37.叶わない夢
目の前に一面の草原が広がっている。
やわらかな緑の中に、色とりどりの花が咲いている。
うっすらと霞みがかった青空には白い雲がゆったりと流れている。
風に撫でられ、草と花が心地よさそうにそよいでいる。
広い、広い、どこまでも歩いていくことができそうな草原だった。
遠くに見える美しい花畑に誰かが座りこんでいて、こちらに気づいたように振り向いた。
笑っているのだろうか。まぶしくて、よく見えない。なら、もっと近づこう。
花の香りに誘われるように足を踏み出したその途端、その幻影は草原の景色もろとも急速に遠ざかっていった。
代わりに訪れたのは、闇だった。圧倒的な暗闇だ。
何も見えない。
何も聞こえない。
それはまるで、底のない、どこまでも深い、果てがないような漆黒の泥沼だった。
重くまとわりついてくる泥は鼻や口にまで入りこみ、呼吸することを許さない。沈んでゆく。引きずり込まれてゆく。どこまでも。どこまでも。
――ああ、私は夢を見ている。
懐かしいあの日に帰る夢を。
すべてを取り戻す夢を。
愚かにも、繰り返し夢見ている。
約束を交わした君の顔さえ、もう思い出せないというのに。
「……………………」
目を開けても身体は動かない。
きっと、あの陽の光を見ることは二度と叶わないのだろう。
外は雪が降っている。
いつまでも永遠に降り続く。
取り返しのつかない罪と過ちを、純白の世界がすべて覆い隠そうとするように。




