46.魔法の扉
「ときにフィニアンさん。知らないとは言わせませんが、貴方に教えていただきたいことがあります」
「もちろん、知っていれば答えるよ。何?」
いきなり話を向けられたフィニアンの声音には、わずかに警戒の色がにじんでいた。そんな言い方をされたら思わず身構えてしまうのも無理はない。フィンドールは一拍の間を置いて、おもむろに言った。
「セーレム・サファイネの鉱脈について」
「それは」
と、聞かれた瞬間に見開かれた薄青色の目が怪訝そうに曇る。なぜそんなことを聞くのかと。
フィンドールは一口飲んだお茶のカップをソーサーの上に戻し、あの屋敷から持ち出してきた資料の中の一冊――おそらく彼が読み解いたのだろう、上等な赤絹張りの書物の上に手を置いた。
「あの魔術師が貴方たちの教会を訪ねた目的は祝祭の日までにシエルさんを取り戻すことでしたが、シエルさんがいないのであれば、代わりとなる他の物でもよかった。もし貴方があの場にいなければ、あのとき奪われていたのは聖堂の天使像だったはずです」
それを聞いて、フィニアンはさらに眉をひそめた。
見たところ、その本にはタイトルも何も記載がない。もしかしたら、それが伯爵の〝手記〟なのかもしれない。
どうやら今はおどけた道化師やふざけた奇術士ではなく、真面目な機術士としての言葉を語っているらしいフィンドールは、ピエロの仮面をフィニアンに向けて首を傾げた。
「天使像の瞳には、本物のセーレム・サファイネが嵌め込まれているのでしょう? あれはただの鉱石ではなく、この土地の力の結晶です。その鉱脈は既に尽きたはずですが、教会で大切に祭られていた天使像の瞳にならまだその〝力〟が残っているはずだと、伯爵は考えていたようですネ。――ああ。力というのは勿論、ヴェロニカさんの魔法を維持するために必要な力ということですヨ」
途中で補足したのは、シエルが話についていけていない顔をしているように見えたのか。あるいは、ハリトが質問でもしたのかもしれない。
シエルはその話を聞きながら、あの日神父様に見せてもらった天使像を思い出していたのだ。
可憐な天使様の眼窩に嵌め込まれた青い宝石は、内側から星の燐光を放ってきらきらと輝いていた。
まるで、シエルの両目のように。
あのきらきらした光が、その〝力〟だったのだろうか。
そしてもしかしたら……シエルのこの目の中にある星の光も、そうなのだろうか。
シエルが自分の目元に手をやるのが見えたのか、フィンドールは頷いた。
「錬金術師はその力のことを第五元素、即ちエーテルと呼んでいます。古い言い伝えによれば、それは遥か昔に空から落ちてきた星によってもたらされた生命の源。元から地上にあったのではない、天外の神秘の力とも」
「星の……」
シエルは呟いて、思わずハリトのほうを見た。
――遥か星より降り来り、その光宿せし娘、人に正しき知恵を与えん。
フィンドールの話は以前ハリトがシエルに教えてくれた〝星の娘〟の伝承に結びつき、夜空の星から降りてきて、その星の光を瞳に宿しているという白い娘の姿をシエルに連想させた。
ハリトはエメラルドグリーンの目でこちらを見たが、首を横に振った。シエルの言いたいことに気づいて微笑しつつも、今はその話をするときではない、ということのようだった。
「……その力の話をするなら、僕はまず第五元素石の正体が知りたい。あなたの血から作られてると言っていたけど、だったら、土地や星と同じ力を与えてくれるあれは何?」
と、フィニアンは確かめるように尋ねた。「! そ、そう」とシエルも弾かれたように追従してしまった。
けれど確か――それについては秘密だと言っていたはずだ。機術の国・クロアドゥールでは製造が禁じられている物質なのだと。
しかし先に〝原料〟を明かしたこともあってか、フィンドールは意外なほど明確な言葉でその問いに答えた。
