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当て馬1号 フェリクス・フォン・ロドゴとの遭遇

その声に反応したアベルが前に出て剣に手をかけた。


「まって、お兄様、違うの!」

クリスティナがあわてて仲裁に入る。


あー、うん、テンプレってやつでしょうかね…。

振り返らなくてもそのセリフで後にいる男性が誰かわかってしまった。

幸い、私はまだローブをかぶっているので身バレはしてないはず。

なんとかごまかして、穏便にすましたい。


「この方たちは、攫われそうになったわたくしを助けてくれただけなの。悪者はあちらに拘束している者たちです」


お兄様とよばれたそいつは、ちらりと奥に目をやる、が、

拘束された悪辣者に反応を示さず剣に手をかけたままのアベルとどう見ても怪しいローブ姿の女(わたし)に敵意をむき出しにしてきた。

いや敵意じゃなくて殺意かも。

振り向かなくてもピリピリとした空気感が漂っている。


「お前ら、クリスティナを離せ…」

お兄様とやらは魔術展開を始める。それに反応したアベルも剣を構えた。

穏便に…は無理そうだ。

ああ、全く…。思わずため息出ちゃうよ。

収拾をつけるには私から説明しないとだめそうよねー。


「誤解ですわ。ロドゴ侯爵令息様」

「その声は、ベルモット公爵令嬢か?」

「ええ、わたくしアイリーン・フォン・ベルモットですわ」

そういってローブをとって振り向くと

お兄様こと、フェリックス・フォン・ロドゴは嫌悪感あらわにした顔でこちらを睨みつけている。

こわっ。


「なぜあなたがここにいる?あなたは体調を崩して休学中と聞いていたが、元気そうじゃないか」

「いいえ、まだ体調不良は続いています。今日はたまたまですわ」

「ふん、嘘をついてまでエルヴィンの気を引きたかったのか。エリーゼは『あなたが体調を崩したのはお前のせいだ』と君の取りまきたちに責められて憔悴しきっているのに。それなのに彼女はあなたの体調を慮って泣いていたぞ。今度はクリスティナを使って罠でも仕掛ける気だったか?嫌がらせもここまで巧妙だとあきれ果ててしまう。」

あれ?怒っているのはクリスティナの件じゃなくてエリーゼのためですか?


隣でアベルがぼそっと「殺す」とつぶやく。


おお、魔術詠唱と御意以外の言葉初めて聞いたよ。

でも侯爵令息殺しちゃいかんでしょ。

目でアベルを抑えると彼はため息とともに一歩引いてくれた。

チッていう顔は見てないよ


「わたくしの休学の件は公爵家から診断書とともに学園に提出しており、正式に体調不良での休学の許可を得ております。エルヴィン殿下の気を引くためなどの嘘ではございませんし、気など引きたくもございません。エリーゼの件はおいておくとして、今回の件について、わたくしは無関係ですわ。たまたま学園に用があり、クリスティナ嬢の危機に遭遇して、護衛のアベルが彼女を助けた。それだけです」


うん、”クリスティナ送っていく用事”で学園に来たんだし、嘘はついていない。


「ほう、学園に用ですか。その割にはローブで姿を隠して、まるで人に見つからないようにしている身なりのようだが?まるで何か悪いことでもしに来た感じに見えてしまうがね」


「う、それはその、あまり目立ちたくなくて、ですね…」


まぁ実際、体調不良で休んでいるのに、買い物してお茶してって遊び気分で外出してたのでどうにも歯切れが悪くなってしまう。


「お兄様、失礼ですわ。アイリーン様がわたくしを助けてくださったことは本当です。わたくしが勝手に学園を抜け出して困っているところにアイリーン様と偶然出会い、学園まで送ってくださったのです。おろしてもらった瞬間、そこに倒れている悪賊な者たちに攫われそうになりましたが、そこからも助けてくださったのです」


クリスティナが毅然とした声でフェリクスを抑える。

おおーやるじゃんクリスティナ、

そうそう、本人が自ら誤解だと言い張る以上フェリクスはこちらを責める理由がない。

まだ疑うなら出るとこ出てやる。


「フェリクス様、クリスティナ様が嘘をおっしゃってないことはお分かりでしょう。それにわたくしに詰問なさるより、まずはそこな悪賊たちを衛兵に引き渡すべきではございませんか?」


フェリクスはしばらく私を睨んでいたが、やがて苦々しく息を吐き魔術陣をかき消した。

…殺意はまだあるけどね。


「…わかった。クリスの言葉を信じよう」

「ご理解いただけて結構ですわ。ではわたくしはこれで失礼します。何か報告やご用件があれば公爵家まで、と警邏にはお伝えください。アベル、帰るわ」

「御意」


アベルの手も剣の柄から離れる。

が、こっちの殺意も薄れてない。

けれど素直にうなずいたのを確認したので、問題はないだろう。

私は彼へ手を伸ばし、慣れた動作で安定の縦だっこをしてもらう。


フェリクスが目を見開いて固まっていたけど気にしなーい。

クリスティナは頬を赤らめているが少し慣れた様子だ。


まあ、とりあえず、フェリクスがいるなら、クリスティナの安全は確保されたし、

それよりハンナが一人でハラハラしてるよね。

早く馬車に戻らなきゃ。

アベルは私の意を察し、無言のまま馬車へと歩き出した。

全くフェリクスのせいで無駄に時間を取られちゃったじゃない。


…あ、

フェリクスにエルヴィンたちに内緒にしてっていうの忘れちゃったよ。


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