最悪の不器用さの愛情
こみ上げる怒りを抑えるように、宰相に続けて質問を投げかける。
「閣下はいつから、クリスティナ様が神聖力をお持ちだと気づいたのです?」
「クリスティナが魔力を持たないで生まれたとき、かつて伝承で目にした神聖力のことが脳裏をよぎった。だが、当時の私はまだ確証がもてず、また知っての通り王妃の後始末に追われて調査を後回しにしていたのだが。…妻がなくなり、改めて伝承を調べたところ、神聖力を持つものは特有の刻印があることが分かった。報告によれば、クリスティナの首の後ろには、年々色濃くなる痣のようなものがあるという。調べれば調べるほど、神樹の番人としての彼女の姿が重なっていったのだ」
「教団のことは…?」
「神聖力について調べていると、同じ軌跡を辿る不穏な集団の存在に突き当たった。奴らの真意を探るべく影を忍ばせたところ、教団が闇を信仰していることが判明したのだ。そこからは片時も目を離さず監視を続けていたのだが……。ついにクリスティナの拉致を画策するまでに動き出していたと知って、彼女を隠すほかないと思い詰めてしまった」
「クリスティナ様はご自身の力のことはご存じないようですね」
「ああ、何も知らず幸せに暮らしてほしかった。ただ方法は間違ってしまったが…」
「お伝えには、ならないのでしょうか?」
私の問いかけに、宰相閣下もフェリクス様も、苦虫を噛み潰したような難しい顔で沈黙した。
(そうよね、悩むわよね)
『実はあなたは世界を滅ぼせる力を持っていて、私はそれを隠すためにあなたを死んだことにしようとした』
なんて、聞かされても はぁ?の一言だ。
私だってどう伝えればいいか見当もつかない。
けれど、今までの話と閣下の顔を見て、私は確信した。
この人はただ、最悪の不器用さで娘を愛していただけなのだ。
「閣下。貴方の愛情は、あまりに独りよがりで伝わりにくいものでした。ですが、その不器用な献身を闇に葬ったままにするのは、あまりに不憫ですわ」
一呼吸おいて、私は宰相に断言した。
「まずは、閣下の愛情だけは伝えた方がよろしくてよ。クリスティナ様のためにも」
閣下の不器用な人生は前世を思い出す前の私みたいだった。
「実はお恥ずかしながらわたくしもつい最近まで忙しさにかまけて家族との仲を疎遠にしておりましたのよ。閣下と同じように公務…いえ自分自身の勝手な都合ばかりを優先して。ですが、このように時間ができ距離を縮めてみれば、家族は皆、わたくしを案じ、愛してくれてましたの。わたくし、ものすごく後悔いたしましたわ。もっと早くこの温かさに気づくべきだった、と」
「アイリーン嬢……」
私が少しおどけてそういうと、閣下の目元が微かに潤んだように見えた。
その時、応接室の扉がハンナによってそっと開かれた。
「…お父様」
そこに立っていたのは、ハンナの他にもう一人。
戸惑いがちな表情を浮かべていたクリスティナの姿があった。




