療養とかいてバックレと読む
前世であこがれていた長期温泉旅行がここで叶うなんて、実家がお金持ちだからこそ出来るワザ。
それに、実は闇落ちに至るシーンがこの後待っているのよね。
何分、ヒロインちゃんいじめをすでにやっちゃってた後なのでね。
みんなの前で王太子に断罪されるシーンがあったのを思い出したのよ。
2二年の最後の学園パーティー。アイリーンがわざとヒロインに飲み物をぶっかけて、ヒーローとその仲間たちに糾弾される。
テンプレのような、あるあるシーンだ。
みんなの前で恥をかかされ、一人で帰宅したアイリーンは、「怒られたのはあの子のせい」とヒロインの暗殺を企てる。
もちろん未遂で終わるのだけど、事件起こした令嬢の末路なんて終わってる。
馬鹿にしていた第二、第三候補の令嬢にもけなされてプライドずたずた。
さすがに殺人未遂まで引き起こしたアイリーンに対して父親も匙をなげた。
謹慎を言い渡され、婚約者候補からも辞退させるといわれて、ショックを受ける。
『家族も、一番近くにいた侍女も助けてくれない』
孤独の中で闇落ちして行方不明になり、再び現れたときには魔王様になっていた、という流れだ。
私はもう一か月も学園を休んでいるから、すでにストーリーからは外れている。
もちろんパーティーでヒロインに飲み物をぶっかけるつもりもない。
けれど、原作の強制力はやっぱり怖い。
それにアイリーンちゃん、いまだにヒロインいじめの悪評飛び交っているんじゃないかな。
私の不在中のいじめは、第二、第三候補あたりがやって、アイリーンの指示にしているんじゃないかな。
倒れる前なんて、うざいくらいに煽ってきたものね。
『アイリーン様、あの二人、友人にあるまじき近さでお話されていましたわよ、よいのですか?』
とかとか。
あれは今考えると奴らは悪役令嬢とヒロインの共倒れを目指していたんだな。
だから、せめて断罪パーティーが終わるまでは、王都から離れていたい。
休学は三か月が限界だけど、できる限りバックレていたいのよ。
そんな考えをよそにお父様は困ったように眉を下げて口を開いた。
「いや、だがアイリーン。やはり学園に行かないというのは、教育上よくないと思うぞ」
正論だ。だが聞かん。
「身体が悲鳴上げていて無理です。休みます。家で休んでいてもいつ直るかわからないので、療養行きます」
「しかし、それほど長く休めば、お前の体に重大な欠陥があるのではと勘ぐる輩が出てくる。最悪の場合、『傷物』扱いされる可能性も…」
「傷物扱い大いに結構。婚約者候補から外れる理由になりますし」
「いやだけど、お前には普通にお嫁に行って幸せになってほしいし…」
「あれほど、王太子殿下に執着した私が普通のお嫁さんになるのは厳しいのでは?とにかく、今はゆっくりしたいのです。療養に行きます」
「でも…」
「行・き・ま・す」
「もーおまえは勝手に何でも決めてしまって!大体療養って言ったって別荘でゴロゴロするだけだろう、ならば家で休んでいればいいじゃないか」
「……お父様。考えても見て下さい。わたくしが王太子妃降りるといえば、周りは疑心暗鬼になるでしょう。何も企んでいないということを知らしめるためにも物理的に王都から離れたいんですぅ」
「ああ、まあ、そのなんだ、確かになにか企んでるんだろうとは思う、な」
お父様、そこで本音出さないで。ちょっと傷つく。
「でしょう。だから出席日数も足りているからちょうどいいと思ったんですよ。わたくしなりにこれでも気を使っているのです。それに温泉効果ってすごいのですよ。自然治癒力アップだけじゃなくてお肌すべすべにもなるのですって。帰ってきたら元気になってるだけじゃなく、さらなる美しさも手に入れてきますわ」
「はあ、お前は全く、言ったら梃子でも動かないんだから…。仕方ない、許可しよう。それで、一人で行くつもりか?」
お父様はやれやれと首を振って、最終的に首を縦に振ってくれた。
けど、まさかお母様まで連れていかないよねって顔してる。
