家族団らん…?
お昼寝から覚めると日がだいぶ落ちている。そろそろ支度して食堂に行かなくては。
「お目覚めですか、お嬢様」
「ええ、ハンナ。起きたわ。今日はみんなと一緒だからそろそろ支度しなくちゃね」
心得たとばかりにうなずかれ、ディナー用のドレスと履き心地の良い靴に着替えさせられる。
ブラシで髪をとかしてもらっているとハンナが伺うように聞いてきた
「髪型いかがいたしますか」
「うーん、緩くまとめるくらいでいいわ」
「はい、畏まりました」
倒れる前はいつもきっちりしっかりお団子にまとめて、キリキリしていたなぁ。
せっかく長くてきれいな髪なのにもったいないってハンナが思っていたのは知ってる。
王太子の役に立ちたくて生徒会の書類の作成や王太子の雑務を率先してやっていた時に、
邪魔だったのもあったが、仕事できる女っぽく見せたくて、おろすことはほとんどしなかった。
おまけにきつい化粧と眼鏡をかけていた。
だから周りにもアイリーンは眼鏡ときつめにまとめた髪型であると定着してしまった。
この二つのアイテムコンボできつい顔立ちが余計きつく見えてしまい、
側にいるヒロインちゃんがさらに可愛らしい女の子に見せていた。
いわゆる癒し系ってやつですね、はい。
今はもう自由だからぎゅうぎゅうにまとめることはしないよー。
あの髪型のせいで頭痛もひどかったしね。
ハンナは倒れてから私が髪の毛をずっとおろしていたり、まとめても緩くかわいらしくしていたので、上機嫌だ。
そうだ、領地に行く間に、かわいらしい髪留めや、本なんか買いに行ってもいいかもなー。
車いすならぬアベル椅子が誕生したから、買い物も行けそうだし。
「できましたわ」
「うん、かわいい。いいわね。ありがとう」
お礼を言うとハンナが渾身の出来な顔でうなずく
では、久しぶりに家族の団欒に行きますか。
ドアを開けるとアベルが立っているので、抱っこのポーズで腕を伸ばすと
心得たようにまたすっと縦抱っこしてくれた。
あーらくちん。
さっきは執務室と自分の部屋の間だけだったが、食堂に向かうにつれてすれ違うメイドや侍従も多くなり、アベルに抱かれる私を見て、皆固まる。
そーよねー、初めて見るとびっくりよね。
でもこれデフォにしたいから慣れてね。
****
食堂についたので、さすがに入る前におろしてもらってからドアを開けるとすでに私以外の家族がそろっていた。
「アイリーンちゃん、大丈夫なの?」
お母様が心配そうに声をかけてくれる。
「ええ、今日は調子がいい方なので、久しぶりに家族で食事をとりたいなと思いましたの」
「無理はするなよ」
「お姉さま大丈夫?」
お母さまに続き兄と妹も心配そうに声をかけてくれた。
ちなみにアイリーンは3兄妹で兄と妹がおり、真ん中長女だ。
兄のクラウドはすでに学園を卒業しており成人して公爵家の後継ぎとして仕事をしている。
妹のシャーロッテはアイリーンの一つ下なので学園の1年生だ。
兄が後継者だからこそ自分は王家に嫁いでも大丈夫と考えていたのだが。
それ以前の問題だった、と黒歴史を思い出す。
「先ほど旦那様の執務室で何か話していたようだけど、何かあったの?」
「ああ、それはあとで話す。お前たちにも知っておいてほしいからな。でもせっかく全員揃ったのだからまずは食事にしよう」
お母様が心配そうに伺ってきたがお父様がさらりとかわす。
そうそう、まずは久しぶりの団欒を楽しみましょう。
久しぶりの家族との食事は、驚くほど穏やかで楽しいものだった。
これまでは、学園で習った勉強の予習復習や、残している生徒会の仕事、王太子の執務の手伝いやら「明日までに終わらせるべきこと」を頭の中で整理しながら、義務的に手と口を動かすだけだった。
