に『誤認の槍』を投げる。
シルフィアが俺の声に反応して振り返った。
「その声はアレン君!?」
「馬鹿! 隣見ろ!」
サイケルは歪んだ笑みを浮かべながらシルフィアに掴みかかる。シルフィアはサイケルに気付くなり顔を蒼白にさせた。
間一髪のところで『誤認の槍』がサイケルの掌を貫く。
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
『誤認の槍』は燃え尽き、光となって霧散した。サイケルは片腕を抑え、苦痛に顔を歪めていた。垂れた血が地面を湿らす。
その間に俺はシルフィアを連れてサイケルから距離を取る。サイケルの目的が分からない現状で『転送』を使うのはまずい。そしてサイケルの『転移』ならすぐに追いつかれる可能性もあるから出来るだけ近くにいたい。
「ああああああああああ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいい!!」
サイケルは半狂乱になりながら俺たちの方を向いた。一度真顔になり、そして笑った。まるで痛みを忘れてしまったかのように。不気味に笑っている。
「やあ、久しぶりアレン。あれから僕は大変だったよ。一族から縁は切られるは、盗賊に襲われるは、恨みの対象にされるはね。本当に君に負けてから大変だった」
サイケルは自分の身体を抱き締め、苦しそうに語る。
「本当に死にたいと思ったよ。だけどね、死ねない理由があったんだ」
サイケルは声を高くして楽しそうに言う。そして、冷徹な瞳を俺に向けた。
「君を殺したくて殺したくて――――君を殺すまでは死ねなかったんだ。そんな時だね、魔族と出会ったのは!」
サイケルは抱いていた腕を大きく開き空を仰いだ。こいつは完全に壊れてしまったのか。
「見えるだろ? この紋章、魔族の証だよ」
サイケルは舌を出し、そこに描かれている紋章を俺たちに見せつける。
「ちょいと騎士ギルドが集まる集会があると聞いてね、新人を潰してこいって命令されたんだ。まさか君たちと会えるとはね。運が良い」
サイケルが魔族と契約したって事か? それで対立している騎士ギルドの芽を潰そうということ? でも、どうやって……
「まあ死んでくれ。そうなれば僕はもう何でも良い」
楽しそうに、嬉しそうに、サイケルは言ってみせた。




