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星のアンブロシア  作者: 榑井タキ
第十一章 美しき花
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37.叶わない夢

 目の前に一面の草原が広がっている。

 やわらかな緑の中に、色とりどりの花が咲いている。

 うっすらと霞みがかった青空には白い雲がゆったりと流れている。

 風に撫でられ、草と花が心地よさそうにそよいでいる。

 広い、広い、どこまでも歩いていくことができそうな草原だった。

 遠くに見える美しい花畑に誰かが座りこんでいて、こちらに気づいたように振り向いた。

 笑っているのだろうか。まぶしくて、よく見えない。なら、もっと近づこう。

 花の香りに誘われるように足を踏み出したその途端、その幻影は草原の景色もろとも急速に遠ざかっていった。

 代わりに訪れたのは、闇だった。圧倒的な暗闇だ。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 それはまるで、底のない、どこまでも深い、果てがないような漆黒の泥沼だった。

 重くまとわりついてくる泥は鼻や口にまで入りこみ、呼吸することを許さない。沈んでゆく。引きずり込まれてゆく。どこまでも。どこまでも。


 ――ああ、私は夢を見ている。


 懐かしいあの日に帰る夢を。

 すべてを取り戻す夢を。

 愚かにも、繰り返し夢見ている。 

 約束を交わした君の顔さえ、もう思い出せないというのに。


「……………………」


 目を開けても身体は動かない。

 きっと、あの陽の光を見ることは二度と叶わないのだろう。

 外は雪が降っている。

 いつまでも永遠に降り続く。

 取り返しのつかない罪と過ちを、純白の世界がすべて覆い隠そうとするように。  


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