たわいもない会話なんてしているどころではなかったのだ。
けれど今日は、家族の話をゆっくりと聞くことができた。
お父様が視察に出た時の面白い出来事やお母様が婦人会で仕入れてきたはやりのお菓子やファッション、妹の学園での出来事など、楽しくて有意義な団欒であった。
(こんな時間を、ヒーローのために無駄にしていたなんてね)
なんとゆうか人生無駄にしていたなあ、と改めて感じてしまった。
もう絶対あんなに頑張らないと心に誓う。
食事が終わるとお茶をサーブしてもらうとお父様が信用のおけるもののみ残して使用人を下がらせた。
ハンナとアベルは残っている。
彼女たちだけではなく執事や侍女長、各家族の専属侍女、侍従とそれぞれの護衛騎士も残っていた。
公爵家の情報共有大事。
パタン、とドアが閉まると同時に、お父様が切り出した。
「……アイリーンが、婚約者候補を辞退したいと申し出た」
部屋にいた全員が石像のように固まり、一斉に私を凝視する。
「本気か…」
最初に我に返ったのは、兄のクラウドだった。
「アイリーンちゃん、王家に申し入れたら撤回できないかもしれないのよ。冗談じゃすまないの。後悔はないの?」
お母様は青ざめて涙目だ。
「お姉様、ここは夢の世界じゃないのよ、目を覚まして!」
シャーロッテに至っては、私の肩をつかんで揺さぶってくる。痛いよ、シャーロッテ。
「本気だし、冗談でもありませんし、目は覚めていますよ」
「やはり、医者を…」
お父様、まだ言ってる。あれだけ説明したのに。
かつてのアイリーンがどれだけ王太子に執着していたのか…と遠い目になってしまった。
「本気だし、冗談でもないし、目も覚めています。医者も結構です。ほんとのほんとの本気です!」
叫ぶと、ようやく一同が落ち着いた。
「ちなみに理由は何だい?」
クラウド兄様が探るような視線で問いかけてくる。
「体調不良ですわ。歩くのもままなりませんからね」
「それだけか?」
「そうよ、それ以外に何があるの?」
さすがにお見舞いどころか手紙一つ来ないので、とはもういいたくない
「…えっと…あの、光属性のあの方のせい、とかは」
いいづらそうにシャーロッテが聞いてきた。
「ああ、そうね、それも理由の一つね。わたくし以外の方で殿下をお支えする方ができたのも大きな理由になりますわね」
今度は一同、同情の目でアイリーンを見つめる。
だから同情すんな。
「こほん、…とにかく、大きな理由は体調不良です。こんな状態でいつまでも候補の座に居座るのは、厚顔無恥というものです。公爵家が後ろ盾になって、光属性のあの方を早く開花させるほうが家門としても最適解かと。今のわたくしは何もできないただのか弱い令嬢ですから」
「ぷぷっ、か弱いって」
とりあえず妹の頭に拳固を一つ。
「その件だが、エリーゼ嬢の後ろ盾に我が公爵家が立てば、お前に口さがない者たちが出てくるが良いのか?」
「言わせたいものには言わせておけばいいのです。グーズラ公爵家やロマーノ侯爵家がのさばるよりましですわ」
あいつらが王太子妃の座を射止めたら、間違いなくこちらに牙を剥いてくるだろうな。
令嬢たちが騒ぐだけならいいけどグーズラ公爵もロマーノ侯爵も腹黒だし、
王宮と縁づいたとたんうちの家門に対して冤罪攻撃やらかしかねないわ。
「わかった。お前がそれでいいというなら私たちに異存はないよ。ただエリーゼ嬢の後ろ盾になることはすぐにはできないな。他の家門からの意見も聞かなくてはいけない。そこは私情を挟めずきちんと問題がないか確認してからだ。それでいいね」
「はい、お父様に一任いたしますわ」
お母さまもお兄様もうなずく。