「あれは元々、セーレム・サファイネのような稀少鉱石から発せられるエネルギーを人工的に生み出そうとする試みの過程で製造された物でしてネ。これらの結晶に濃縮されている第五元素は、極めて微量ながら生物の体内にも宿っているものです。かつては土地の力として地上に溢れていた第五元素が自然的に結晶化したものがセーレム・サファイネであれば、生物由来の原料を用いて人工的に錬成したものが第五元素石といったところです。どちらにせよ、使い切りのエネルギー物質であることには変わりありません」
その答えを聞いて、フィニアンはますます表情を曇らせた。
「それなら……伯爵もフィンドールさんみたいに、自分の血を使うことはできなかったのかな」
フィニアンがそう言ったのは、犠牲となった人々のことを思ってだろう。
もしもの話に意味などないとわかっていても、彼がそう言いたくなる気持ちは、シエルにもわかる。もしも誰も犠牲にしなくていい方法があったなら、その方法を取るべきに決まっている。けれど――伯爵だってそれが可能ならそうしていたはずだろうということは、フィニアンもわかっているようだ。
「無理ですヨ。といいますか、できたとしても必要量の供給を維持することが不可能です」
と、フィンドールはすげなく言った。
「まず第一に、彼女のエネルギー効率が悪すぎます。第五元素石のほうも、本来は専用の炉にくべることで真価を発揮するものです。アレだけで必要なエネルギーを賄うことの難しさはフィニアンさん、貴方もわかるでしょう? その点については、シエルさんが特別なだけですからネ」
「……そうなの?」
「フフ」
思わず反応したシエルに、フィンドールは仮面の奥で笑う。
「シエルさん。貴女はおそらく、神とも呼べる至高の技術者がその生涯をかけて造り上げた芸術品のごとき傑作です。対してヴェロニカさんは、神の技術の一端さえ知らぬ者が見様見真似で組み立てただけの粗悪極まりない失敗作。仮に貴女の一ヶ月分を全て与えたとしても、彼女は三日と保たないでしょう」
「三日……」
その宣告を受け、シエルは懐中時計を握りしめた。
思い返しても彼女と過ごした時間はそう長いわけではない。伯爵が彼女のために罪なき人を犠牲にして作った血の永久機関は、果たして彼女にどれほどの時間を与えていたのだろうか。
もしかしたら彼女が彼女でいられた時間は、シエルが思うよりずっと短い間だけだったのかもしれない。
フィンドールは赤絹張りの本を開いてパラパラとページをめくりながら、どこか同情的に続けた。
「貴女や彼女に組み込まれた魔術回路のエネルギーとなる第五元素は、そもそもニヴオールの魔女が生きていた旧時代の遺物です。それらが燃料資源として普遍的に存在していたのは千年以上も前のこと。ただでさえエネルギー効率が悪いのにその燃料を十分に確保することができないのですから、少しでも効率のよいものに〝交換〟してみるという発想自体は、まあ窮余の一策として理解できないこともありませんが……」
交換。
その言葉を使われてようやく、伯爵がシエルを探しに来た理由がわかった。
「……わたしの心臓をヴェロニカに、ってこと?」
「ええ。貴女が無事なのはヴェロニカさんがそのことを危惧してくれたおかげですヨ。さもなくば貴女は、この世に二つとない最精巧品の基幹部品を抜いて粗悪品の延命を試みるなどという、およそこの世で考えうる限り最も愚かな行為の犠牲になってしまうところでした」
その愚かさを嘆くように言って、フィンドールは溜息をつく。
きっとそれらのことは、伯爵の手記を読み解いて知った事実なのだろう。その知り得た内容について、彼は淡々と述べている。
「しかし仮に貴女を取り戻したとしても、規格が違うどころのお話ではありませんのでネ。たとえあの白い男がその〝神〟であったとしても交換は不可能であり、無意味だったでしょう。結局のところ彼女が彼女でいるためには、彼女に与えられた粗悪なコアが求める膨大なエネルギーを与え続けるしかなかったのです」
「そんなの……」
シエルはかつての主人があの伯爵に〝協力〟を持ち掛けたその真意を、まったく理解することができなかった。
