魔術剣士
倒したと思ったのも束の間、
魔獣は首から上を大きく振り回し、石槍をへし折ると、再びこちらへ突進してくる。
「土魔・地凍結」
足元の大地が凍りつき、魔獣の脚が固定される。
その隙にアベルは跳躍し、一閃すると魔獣のあの太い首が、あまりにもあっさりと宙を舞った。
ドサリ、と重苦しい音が響き、巨大な胴体が砂煙を上げて崩れ落ちた。
それを見たアベルは切っ先についた汚れを無造作に振り払う。
あんなに激しい動きの後だというのに、その呼吸は驚くほど整ってるし。
防御魔術で私を守りながら、攻撃魔術を繰り出すってさー、
この人、まじでやばいやつだ。
そしてやっぱりアベルは魔術剣士だったか…、というか、かなりのチートじゃん。
それにこの防御…、私が後ろにいるの完全にばれてるし、これあとで怒られるかしら。
そんなことを考えていると、
倒れていたトカゲ魔獣の傷口から鮮血ではなく、どろりとした赤黒い霧が溢れ出した。
それは瞬く間に巨大な死体を包み込んでいく。
魔獣はボコボコと不気味な音を立てながら、まるで最初から存在しなかったかのようにあっという間に溶けて消えてしまった。
後に残ったのは、魔獣の重みでへこんだ地面と、焦げ付いたような嫌な臭いだけ。
「消えちゃった…?」
アベルは消えた魔獣がいたところの安全を確かめるようにしゃがみ込んだ
そのとき、アベルの隙をついて、クリスティナを拘束している男が逃げるのが見えた。
やだ逃げられちゃう。
思わず、咄嗟に詠唱する。
「術式廻魔 風魔・風巻羈束」
私の足元に魔術陣が展開される
逃げる男の足元に風が手綱のように絡みつき、その動きを強引に縛り上げた。
「うっ」
胸が苦しい
思わず魔術展開させてしまったけどこれ以上は無理かも…
あっという間に魔術が解けてしまった
アベルが気づいて私のそばに駆け寄ろうとしたが、あいつに逃げられちゃう
「アベル、こっちは大丈夫だからクリスティナ嬢をお願い」
あ、苦い顔してる。
そんな顔してもダメよ、
「いいから、逃げられちゃう!」
「チィッ」
仕方なしにアベルが男の方に向き直る
「ひ、ひいぃっ……! 来るな、来るな!!」
焦った男がまた何か緑のボールみたいなのを取り出してきたが、それを投げる前にアベルが男に追いつき頭を地面にたたきつけた。
拘束から逃れたクリスティナはその場に座り込んでしまった。
(とりあえず…大丈夫そう、かな)
倒れている敵を素早く拘束したアベルは、まわりを見渡し、ほかに危険がないことを確認すると私の前に展開していた魔術を解く。漸く砂の障壁がサラサラと音を立てて崩れ、視界が開けた。
彼はそのまま立てないクリスティナをお姫様抱っこしてわたしのそばにやってきた。
クリスティナは、顔を赤くして、はわわって感じで照れているが、おとなしく身をゆだねているようだ。
胸がざわつく。
そこは私の場所なのに!
ふとそんな考えがよぎったが、瞬時に振り払う。
だって何かに執着するのはよくない。
闇落ちするような人間にはなりたくないのだから広い心を持たなくちゃ。
立てないレディに対して紳士的な態度は素晴らしいことよ、と思い直した。
とにかく、クリスティナが無事でよかった。
ほっと一息をつく。
気になるのは、彼女はなぜお姫様抱っこなのだろうか…、私はお子様使用の縦抱っこなのに。
そこは突っ込んでおきたい。
だがしかし、もうすぐ学園が終わる時間になっちゃう…、私がいたら目立っちゃうじゃん。
まずはこいつらを衛兵に引き渡して、はやくばっくれなきゃ!
そんな風に考えていると…
「お前ら、俺の妹に何をしている!」
後ろから低い男の人の声が響いた。
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