「ねぇお姉様、その…婚約者候補から降りるのはいつ決めたの?昨日今日ではないのでしょう?」
シャーロッテが、言いづらそうに口を開いた。
「昏睡状態から目覚めてすぐくらいよ、それがどうかして?」
「うーん、実はね、「学園で、お姉様の悪評が出ているの。エリーゼ嬢の持ち物がなくなったり、無視されたり。落雷の前からあった噂だけど、今も続いているのよ」
シャーロッテは少し顔を曇らせて私を見つめる。
「お姉様のことだから学園に通わなくても子飼いの令嬢にやらせているのかしらって思っていたのだけど…どうやら違うようね」
「確かに事故の前の嫌がらせは、一部わたくしが原因のものもあります。ですが学園を休んでからはわたくしではないわね。先ほども言った通りペンも持てないので手紙も出せない状態ですもの」
「きっと第二候補のグーズラ公爵令嬢か第三候補のロマーノ侯爵令嬢あたりが裏で手を引いているのだと思うわ。そう…やはりこのままだとよくないわね」
いや、このまま放置したら私だけでなく家に迷惑がかかってしまう可能性もあるし、まずいわね。
お兄様やお父様は、おまえ、そんなことしてたのかってつぶやいているけど、
うん、やってた。なんかごめん。
「お父様、事故の前にエリーゼ嬢にしたことは、お詫びいたします。ですが、今も続く嫌がらせに、わたくしの名前が使われているなら、一刻も早く辞退の手続きをお願いします。それから、休学届と、別荘への療養の件もよろしく」
一気にまくし立てた私に、一瞬の沈黙の後、ようやく家族の反応が追いついた。
「療養って何? お姉様、学園休んで遊ぶ気なの? ずるいっ」
「あなた、療養に行くってどういうことですの!」
「情報過多なんだけど、ひとつずつ話せよ、もう」
「まあ、そういうことだ」
お母様、お兄様、シャーロッテ。三方向からの鋭いツッコミが飛んでくる。
が、お父様は説明責任を放棄した。
ごめんよお父様、あなたを差し置いて全部言っちゃった。
仕方なく、湯治の話を一通り説明する。
お母様はやはり一緒に行きたそうだけれど、全力で阻止するお父様の必死さがすごい。
シャーロッテも騒いでいたが、お前は元気なんだから学園へ行け。
「単位は大丈夫なのか」
「今期分はすべて取得済みです。出席日数もギリギリですが大丈夫なはず。だめならお父様…」
ちらっと上目づかいで微笑んでみる。
「不正はよくないですよ、お姉様」
だまれシャーロッテ。
「その辺も学園に問い合わせるが、アイリーンが大丈夫というなら大丈夫なんだろう」
「であれば、早々に湯治に向かった方がよさそうね」
お母さまの顔が曇っている。
あー、やっぱりお母様も気づいたんですね。
お父様とお兄様がお母さまの雰囲気が変わったことに不信がった
「何かあるのか?」
「いえ、ほらアイリーンは王太子妃教育を受けていましたでしょう?」
あ、とお父様とお兄様が顔をしかめた。
「確かに。なら婚約者候補を降りると言っても、王家がすんなり許可しない可能性があるということか」
「いや、ハイデン伯爵令嬢が光属性に目覚めたから、そちらと縁を結びたいと宰相たちからも話はあった。他の候補者も教育は受けているし、基礎だけなら、受けた令嬢は箔が付くと、縁談も引く手あまただ。陛下からは、時間を奪うお詫びも兼ねて公平に受けてもらっていると聞いている」
「…それなのですけど」
私はおそるおそる口を開く。
「どうやらわたくし、王太子妃教育、受けてなさそうなんですよね」
え、という顔で、お母様以外が私の顔を凝視した。
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