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アベルの魔術

馬車に乗り込むと私は窓の外を眺めていた。

市井もっと楽しみたかったな、そう思っているとクリスティナも同じ思いなのか同じく窓の外を楽しそうに眺めている。

やっぱり箱入りで学園以外は外出なんてしてなさそうね。


こっそりクリスティナを眺めていると、先ほど思い出したフェリクスの言葉が気になった。

クリスティナはここにはいないといったフェリクス

宰相に投げかけたあの言葉の意味。

一コマだけ描かれたフェリクス…

フェリクスとクリスティナは双子で同じ顔立ち。


………あれ、待って?

あの泣き顔の一コマがもしフェリクスじゃなくてクリスティナだったら?

本来は今日本屋にいかなかったアイリーンと本屋で万引きをするクリスティナ


もし今日の出来事が他の人に見つかっていたら?

そうよ、実際店員が気づいていた。

ただの平民が侯爵令嬢の弱み握ったら?

それが裏社会に話が伝わったら??

しかも彼女はただの貴族令嬢じゃない、国の中枢にいる宰相の娘だ。

彼女を使ってこの国の政争をおこすことも可能だったりする、かも…

物語には描かれなかったけど、実は彼女は命を落とす出来事に巻き込まれたりしていた?


ひゅっと息が一瞬止まった


前世だって世間にはやばいやつがいっぱいいたけど、この世界だっていないと決まったわけじゃない。むしろ治安の悪さはこっちの世界の方が危ないんじゃない?

外国並みの治安の悪さだとすると、誘拐や強姦なんて当たり前だったり…

やばい、悪い方向に考えが飛ぶ。


ううん、大丈夫よ、だって見つけたのは私で、万引き事件はおきなかった。

未然に防いだはずだもん。

そーよ、これで恩を着せれば、フェリクスへのアイリーンへの態度も悪くならないかもしれない。

むしろなんかあってもかばってくれるかもしれないじゃない。

原作改変だけどわが身が大事。気にしないでおこう。



考えているうちに何事もなく学園の馬車止め近くまで来ていた。

よかった、考えすぎだったみたいね。

無事にクリスティナを学園の側まで送り届けられたのでおろすことにした。


「じゃあ、ここでおろすわ。大丈夫よね」

「はい、ここならこの道をまっすぐ行けば、すぐ学園の馬車止めにつきますので大丈夫ですわ。本当にありがとうございました。」


軽やかな足取りで学園に戻るクリスティナを見つめながらやれやれと肩の荷を下ろす。


ふとアベルを見るとなんだか警戒解いてない、なんで?


「どうしたの、何か気になることがあるの?」


そう聞いても首を横に振るだけ。


(一体どうしたん?なんでこんなピリついて………?)


ヤな予感じがしてクリスティナの向かった方向を再度みると、そこにいたクリスティナが忽然と消えていた。馬車止めまでの道は見晴らしがいいはずなのに!



「アベル、クリスティナ嬢がいないわ。見てきてよ」


アベルは動かない。

こいつ!


「アベル、怪しいやつがいるのわかってたわね。なぜ言わなかったの」


アベルは黙って私を見ている。

護衛として私のそばを離れないとの意思表示だ。

だけどこの間にクリスティナの命の危機が迫っている


「アベル、これは命令よ、クリスティナ嬢を確認してきて!それが嫌なら護衛を外すわ。主人のいうことを聞かないものに用はないわ」


強い口調で言い放つと、ため息をついたアベルが馬車から飛び出した。

私はそっと身を乗り出して様子をうかがうと、通りにはもうアベルの姿もない。


どうして…?


思わず馬車から飛び出そうとするところをハンナが私の腕をつかんで引き留めた。


「だめです、お嬢様!」

「ッ…」


わかっている、今の私が飛び出しても足手まといにしかならない。

アベルに護衛としての任務より命令を優先させた手前軽率な行動はできない。

それでも、フェリクスのあの言葉がどうしても気にかかる。


物語の中では出てこない彼女

『ここにはいない』といったフェリクス

目の前で消えたクリスティナ

宰相、

政治の中枢


胸騒ぎがぐるぐると回って冷たい汗が止まらない。

そのとき、アベルが消えたあたりから土埃が舞っているのが見えた。


何かある!