彼女という意思ある生命にとって、それは一時の希望ですらなく、終わりなき絶望だ。
ガラス瓶の中に生まれた彼女は、あの男が伯爵に手を差し伸べなければ、まやかしの希望を与えられることがなければ、そのまま儚く死んでいたはずだ。生まれてしまったことそのものが悪夢だった彼女にとっては、むしろそのほうがよかったのだ。
伯爵だって、きっとそのほうがよかった。亡くなった人を蘇らせるなんて、それは絶対に叶わない夢なのだから。目の前で再び彼女を失うことで、もしかしたら、彼もその悪夢から目を覚ますことができたかもしれないのに。
そうすれば――死んだヴェルレーヌと伯爵以外、誰も不幸になることはなかったのに。
あの男が差し伸べた手は、ただいたずらに、無数の不幸と犠牲を増やしただけだ。
一体何のために、そんなことをしたというのか。
「ですのでフィニアンさん。ほぼ無尽蔵のエネルギーを与えてくれる永久機関の持ち主である貴方が目の前に現れてくれたことは、伯爵にとってはまさしく天使の奇跡だったというわけですネ」
チクリと刺すような言い方をして、フィンドールは本を閉じた。
シエルは隣にいるフィニアンの顔を見上げた。その視線に気づいたフィニアンは少しだけこちらを見て微笑んだが、薄青色の瞳には長い睫毛の影が落ちる。自分の過ちを悔いているのか、それともこれからのことを考えているのか、その目は迷うように揺れている。
そんな彼を見つめていたシエルの頭を、不意に疑問がよぎった。
「ねえフィニアン」
「何?」
「……どうして、ずっと……その」
しかし、どう口に出せばいいのかわからなかった。
なぜ消えないのか、と
もう大丈夫だと彼は言っていた。けれど、なぜ大丈夫なのだろう。
フィニアンのほうはシエルが何を言いたいのかわかったようで、少し言葉を選ぶように目線を逸らした。しかし彼が答える前に、フィンドールがあっさりとその答えを明かした。
「そんなの、私がヴェロニカさんの胸を割いて魔女の永久機関を取り戻してきたからに決まっているではありませんか。ひとまず土地の心臓は本来の管理者の元に戻りましたので、これ以上天候が悪化することはないでしょう。その上で確認したいのですが――」
「ま、待って」
そのまま話が進んでしまいそうになったので、シエルはガタッと椅子を鳴らした。
「ヴェロニカは? どうなったの?」
永久機関を取り戻してフィニアンに返す。確かにそれが当初の目的だったことは間違いない。
けれど、その前に彼女の願いを叶えてあげるという約束をしたはずだった。フィンドールが自分からそう言い出して、本当なら今日、改めて彼女の願いを聞きに行くという約束だったはずだ。
なのに――と動揺するシエルを宥めるように、フィニアンがそっと話しかけてきた。
「ヴェロニカが、自分の願いを叶えるために望んだことなんだって。……フィンドールさんが彼女を騙したり、僕たちに嘘をついているわけじゃないと思うよ」
「でも……」
「シエル。誰もやりたくない役を引き受けてくれた人を、その役を押しつけた僕らが責めちゃだめだよ。きみもあのとき一緒にいたんだから、わかるよね?」
決して厳しい口調ではない。言っても聞かない子供に、それでも優しく言い聞かせるような口調で言いながら、フィニアンは薄青色の瞳にシエルを映す。そんなふうに言われてはそれ以上何も言えず、シエルはぎゅっと唇を引き結んだ。
その一幕をフィンドールは他人事のように眺めていたが――シエルと目が合った瞬間、本当は黙っているつもりだったのを彼の良心が咎めでもしたのか、明らかに嫌々、渋々といった口調で言った。
「何も無情に殺めて捨て置いてきたわけではありませんヨ。応急処置として、残りの第五元素石は全て彼女に差し上げました」
「! じゃ、じゃあ」
「ええ、心配せずとも彼女は無事です。……ですが時間はありません。だから寝ている暇も余計なお喋りをしている暇もない、と言ったでしょう?」
