52.空の少女に
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町中にエルフィリアの花が咲く奇跡の祝祭を迎えることになったセレームは、それから聖エルフィーヌの祝日を迎えるまでの数日間、復活の喜びによって大いに賑わうこととなった。
思い返せば、たった数日の出来事だったのだ。
青年はその日数を指折り数えてみた。祝祭を迎えるための最初の祈りの日。その次の日。それからまた、次の日。――なんと三日しか経っていなかったことに、今さらながら驚いてしまった。
たった三日なのに、みんな大変な思いをした。残りの四日は大いに歌って、笑って過ごせばいいと思う。
人として暮らすようになってからこの町で出会った人々のことを思い、この数日を共に過ごした新しい友人たちのことを思い、青年はそっと微笑んだ。
「そういえば祝祭の日の夜、好きな人にエルフィリアの花を贈ったらその恋が必ず叶うって話。あなたは知ってた?」
「知ってたよ。知ってたけど、誰が言い出したんだろうね」
「叶えてくれるはずの本人がちっとも恋に興味なんてないものね。もしかしたら叶うかもしれないって、わたしはちょっとだけ信じてみたかったんだけど」
いつの間にか隣にいたブルネットの少女は、遠く過ぎ去った在りし日の姿で笑う。
けれど、きっとそれはただの幻だ。
呪いのように降り積もった雪が美しい光となって消えるとともに、彼女たちの魂もあたたかな場所へ還ることができただろうか。
千年に一度の奇跡は、悲劇の犠牲者となった彼女たちへの、せめてもの手向けとなっただろうか。
答えはない。青年はただ、彼女から手渡されたエルフィリアの花を見つめていた。
いつか誰かと幸せになってほしかった彼女の姿は、いつの間にか消えていた。
「……ごめんね、レジーナ」
この花は土地から溢れ出した力を養分にして咲く、とても古い種なのだという。
常に満たし続けることはできないその力を、七年かけてゆるやかに、満たしては少しずつ減らし、また満たすことを何百年も繰り返してきた。
この花が咲くのは、土地を守るための力が溢れるほどに満たされた証なのだ。
だからその年の実りは豊かになるし、人々は穏やかな春を謳歌することができる。
これだけの花が咲いたのだから、今年はもう安心だ。しかしその次は、そのまた次の年はどうだろう。
次の七年を迎える前には、また恐ろしい冬がやってくるかもしれない。
けれど仕方がない。
なぜならそれは長い冬と共に生きることを選んだこの町の人々が背負う宿命――あるいは、決して解けない呪いのようなものだから。
彼がこうしてここに帰ってきたことも、ある意味彼女の呪いであり、祝福なのだろう。
結局のところはいつまでも先のことが心配で、人々を放っておくことなんてできるはずもない。
それなら、引き続き見守り続けよう。
もはや彼女と交わした約束も関係なく、彼はこの町のことが好きなのだ。
この呪われた地に生きる人々にせめて希望を。祝福を。
そしてどうか一人でも多くの人が、この町で幸福に暮らすことができるように。
伝承はあくまで伝承であり、物語のすべてが真実であるとは限らない。
聖エルフィーヌ教会の尖塔のてっぺんに座り、彼は愛するセレームの町を見下ろした。そして、遠くのレターニア山を見上げた。
「今度の話もいつかきみにぜんぶ聞かせてあげるから……そっちで気長に待っててね、シエル」
かつてニヴオールの魔女と呼ばれた優しい少女の名を呼んで――いつしか彼女の姿を重ねて見ていた人形の少女にも思いを馳せて、青年はいつまでも空を見上げていた。




