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ピースキーパー  作者: 夜中かな
第一章 居場所を得るために

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第3話 最初のわがまま

 ……夢を見ていた。私がお母さんと一緒に暮らしていた頃の夢。私がパンと干し肉を美味しそうに食べたせいで、翌日の朝食が山盛りのパンと干し肉になっていた。


 ……そんなことあったっけ? お母さんは料理上手だ。私の師匠でもある。そのお母さんがこんな大雑把な食事を出すなんて……。


 ——ぽんぽん——。


 肩に衝撃を感じる。そして……ハッ!として飛び起きた。


 あたりを見渡す。エディが私の前に座って、じっとこちらを見ている。私は急いで凛とした表情を湛(たた)え、居住いを正して見せた。


 エディの目が徐々に半眼になり、ジト目で口の端を拭くような動きをする。


 意味がわからずに口元を触ってみると、べとりとした感触がした。


 不覚、これはお姉さんポイントマイナス二点だ。このままではまた子供扱いされてしまう。


「お前さんの取り扱いが決まったぞ、自由だ」


 エディが真顔に戻って、話を切り出した。


「行くところがない」


 ゴシゴシと口周りを袖で拭きながら答える。そもそも私の取り扱いってなんだろう? このおじさんが引き取り人とか、私が売られる事を知ってて助けてくれたわけではないのだろうか?


 エディが真顔のまま続ける。


「じゃあ、こっちで新しい孤児院を……」


「いや」


 私はその孤児院に預けられ、売り飛ばされたのだ。たとえ違う場所だとしても、もう信用できない。


「じゃあ役所で里……」


「いや」


 またよく知らない人のところに預けようというのか。そもそも私は大人だ。断固として拒否する。


 困ったような、呆れたような。

 なんとも言えない表情を浮かべるエディ。


「じゃあ、お前さんどうする気なんだ? 行くところがないんだろ?」


 ……そう、私には行く宛がない。ついでにお金も、ひとりで生きていけるだけの力もない。でも、私にはひとりだけ……行く宛と、生きていく力を与えてくれそうなアテが、たった今出来たのだ。


 エディをじっと見つめた。想いを察してくれたのか、ため息を吐きつつ言葉を続ける。


「あのな、俺はお前さんの親でも保護者でもない。街まで連れて行く程度なら協力してやれるが、一緒に住むとまでなると、俺になんのメリットがあるんだ?」


「なんでもする」


 少し胸を張って答えた。お母さんから料理については徹底的に習ったのだ。ついでに家事全般も一通り出来る。なんの問題もないはず。だけど、エディから返ってきた答えに、私はショックを受けた。


「馬鹿な事を言うな。あと、簡単になんでもするなんて言うんじゃねぇ」


 馬鹿な事なんかじゃない。お母さんも美味しいって褒めてくれた。これだけは本当に自信があったのだ。


 エディは続ける。


「流石にわかってると思うが、俺の仕事は人殺しみたいなもんだ。危険な仕事だし、明日には死んでるかもしれないんだぞ?」


「じゃあ、一緒に戦う」


 料理がダメなら一緒に戦って、役に立つところを見せるしかない。


「ダメだ」


 即答されてしまった……。


「なぜ?」


 私は聞き返した。もうそれくらいしか、出来る事が思い浮かばないからだ。


「なぜも何も……もう一度言うぞ。俺の仕事は人殺しみたいなものだ。本当に人を殺す事の意味がわかってるのか?」


 エディが真剣な眼差しで見つめてくる。私には、それが少し怒っているように思えた。


「相手が悪人だろうが、仕事上の敵対関係だろうが……殺す相手にも家族なり仲間がいる」


「殺せば、誰かに恨まれる。そういう恨みは、いつか自分に返ってくるんだ」


「日常ですら落ち着かない。酒場でポーカーをやっている最中に、後ろから撃たれる。そんな事があり得る仕事なんだぞ?」


 エディの目が、少し悲しそうな色を帯びる。


「保安請負人なんてやるもんじゃない」


「……だから。俺は、お前が一緒に戦う事を認める訳にはいかないんだ」


 保安請負人がなんなのかはよくわからなかったけど、人を殺すようなマネをして欲しくないことだけはわかった。


 ……わかったけど。


 私には他にしてあげられる事がない。私は大人。だから本当はひとりでも生きていくべき。それはわかってる。人に頼るのはきっと甘えなんだろう。


 ……だけど。


 だけど、もうひとりぼっちはイヤ! 大好きだったお母さんと別れて、預けられた先の孤児院では感情がないと気味悪がられ、居場所はなかった。そして騙されて売られ、もう終わりだと思ったところで、やっと普通に接してくれる人と出会えたのだ。


 私に次はない。なぜだかそう思えた。泣きそうになるけど、ぐっと堪える。これ以上エディの前でみっともないマネは出来ない。


 どれくらい経っただろうか……じっと見つめ合っていると、エディの表情がふと柔らかくなった。


「わかった。一緒に戦うとかは一旦置いておいて、俺の住んでいるところにしばらく居候させてやる。これでいいか?」


 捨てられるかもしれない。その恐怖に怯えていた私には、エディの言葉を理解するのに少し時間が掛かってしまった。そして、ようやく一緒に居ていいんだと実感した時。



 ——私は、久しぶりに笑った気がする——。

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