それこそ〝余計なお喋り〟だと言うように特大の溜息をつき、フィンドールは改めてフィニアンに向き直った。
さっき、言いかけていた言葉の続きだ。
フィニアンさん、改まった声音で呼びかけてから、フィンドールはこう問いかけた。
「――祝祭の日に、エルフィリアの花を咲かせることはできますか?」
笑っているはずのピエロの仮面は、不思議と真剣な表情でフィニアンを見つめていた。
つまりそれは、それだけ重要な質問だということだ。
今、町には雪が降っていて、それをどうにかしなければいけなくて、とても祝祭どころではないというのに。
フィニアンも咄嗟に言葉が出てこなかったようだが、フィンドールは構わず、端然と姿勢を正して続けた。
「それが彼女の願いなのです。私はたとえどのような障害があってもそれを叶えて差し上げなければいけません」
その言葉には今までにないほど強い意志がこめられていて、シエルは息を飲んだ。
この人は、ふざけていない。
本気で言っているのだ。
しかし、どんなに強い決意をもってしても全てのことを必ず成せるとは限らない。そんなことはおそらく百も承知しているフィンドールは、だからこそフィニアンに対して慎重かつ真摯な問いを投げかけていた。
「しかし彼女の劣悪なエネルギー効率や町の現状を鑑みれば、魔女の心臓に蓄えられていた力は彼女がほとんど消費し尽くしてしまったはず。私が貴方に確認したいのは、それを回復させる手段はあるのですか? ということです」
「…………」
「先に申し上げておきますが、私はその問題を解決する術を持っていません。第五元素石の原料と製造について明かしたのはそのことをご理解いただくためです。私には、町一つを救うほどの莫大なエネルギーを生産することなどできません」
フィンドールはそう言うと、テーブルの上に広げられた地図に視線を落とした。
大きな古い羊皮紙の上に描かれているのは、エヴァンゼール伯爵の領地であるセレームの町。その周りの農地や森、街道。それから――
「で、希望があるとすればセーレム・サファイネの鉱脈かと思いまして。完全に枯れ果てているのか、それともどこかに希望はあるのか。どうなのですか?」
町から遠く離れた北の端に、その位置する方位だけを書き記されたレターニア山を指さして、フィンドールは問いかける。
フィニアンはしばらくその地図を見つめたあと、沈黙を払うように頭を振って、返答を待つフィンドールに薄青色の目を向け微笑んだ。
「だいじょうぶ。あなたは約束通り心臓を取り戻してくれた。それだけで十分です」
その言葉は不思議な風韻を伴って、狭い室内に凛と響いた。
降り積もる雪を吹き払う風みたいに、冷たいのに暖かい、冬の終わりに春の訪れを予感させる声だった。
「彼女のためだけじゃなく、僕は誰に言われるまでもなくそうするべきで、初めからそうするつもりだったからね」
「……フム?」
「フィンドールさん。今からこの馬車の扉に少し細工をすることを許してくれる?」
どこか悪戯っぽい口調でそう言われ、今度はフィンドールが怪訝そうにした。
怪訝そうにしながらも、返事は即答だった。
「それがどうしても必要なことなら許可しましょう。原状回復可能かつ、防犯上の問題がないのなら」
「ありがとう。たぶん、その心配はいらないと思う」
シエルはフィニアンが涼やかにお礼を言って出入り扉のほうへ向かっていくのを、ぽかんとして見送った。
一体、何をするつもりなのだろう。
「誰にも内緒だよ」
フィニアンはこの場にいる三人全員に向けてそう言うと、白い指を伸ばして扉の把手をそっとつかんだ。
ガチャリと掛け金の外れる音がして、蝶番の軋む音がして、扉は外へと押し開かれる。
扉の隙間から外に広がるその光景を見た瞬間、シエルは目を瞠った。
「えっ…………?」
外は、真っ白だったのだ。
思わず立ち上がって、出入口に駆け寄ってしまった。そんなシエルのほうを見てフィニアンは微笑し、ためらいもなくガルガンチュアのステップを降りていく。
