当て馬2号さんの魔力講座
「わかるのですか?」
「少しだけ。あ、すみません、急にこんなこと言って気味が悪いですよね。ですが、あまりに特殊な感じがしてしまい、つい…」
「いえ、大丈夫ですわ。とても興味深く聞いておりました。確かに医師も魔力の流れが良くないといっておりましたわ。ですが治療法がわからず困っておりましたの」
「ならよかったです。失礼ですがレディは人間の持つ魔力についての知識は?」
「恥ずかしながらまったくですのよ」
魔力は普通にあるものって感じで使ってたからね。さすがにそこは深く勉強しなかったわ。
「そうですか…。では簡単にご説明いたしますと、魔力を持つものは本来なら魔力をためる『器』とそれを回す『回路』を持って魔力が体内を循環しています。そしてあなたの魔力は膨大で器も回路も巨大だ。ただ今のあなたの回路がなぜか遮断しているように見えるのです」
「破損、ではなくて遮断ですか?」
「ええ」
その目は、軽い好奇心ではなく、確信を帯びていた。フェリクスは続けて問いかけてくる。
「遮断の原因ですが、何かおもいあたることは…?」
「……学園で、少し事故にあいまして」
自滅したとはいいがたい、トホホ。
「なるほど。そのときの強い衝撃で回路が破損しそうになり、それを防ぐために自動的に遮断された可能性がありますね。回路が遮断されたために循環を失った膨大な魔力がそのまま器に溜まり続け、やがて器の容量を超えて溢れ出し、体内で魔力暴走を起こしかけた。そのため身体が自己防衛として、今度は器に魔力をためずに、無理やり排出している……といった状態でしょうか。おかげで暴走は抑えられたものの、今の器は魔力がからっぽで、上手く魔術が使えないどころか循環機能も働いてないため、それに慣れなくて激しく体力を消耗しているのではないでしょうか?まぁ、あくまで僕の想像ですが」
(つまり私の魔力循環がおかしくなったからそれに慣れなくて体力がなくなっているってことか…)
なるほど。リカルドの言っていることすごく腑に落ちたし、わかりやすいわ。
魔力がなくなったことはまぁいいとして、さすがにこれだけ体力がないと生活するのにきついのよねぇ。
しかし見ただけでわかるリカルドがすごい。CTスキャンアイもち人間ってか。
「…その話を聞くと、この長引いている体調不良が腑に落ちます。きっとあっている気がします。…あの、それで、正常に戻るまで、どれくらい時間がかかるか……なんて、分かりませんよね?」
「すみません、そこまでは…。ですが、閉じている回路がいずれ修復が終われば元に戻りますよ。そうすれば器も自然に魔力を溜めていくでしょう。ただそれがどれくらいの時間を有するかはわかりません。数か月か、あるいは数年かかるのか…」
「そう、ですか」
うーむ困ったなぁ。
数か月くらいなら原作の強制力から逃げる格好の口実になるけれど、さすがに数年レベルだと行き遅れ問題になっちゃう。
(魔術も使えない貴族令嬢なんて価値なしの世界だもの。何か手立てはないものだろうか)
そんな気持ちが、知らず知らずのうちに顔に出ていたのだろう。リカルドは私を諭すように言葉を続けてきた。
「けれど焦って無茶をしないようにしてくださいね。もし僕の推測が正しければ、今無理に魔術を使おうとすると魔力回路が歪みますので。先ほどの言ったように体内で魔力暴走が起きたら命の危険もありますし、回路が修復されるまでは自身の魔力はできるだけ使わない方が賢明です。過去にそのような症状を起こしたものが無理をして魔術を使い死に至ったとも記録がありますから」
やっぱりすぐには無理かー。
「魔力循環の文献に何か参考になるものってあるのかしら」
悩ましさのあまり、つい思考が口から漏れてしまった。
「レディ…?」
「あ、いえ! 命の危険があると言われれば諦めるしかないのは分かっているのですが、もし少しでも早く治せる手立てがあるのならそれに越したことはないと思いまして、つい…。独り言ですからお気になさらず」
「参考になるかどうかはわかりませんが…。魔力回路の研究をしている文献ならいくつか存在します。ただ、回路の破損についてはやはりすぐに治すのは難しいかと」
