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フラグを折ったはずなのに、別なフラグの予感

「アイリーン嬢。……君は変わったな」

ふいに投げかけられた言葉に、私は口元のティーカップを止めた。

「それはどういう意味ですの?」

「なんだか、いままでの君とは違う感じがして。ああ、その悪い意味ではないんだ。ただ…君はずっとエルヴィンを追いかけていただろう?なのに、今の君はエルヴィンのことを一言も口にしない。だからつい…」


あーそうだよね。

そういえば、婚約者候補からおりること、フェリクスに伝えていなかったな。

自滅して、魔術が使えないことを理由にするはずだったけど…。

魔石の力とはいえ目の前で普通に魔術が使っちゃったしなぁ。

変な誤解を招くのも面倒だし、ここは“恋心そのものが消滅した”と正直に話した方が良さそうね。


「わたくし、エルヴィン殿下の婚約者候補からは降ろさせていただきますわ。もう殿下には一ミリも興味がありませんの」

「…………は?」

フェリクスが、フォークを浮かせたまま硬直した。

隣でクリスティナも「えぇっ!?」と声を上げ、フォークに刺さったタルトを落としそうなっている。


「興味がない……? あんなにも必死だったのにか?」

「ええ。熱が冷める時というのは、案外あっけないものですわね。今は、どうしてあんなに盲目的に追いかけていたのかしら、と自分でも不思議なくらい」

「どうして急に…」

「そうですわね、体調を崩して以来、今までのことを振り返る時間ができたのが大きいかしら。あれほど頑張っても殿下はわたくしに微塵も心を開いてはくれませんでした。それに気づいてしまったのです。ですからもう諦めようと決めましたの。それに、殿下にはエリーゼがいらっしゃるでしょう?」


私がその名を出すと、フェリクスは少しだけ眉をひそめた。

「…だが、彼女はまだ光魔術も不安定で、公式に認めるには少々厳しい状況だぞ」


「いいえ。お二人は結ばれるべきですわ。もともとわたくしと殿下は血が近すぎますもの。それをわたくしの分をわきまえない恋心で、皆様にご迷惑をおかけしていただけなのです。ですが熱が冷めた今、そのことがよぅーくわかりましたの!」


私はここぞとばかりに胸を張り、一気に畳み掛けた。

「お二人が並んだ姿は、とても絵になりますわ。あのお二人こそが、この国の希望ある、"真実の愛"ってやつなんですのよ。おほほほ!」


我ながら完璧なセリフだわ!

これで将来の断罪フラグはポッキリ、いや、粉砕されたはず。

清々しい気分で高笑いしていると、フェリクスはじっと私を見つめていた

そして

「…本気なんだな。エルヴィンを諦めるというのは」

再度問いかけた。


「ええ、もちろん。すでに陛下には、我が父ベルモット公爵から辞退の旨をお伝えしているはずです。エリーゼが光魔術を使いこなせるようになれば、晴れてお二人の婚約が公表される手はずでしょう。それまでは他の候補者たちの手前、公にはできないでしょうけれど。ですから王妃様や殿下にはまだ伏せられているかもしれませんね。ですがわたくしは一足先に、自由の身にならせていただきましたわ」


本当は王妃様からの面倒な追及を逃れるために秘密にしてるだけですがね。


すると、フェリクスは深く溜息をつき、手元のティーカップを口に運んだ。


あ、フェリクス的にはこれで自分の失恋も確定しちゃったわよね。

エリーゼとエルヴィンが正式に婚約しちゃえばエリーゼに告白どころか恋心を持つことさえ許されなくなる。


辛いよね。ごめんよ当て馬1号。

でも事実は伝えあげなきゃいけないしな。


そんな風に彼を不憫に思って様子をうかがっていると、…さっきまで険しかったフェリクスの表情が、まるで憑き物が落ちたように、ふっと和らいでいく。

「そうか。なら、いい」

彼は、そう一言だけ口にした。


「あら、意外とあっさり納得してくださるのね? もっと『何をたくらんでいるんだ』なんていぶかしがられるかと思いましたわ」

「君がそこまで言うなら、そうなんだろう。それに俺もエリーゼ嬢はエルヴィンに相応しいと思っている。それにエルヴィンも彼女を慕っているからな」

フェリクス様はそこで言葉を切り、私から少しだけ視線を逸らした。

その横顔には、なぜか微かな安堵の表情、

いや、なんだかもっと別の温かい感情が混じっているように見えた。


「では、王都に帰ったら君が公にも殿下の婚約者候補ではなくなるわけだ」

「ええ、そうですわね。公にするにはまだ先にはなってしまいますが、わたくし、いち早く、ここで自分のやりたいように生きるつもりですの」

「…ふっ、そうか。それは、楽しみだな」

そう言って私に向けられた微笑みは、今までで一番柔らかく、そしてどこか嬉しそうで。


(ちょっと待って。なんでそこで嬉しそうに笑うの!?)


確かに大事な友人とその恋人に粘着する嫌な令嬢が、排除されたことはうれしいだろうけど。

なんていうか私そのものが自由になることがただ嬉しいという感情を表面に出している…気がする。


なんだか、フラグを折ったはずが、別のやばいフラグを立ててしまったような…?


気のせいでないことを祈るばかりだ。



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