そこは時計塔広場ではない。
どこまでも、どこまでも白く深い雪に覆われている冬の世界。
石畳はなく、建物などなく、見渡す限り林立している真っ白な木々。あれはどうやら、あまりの寒さと風の冷たさで木が凍っているらしい。
辺りは雪が光を反射して輝いているかのように明るい。今まで見たことのない、すべてが凍てついたその景色の美しさにシエルが目を奪われていると、真っ白い雪景色の中で、真っ黒な後ろ姿のフィニアンがくるりと振り向いた。
「寒くはないからおいで、シエル。よかったらハリトとフィンドールさんも。案内するよ」
そう言って、思わず誰もが見惚れてしまいそうなほど美しい笑顔を見せてくれるフィニアンだが、シエルはもちろんハリトも、さすがのフィンドールも口が開くほど驚いている。
「フィニアンさん、これは……というか、ここは」
「レターニア山だよ」
「えっ……え?」
シエルはわけがわからず、ひたすら目を白黒させていた。
さっきまで、ガルガンチュアは時計塔広場の片隅に停まっていたはずだ。それがどうして、と戸惑いで頭がいっぱいになる。
フィニアンはそんなシエルの目の前にやってきて、雪の世界に誘い出そうとするように手を差し伸べてきた。
「七年に一度の祝祭の習わしは元々、七歳になった子供たちをレターニア山に向かわせるというものだったんだ。町から山のふもとまで、昔は七日間もかけて歩いてた。けど、まるで何かの罰みたいに、途中で倒れてしまう子供がいたから」
だから聖エルフィーヌ教会ができたときにこの方法を考えたのだと言いながら、フィニアンはシエルの手を引いた。
ステップの下の地面はやはり広場の硬い石畳ではなく、柔らかく積もった雪に足首まで埋まってしまう。ここは、本当に本物のレターニア山なのだ。
外に出てからガルガンチュアのほうを振り向いたシエルは、さらに驚く。そこにあったのはあの黒鉄の馬車ではなく、石造りの古い建物だった。
しかしそれは長年の風雪によってほとんど朽ち果て、元の形がわからないほど崩れてしまっている。かつてはちゃんと扉がついていたのだろうその建物の入口の向こうに、ガルガンチュアの中が見えている。
まさに、扉だけが別々の場所につながっているみたいだ。
驚くシエルに、フィニアンはその秘密を教えてくれた。
「祝祭の日だけ、聖堂の扉をこうやってここにつなげるんだよ。本当は僕をここから町に帰すために彼女が教えてくれた秘密の魔法だから、祝祭が終わったあとはみんなの記憶に残らないようにしてるんだけどね」
シエルはこれ以上ないほど目を見開いてフィニアンを見上げた。彼はこういう話をするときに時々見せる、あの悪戯っぽい表情でシエルに笑いかけた。
シエルはその顔を見て、聖エルフィーヌ教会の聖堂のてっぺんに連れて行ってもらったときのことを思い出す。
祝祭の日がきたら、みんなでレターニア山に行くのだと言っていた。そのときはみんなと一緒に、シエルも行くのだと。アルドもその話をしてくれて、あんな遠いところにどうやって行くのだろうかと、わたしは不思議でならなかった。
それはほんの数日前に交わした会話のはずなのに、何だかずいぶん懐かしく思える。
レターニア山への行き方については神父様も誰も話してくれなかったけれど――こんな、とっておきの秘密があったのだ。
「……フム。昨日の言葉を撤回しましょう。貴方、実はなかなかすごい精霊ではないですか。不覚にも驚いてしまいましたヨ」
フィンドールが真面目に感心しつつ呟きながら降りてきて、いつの間にか外に出ていたハリトは辺りの様子を注意深く窺っている。
「しかし、こんなことに余計な力を使ってしまってよいのですか?」
「だいじょうぶ。必要なことだから」
状況を考えれば当然ともいえるフィンドールの懸念に、フィニアンはそう答えた。
そして薄青色の瞳にどこか神秘的な光を宿し、それぞれ点を打つように三人の顔を見てから、こう言った。
「きみたちに、聖典の物語には書かれていない本当のことを教えてあげる」