「魔力回路の文献ですか…」
へぇと感慨深げに答えた私に、リカルドは困ったように苦笑した。
「ええ、そう言った資料は図書館などにも所蔵されているものですから、その気になればいつでも閲覧可能ですよ」
「そうなのですね…。自分の体のこともですが、魔力そのものの仕組みにとても興味が湧いてきましたわ」
この世界で魔力は普通のことだったけど、異世界転生している身としては興味深いテーマだわ。
魔力の仕組みとか気になるかもー。
私が純粋な知的好奇心で聞いていると察したのだろう。
リカルドはほっとした表情を浮かべると、「参考程度ですが」と自らの知識を語り始めた。
「そうですね、僕が読んだ本で魔力回路を専門にしていた研究者の論文を拝見したことがあります。そこには、器と回路の『再構築』について書かれていました」
「再構築…」
「ええ。ただ、その研究者もあくまで机上の空論として遺した論文ですので、実際にそれを成し遂げたわけではありません。ですので、参考にもならないような不可能に近い話なのですが……。なんでも、魔力量を増やすために、体内の深層に眠っている莫大な魔力を強制的に目覚めさせ、従来の比ではない膨大な魔力を生み出すのだそうです。けれど、既存の器と回路ではその出力に見合いませんから、当然体内で魔力暴走を起こしてしまう。そこで、その膨れ上がった魔力に耐えうるだけの大きさに、器と回路そのものを創り変える……という術式でした。ですが、それを成し遂げた者は未だ歴史上にもいないと記録されています」
「不可能…」
なんだろう。何かが猛烈に引っかかる。 前世の原作を振り返り、そのキーワードを当てはめていく
(……あ、もしかして)
本来の原作の流れなら…私は断罪の絶望で魔王へと闇落ちするはず。
ただ、魔王になる前のアイリーンは確かに王国で一番の魔力持ちだけど一国を滅ぼせるほどかというと、無理だろう。
だけど、魔王として更なるパワーアップしたアイリーンちゃんがいることを考えると彼女は何らかのきっかけで深層階に眠る莫大な魔力を目覚めさせたのだ。
その力は歴代の魔王に匹敵するくらいのものだった仮定したとして、だけど、深層階に眠っていた莫大な魔力が一気に覚醒すれば、流石の彼女でも制御しきれず、器も回路もそのものが修復不可能なくらい壊されてしまうだろう。
そこで魔力回路をその出力に見合った器と回路に再構築する必要があった。
原作でも断罪後、魔王アイリーンが再登場するまでには、一定のブランクがあったはずだ。
つまりは身体が魔王に作り替わる時間が必要だった、と考えれば辻褄があっているような気がする。
「どうかしましたか?」
(あ、しまった、考え込みすぎた)
「いえ、貴重なお話聞かせていただきましたわ。次の論文のテーマにでもしてみようかしら」
「ははっ。参考になったならよかったです。ですがこちらには療養に来ているのでしょう?まずはお身体を大事にしてください」
当て馬2号さん、いい人や…
そうよね療養に来てるんだもん。難しいことは考えない!たとえ行き遅れてもきっとお父様が何とかしてくれるはずだもん。
「レディ、先ほど魔術を使わないように、と申しましたが…もしどうしても魔術を使いたいとなったら補助魔力として魔石を使うことも一つの手ですよ」
「魔石ですか?」
「ええ。魔術を使うときだけ外部の魔石から魔力を補給する、というイメージです。まぁ万が一の場合の話ですので使わないことが一番ですけど…」
魔石の魔力を魔術変換に使う、ね。
簡単に使えるならいいかもな。後でハンナかアベルに買ってきてもらおう。
「ああ、しゃべりすぎましたね、お手元のお飲み物がカラだ。僕もそろそろ行かなくては」
「あの、ありがとうございます」
「どういたしまして。またどこかで」
当て馬2号はどこまでもさわやかに去っていった。
なんだよー、エリーゼが絡まなければ普通にいい人じゃない。
でも断罪メンバーの一人だから気をつけるに越したことはないな。
ま、なんにせよこれでチュースよ、当て馬2号
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