お母様も温泉大好きだから別荘に行きたがりそうだもんね。
でもお父様、お母様のこと大好きだから一緒にいくってなったら泣いちゃいそう。いや、それ以前にこの計画がつぶされるかもしれないな。
お母様には我慢していただくか。
「そうねぇ、お母様はさすがに家を長くは空けられないでしょうし…お兄様もお仕事がお忙しい時期ですものね。シャーロッテはそれこそ学園がありますでしょうし。…ハンナ一緒に行ってくれる?アベルも。3か月後には学園が始まりますから、それまでには戻るわ」
「もちろんです、お嬢様」
「御意」
二人ともいきなりな話なのに快く頷いてくれた。
よかった。1人はさみしいものね
特にハンナ、お肌すべすべの話のあたりで目が輝いていたからね。
大丈夫、ちゃんと連れて行くからね。
お父様もお母様と離れないですみそうだから安堵されているわ。
お父様の許可は得たし、これで心置きなく休めるわね。
これでしばらく悠々自適な自堕落生活よ。
お父様との話は済んだのでもうここに用はないわね。よし、撤収しよう。
「言いたいことは終わりましたので、これで失礼しますね。あ、今日は、お食事は家族みんなで一緒に取りたいと思います。その時にでも今の話をしてくださいな。わたくしは疲れたので少し部屋で休みます。では後程」
「お前はほんと自由奔放だな。わかった、休め。お前の言う通り療養の件は食事の時にみんなにも報告しよう」
来た時と同じようにカーテシーをして執務室を後にする。
そうだ、もう一つこれも言っておこう
「わたくしが婚約者候補から降りるにあたって、エリーゼ嬢を王太子妃に立てたいと思いますの。我がベルモット公爵家の寄り子ですし、当家が後ろ盾になり、ぜひとも後押ししてくださいませね。では失礼いたします」
お父様が何か言い返す前に、素早く扉を閉める。
光属性のヒロインだし、うちが後ろ盾になるのはきっと問題はないでしょう。
しかし、疲れたわ。やっぱり、今の私には体力がなさすぎる。なんだか自分の部屋へ戻るのすら億劫になってきたわ。
そうだ、せっかくなのでアベルを使おう。
「アベル、疲れた。抱っこして」
「御意」
この男、さっきから御意しか言わないわね
妙齢の淑女がはしたない命令したのに顔色変えずに返事するとか、従順だなぁ。
わんこかな?
まあいいや。夢のお姫様抱っこ堪能させてもらいましょう!
……と、期待した次の瞬間。
アベルは私をひょいと持ち上げると、あろうことか荷物を担ぐように、そのまま担ぎ上げた。
(おいっ、いくらなんでもこれは違う!)
「アベル、そうではないわ」
「……御意」
今度は肩に乗せられた。
(どうして、これなの?)
しかも、こいつ異常に身長高いから肩に乗せられたら視界が異常に高い。
地面が遠すぎて、もし落とされでもしたら死んでしまいそうだ。
「アベル、高すぎて怖い、位置をもう少し下げてよ」
「御意」
私が恐怖に震えて抗議すると、彼は冷静な声と共に私を「縦抱っこ」の姿勢に切り替えた。
これもどうかと思ったけど、…あら、なんだかこれいいわ。
程よく筋肉のついた腕は、お尻を乗せてもびくともしない安定感がある。
私は決して小柄な方ではないはずなのに、彼は軽々と私を抱きかかえている。
うーん…無理はしてない気がするけど一応聞いておくか。
「重いかしら?」
アベルは首を横に振る。
「無理そうなら言ってちょうだい」
アベルは首を縦に振ると私を抱えてゆっくりと部屋へ向かってくれた。
特に苦痛な顔はされなかったし大丈夫そうね。
部屋に戻って、一息つくと、お父様への報告がうまくいったことに安堵する。
(なんだかうまくいってるじゃない?この調子で行けるといいけど、あとは王家がどう出るかよねー。ま、賽は投げたわ。今日はここまでね。)
「ふぁぁ。疲れたわ、少し休むわね」
ハンナに声をかけて夕飯までお昼寝することにした。
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