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フェリクス・フォン・ロドゴの回想② ~フェリクスside~

慌てて馬車止めまで探しに行くと細い路地で何やら不穏な気配が漂っていた。

飛び込んだ先にいたのは消えたはずのクリスティナと、見知らぬ屈強な男と怪しげな黒いロープを着ている女。

その怪しさに思わず攻撃魔術を展開しかけた瞬間、剣を握る男の威圧に思わず術式を止めた。

王太子の側近として魔術には自信があったはずなのに…


困惑する中、聞き覚えのある声が耳に届いた。

怪しげなロープの女はまさかのアイリーン・フォン・ベルモットだった。


クリスティナは彼女を恩人だと言った。

その言葉を信じ、その場は遅れてきた警邏に悪辣者を引き渡し、妹を連れ帰った。

だが、問題はそこではなかった。

妹から受けた報告が頭の痛い問題を引き起こしていた。

なんと、クリスは学園を抜け出し、本を盗もうとしたというではないか。

アイリーン嬢のおかげで未遂で終わったが事実は事実だ。

おまけに彼女をさらおうとした悪漢の一人は魔獣を扱っていたと……。

正直聞いた時にはどうしたものかと思った

これは自分だけで解決できるものじゃない。

できれば隠密に処理したかったが魔獣が絡んだ事件だ、そうもいかなくなった。

苦渋の決断で、本の件だけは伏せて父に報告した。

だが帰ってきた言葉は驚くものだった。


「…知っておる。魔獣が絡んだ事件だ。警邏からも報告が届いている」

父の静かな声には、冷徹な怒りが滲んでいた。

「全容をクリスティナに問い詰めすべて吐かせた。全く我が家の令嬢が盗みを働こうとしたなんて世も末だ。あいつには仕置きが必要だ。しばらく北の修道院へ送る」


耳を疑った。

北の修道院など、あそこは寒さも厳しく、野獣も多い場所ではないか。

魔力を持たず、元来身体の弱いクリスティナが一冬越せるような場所ではない。


「父上、あれはあくまで未遂です。公にはなっておりません!北の修道院などやりすぎです。せめて他の場所に……お願いです。考えなおしてください」

必死に食い下がるが聞き入れてはもらえなかった。

まさか父は、この機会に妹を切り捨てる気なのか…

魔力の全くない令嬢など使い道などなくお荷物であることは覆せない、が、実の娘だぞ。

父親としての情などこの男にはないのか。


急いで部屋で荷造りさせられている妹のもとへ向かった。

「ほんとに行くつもりか、お前の身体じゃ北の修道院に行くことは死につながる。ここで父上の言いなりになればお前の人生は終わりだ!」


「お兄様…、いいのです。もとはといえばわたくしが軽率な行動招いた結果ですから。それに…お父様はきっと…わたくしに生きていてほしくは…」

クリスティナは諦めきった目をして。自分の死を決意していた

そして父の本意も正しく理解していた。

だが、一緒に育った双子で唯一の妹。こんなことで失うなんて到底許せることではない。


あれからいく度となく訴えても父の考えは変わりそうもなかった。

けれど黙ってそんな場所にクリスティナをそのまま送らせるわけにはいかない。

「誰かに助けを…」

そう思っても自分たちには頼れる者がいなかった。

親戚もあてにはならない。

エルヴィンは王族だ。いえば手を貸してくれるだろう、だが国王陛下は?

宰相の父の決定を覆してまで、一介の令嬢に手を貸すとは思えない…

後は、だれかいないだろうか?

自身の友人やクリスティナの友人を思い出すが侯爵でこの国の宰相である父親から匿ってくれそうなものなどいない。

伯爵令嬢のエリーゼにも到底無理な話だ…!

考えろ、妹をむざむざ死地に追いやれるほど兄として腐ってはいない。


その時、脳裏を掠めたのは、数日前の出来事だった。

実家より権力もあり、さらわれたクリスティナを放っておくことをせず自ら助けてくれた彼女なら…もしかしたら…?


「逃げよう。ベルモット公爵令嬢ならきっとお前をかくまってくれる。その間に父の説得を試みるから!頼むから、生きてくれ」

「お兄様…」


半ば強引にクリスティナの承諾をもぎ取ると、父の目を盗んでベルモット公爵家と馬車を走らせた。

だが非情にもタッチの差でベルモット公爵令嬢はすでに療養に出ていた。


「やはり、ご迷惑をおかけするわけにはいきません。帰りましょうお兄様」

「だめだ、お前の命がかかっているんだぞ」


絶望が首を絞めかけた、その時だった。

切羽詰まった自分たちの会話を耳にしたのか、当主であるベルモット公爵自らが話を聞いてくれたのだ。事情をすべて打ち明けると、令嬢の居場所を教えてくれ、そこへの滞在も許してくれた。


その時は、まだ知らなかった。

安堵したのも束の間、その道中で何者かに襲われることになるとは。


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