クリスティナの事情
すみません、本日も1話更新です
食事を終えた私たちは応接の間に場所を移った、
お茶を用意してもらい、ハンナとアベル以外の使用人を下がらせ、防音の魔道具で遮断する
「これで、関係者以外には会話が漏れることはありませんわ。落ち着いたところで昨日の件について整理しましょう」
私がそう切り出すと室内の空気は一瞬で張り詰め、クリスティナは俯いて膝の上で手を握りしめる。
フェリクス様は先ほどの挙動不審ぶりが嘘のように侯爵家の嫡男として鋭い眼差しを取り戻した。
「まずは、なぜお二人があのような場所で襲われていたのかお聞きしても?」
私の問いに、フェリクス様が重い口を開いた。
「実は、父がクリスティナを北の修道院へ送ると決めたんだ。それも、幽閉に近い形で」
「まあ、それは…本の件が理由ですか?」
クリスティナは、静かにうなずく。
あー、結局ばれちゃったんだね。
「でも、それだけで北の修道院だなんてやりすぎではありませんか。あの場所で生き延びられる令嬢などまずおりませんわ。本の件は未遂でしたし、そこまでの罰を受けるほどでは……」
不思議に思って疑問をぶつけると、フェリクスが思いもよらぬことを口にした。
「彼女には、魔力がないからだ」
「えっ?」
「宰相家にとって、いや貴族全般にも言えることだが、魔力を持たぬ子は『瑕疵』でしかない。だから、理由なんてどうでもよくて、ただクリスティナを追い出すための口実でしかないんだ」
それを肯定するように、クリスティナは黙ったままだ。
「魔力がない…?それは、その…全く、ですの?」
フェリクスも、クリスティナも力なく頷いた。
「魔力なし」とは…ありえない話だが、二人の様子を見るに間違いないのだろう。
この世界で、ましてや高位貴族で魔力を持たないなんてどれほど過酷な境遇を強いられるか、想像するに難しくない。
それを考えると、クリスティナはかなり苦しい立場の令嬢だったに違いない。
彼女の儚さはそれを物語っていた。
それに、宰相の娘で侯爵家の令嬢が、なぜ王太子の婚約者として候補にあがらなかったか、理由もわかってしまった。
「だが、私は納得できなかった。父が動く前に、君の元へ彼女を預けようと夜陰に乗じて屋敷を脱出したのだが……」
フェリクスは悔しげに奥歯を噛み締めた。
おかしいわね。
原作の宰相はフェリクスだけではなくクリスティナにも愛情を持っていたはずよ。
(だって、お前たち を愛しているんだっていうセリフがあったもの)
それをエリーゼが調べてフェリクスに伝えて、二人の誤解を解いて親子の中を取り持つんじゃなかったけ?
エリーゼとのやり取りの中で、はっきりとクリスティナの身に何があったか明言されてないけど、なにかしら悲劇に見舞われた感じの描写だった。だとするとそれは宰相も予想外の事故だったはず。
なのに、北の修道院?
もし怪しい連中がいなくて、フェリクスも私に彼女をお願いすることもなくて、そのまま送られていたらそれこそ彼女は何もしなくても死んじゃうわよ。
うーん、原作から外れすぎて、宰相の性格まで歪んでしまったのかしら。
恋愛に関係ない部分はさらっとしか読んでなくて詳しく覚えていない。
(あー、もー、わたしのばかー)
そんな私の内なる絶叫を知らずにフェリクスが言葉を続ける。
「その道中、あの黒装束たちに囲まれた。最初は父の追手かと思ったが、奴らの狙いは最初から明確だった。俺を殺すことではなくクリスティナを連れ去ること。つまり、彼女そのものが目的だったんだ」
「クリスティナ様が、目的?」
私は思わず、隣で震える彼女に視線を向けた。
ただの“魔力なしの令嬢”をあんな精鋭部隊を差し向けてまで攫う理由がどこにあると?
「奴らは『妹を置いていけ』と言った。父の指示ならその場で連れ戻すか、あるいは始末すれば済む話だ。わざわざ生け捕りにして連れ去ろうとしたのは、明らかに別の意図を感じる」
フェリクスの言葉に、私の目の前でクリスティナがさらわれそうになった時のことが思い出された。
「確かに…、あの路地裏でもクリスティナ様をさらおうとしていた。あの時は無差別な貴族の子女の拉致かと思っていたけど、明確にクリスティナ様を狙っていた?」
それに、あの時も、そして昨日も、男たちが叩きつけた魔獣の核。
あの、禍々しい力を使って何かをしようとしているのは確かだ。
「アイリーン様。わたくし、怖いのです。わたくしのせいで、お兄様まで命を落としかけて……。わたくしさえ、いなければ……」
クリスティナ様の大きな瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちた。
うぉー、美少女の涙!これはスチルでも人気が出そう。
いやん、こんな時だけどごちそうさまです!
じゃなくて、こんなに健気でかわいらしい娘さんを泣かせるなんてどこのどいつよ!
「いいえ、クリスティナ様。悪いのはあなたを狙った連中と、実の娘を守ろうともしない冷酷なお父様ですわ」
立ち上がり、思わずこぶしを握りしめた。
ハンナがすかさず、「お嬢様、落ちいてくださいませ」とぴしゃりと言い放つ。
はっとして、クリスティナ様を見ると令嬢あるまじき振る舞いにびっくりしたのか涙は止まっていた。
フェリクスは苦悩の色を深めている。
「あ、いえ、取り乱しましたわ。申し訳ございません」
コホンと咳ばらいをして優雅に座りなおす
「いいですか。ここは公爵家の別荘です。誰が何と言おうと、私の客人を指一本触れさせはしませんわ。」
私は傲然と胸を張って言い切った。
本来、原作ではクリスティナはただの“不遇な妹”として、物語の裏側でひっそりと消えていく役どころだったはず。
けれど、今の展開はどう考えてもおかしい。
でもこれだけは言える
あの怪しい連中がこんな可愛い子に不埒な何かをしようだなんて許せない。
水に流して風で刻んであげなきゃ気が済まないよ!
宰相の真意は調査が必要として、でもまずは彼女の保護が優先事項ね。
「フェリクス様。しばらくは、ここでお二人を保護いたします。宰相閣下への釈明や、王太子殿下への報告……考えることは山積みですけれど、まずは体制を整えましょう」
「アイリーン嬢、恩に着る」
フェリクス様が、真っ直ぐに私を見つめて言った。
あ、またそんな信頼しきった瞳しやがって。
んもー、昨夜からのギャップが凄すぎてこっちの心臓に悪すぎ!
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