「ごめん、ハンナ」

私はハンナの手を振り切って馬車を飛び降り、土埃の立つ方へと駆け出した。


息を切らして、近くまで行くと横に入る細い路地がある

どうやらクリスティナはこの道に引きずり込まれたようだ。


迷わず路地に踏み込んだ瞬間、アベルの広い背中が見えた。

その手には剣が握られている。

奥には黒装束の男がクリスティナの口を押えて拘束していて、クリスティナは恐ろしさのあまりか涙目になってる。


それだけではない。

拘束している男以外にも同じく黒装束の男が数人、剣をアベルに向けている。

瞬間、アベルに向かって剣を向けていた男たちが一斉に斬りかかってきた。

その隙をついてクリスティナを拘束している男が彼女を引きづったままさらに奥に逃げようとしていた。


やばいと思った瞬間、アベルに斬りかかったはずの男たちが、次々と地面に倒れ込んだ。

何が起きたのか、一瞬わからなかったけど、アベルが瞬時に奴らに対応し剣を叩き込んでいたのだ。


…何この人、めちゃくちゃ強ない?


いや、強いとかいう次元じゃない。

今の、ほとんど見えなかったんだけど?


切り込んだ男たちを盾に逃げようとしていた奥の男がアベルの強さを目の前にしてひるんでいる。


いまだ、いけいけアベル

敵はあと一人


アベルの後ろでこぶしを握って殴るふりをしながら応援する。

声出して馬車から飛び出してきたこと知られたら厄介なのでジェスチャーで!


はっと我に返った男がクリスティナを盾にしながら、胸元からテニスボールほどの球体を取り出し無造作に放り投げ地面にぶつかった瞬間、


――――地を震わせる轟音とともに大きなトカゲのような魔獣が出現した。



「―――っ!!」


この世界に魔獣がいるのは知ってたけど初めて見たよ

思わず息をのむ。じぇら〇〇パークみたい。

だけど本物はもっと迫力が半端ない。


魔獣は固い岩石すら一瞬で噛み砕けそうな牙をむき出しにし、こちらへ向けて威嚇の咆哮を放った。

重低音が衝撃波となって地面を揺らし、立っていられないほどの圧力が襲う。

あまりの威嚇に思わず耳をふさぐ

魔獣のたった一声で私も、クリスティナを拘束している男も、耳を劈くような咆哮の衝撃波に身動きが取れない。


―――なのに、アベルだけは違った。


迫り来る衝撃波を、まるで実体でもあるかのように剣で薙ぎ払ったのだ。

衝撃が止み、地面の揺れが収まる。


魔獣は威嚇が通じないと悟ったのか、一直線にこちらへ突進してきた。

あの魔獣、今度は大きな牙で仕留めるつもりなんだろう。

あんなので食いちぎられたら一瞬でやられちゃう。

さすがのアベルだってあれを1人で相手にするには厳しいだろう。

どうしよう、私今魔力ほとんどないよ。


でも……戦うしかなさそう。


意を決意して魔術陣を展開しようとしたまさにその時、テノールボイスの詠唱が不意に響いた。


「術式廻魔 土魔・砂風檻(じゃふうらん)・石槍尖出(せきそうせんしゅつ)」


(……今の、誰の声?)


アベルの足元に橙の魔術陣が浮かび上がる。

同時に、私の前に砂が風に舞った障壁が展開される。

障壁の向こう見えたのは、魔物の足下から石槍が一気に突き上がる瞬間だ。


それは、とかげのあごから脳天まで一直線にささって、魔物の動きが止まった



(すごい…!これがアベルの魔術…? しかもいい声…)




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ようやくバトルキター!(正直長かった)アベルかっくいー
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