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第十六話 強行突破

 リリアの家を離れてからも、レオは何度か後ろを振り返っていた。


 当然、閉ざされた扉がもう一度開くことはない。


 テルのほうを見ると手帳を開いて見ている。


 今日一日かけて集めた情報が、細かな文字でびっしりと書き込まれている。


「明日は、リリア・アステルについて調べてみよう」


 レオの顔が露骨に曇った。


「……また聞き込みかよ」


「そうなるね」


「今日一日やっただろ」


「今日はヴィクトルについて」


 テルは指を一本立てる。


「明日はリリアについて」


「俺には同じにしか見えねぇよ……」


 レオは深いため息をついた。


 聞いて。


 歩いて。


 また聞いて。


 また歩く。


 今日一日で、嫌というほど繰り返した。


「もう本人に聞いたじゃねぇか」


「追い返されたけどね」


「…………」


 何も言い返せなかった。


 テルは小さく笑う。


「だから今度は、リリアを知ってる人から話を聞く」


「ヴィクトルについて何か知ってるのは間違いなさそうだしね」


「……遠回りじゃねぇ?」


「近道して間違えるよりいいよ」


「記者って面倒くせぇな」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


「褒めてねぇ」


 二人はそのままエバーガーデンへと戻っていった。


 ◇


 翌日。


「リリア・アステル?」


 画材店の店主が腕を組んだ。


「ああ、知ってるよ。たまにうちにも来るからね」


 その言葉を聞くなり、テルが手帳を開く。


「どんな人ですか?」


「どんなって言われてもねぇ」


 店主は少し考える。


「大人しい子だよ。あんまり喋る方じゃないね」


「他には?」


「そうだなぁ……」


 レオは二人の横でぼんやりと天井を眺めていた。


 しばらくして店を出る。


 次の店。


「リリアちゃん?」


「大人しい子よ」


 テルの鉛筆が動く。


 さらに次。


「ヴィクトルの弟子だった子だろ?」


「昔は二人で歩いてるところをよく見たよ」


 テルの鉛筆が動く。


 また次。


「今も絵は描いてるみたいだねぇ」


「この前も画材を買っていったよ」


 テルの鉛筆が動く。


 レオは黙っていた。


「それ以外に何か知っていますか?」


「いやぁ、俺はそのくらいだな」


「ありがとうございます」


 テルが頭を下げる。


 二人は店を出た。


「じゃあ次は――」


「なあ」


 テルが振り返る。


「何?」


「今、何が分かった?」


「え?」


「いいから」


 テルは手帳を開いた。


「リリアはあまり人付き合いが得意じゃないみたいだね。それから今も画家として活動していて、定期的に画材を――」


「それ、昨日会った時点でだいたい分かってただろ!」


 通りにレオの声が響いた。


 テルが目を瞬かせる。


「そう?」


「そうだよ!」


 レオは頭をかきむしった。


「昨日からずっと、聞いて、歩いて、聞いて、歩いて!」


 指を折りながら数える。


「ヴィクトルはすげぇ画家でした!」


「弟子がいました!」


「その弟子は大人しいです!」


「で?」


 レオが両手を広げた。


「結局、なんで死んだ奴の名前が新聞に載ってんのか、全然分かってねぇじゃねぇか!」


「だから、それを調べてるんだよ」


 テルは冷静だった。


「今集めてる情報だって、あとで何かと繋がるかもしれない」


「ああ、もう!」


 レオは顔をしかめる。


「焦れってぇ!」


 テルが苦笑する。


「こういうのは時間がかかるんだって」


「本人がすぐそこにいるんだぞ!?」


 レオはリリアの家がある方角を指差した。


「あいつが何か知ってそうなのは、お前だって分かってんだろ?」


「分かってるよ」


「だったら――」


「昨日追い返されたの、もう忘れた?」


「…………」


 レオの口が止まった。


 テルは小さく笑った。


「無理に聞いたって、余計に警戒されるだけだよ」


「だから今は、外から情報を集める」


「それで話を聞いてもらえる方法を考えるんだ」


「…………」


「分かった?」


「……分かったよ」


 レオは不満そうに答えた。


「じゃあ行こう」


 テルは手帳を閉じる。


「次は近くの画材店を――」


 歩き出したテルの後ろで、レオはリリアの家がある方角をじっと見つめていた。


「…………」


 話してくれない。


 無理に聞けば、また追い返される。


 だったら。


(別に、聞かなきゃいいんじゃねぇか?)


 レオの頭に、一つの考えが浮かんだ。


 本人が話してくれないなら。


 何をしているのか、自分で確かめればいい。


「レオ?」


 少し先からテルが呼ぶ。


「何してるの?」


「……なんでもねぇ」


 レオは何食わぬ顔で歩き出した。


 その顔を見たテルが、わずかに眉をひそめる。


「変なこと考えてないよね?」


「考えてねぇよ」


「本当に?」


「しつけぇな。行くぞ」


 レオはテルを追い越して歩いていく。


 二人はリリアについて聞き込みを続けた。


 画材店を出て、次の店へ。


 テルは店主に話を聞き、手帳に書き込んでいく。


 レオは横について歩いていた。


「…………」


 妙に静かだった。


 テルが店主と話している間も、店の外へ視線を向けている。


「ありがとうございました」


 テルの声が聞こえた。


 レオは慌てて顔を戻す。


「行くよ」


「……おう」


 二人は店を出る。


 テルは歩きながら手帳を確認していた。


「次は少し離れてるな」


「どこ?」


「向こうの通りに、もう一軒画材を扱ってる店があるみたいなんだ」


「ふーん」


 レオは気のない返事をする。


 しばらく歩く。


 その途中。


 レオは足を止めた。


 道の先をテルが歩いていく。


 こちらを見ていない。


「…………」


 レオはそっと後ろを振り返った。


 リリアの家がある方向。


 もう一度テルを見る。


 まだ気付いていない。


(よし)


 レオは踵を返した。


 そのまま何食わぬ顔で反対方向へ歩き出す。


 テルの姿が見えなくなるのを確認する。


 その瞬間、走り出した。


 ◇


 しばらくして。


 レオは昨日訪れた家の前に立っていた。


「…………」


 リリア・アステルの家。


 昨日はテルと一緒に正面の扉を叩いた。


 そして、見事に追い返された。


 当然、今日も同じことをすれば結果は変わらない。


「正面は駄目だな」


 レオは家を見上げる。


 通りから見える窓にはカーテンがかかっている。


 近づき覗こうとしたところで、人の気配がした。


 レオは慌てて窓から離れる。


 通行人が横を通り過ぎていった。


「…………」


 レオは建物の横へ回った。


 細い路地。


 こちらにも窓がある。


 置かれていた木箱を窓の下に持ってきて踏み台にした。


「ここなら……」


 背伸びする。


 見えない。


 さらに伸びる。


「ぐっ……」


 指先を窓枠へかけようとする。


 あと少し。


 ガタッ


「うおっ」


 足元の木箱が傾く。


 レオは慌てて木箱から飛び降りる。


「あぶねぇ……」


 レオは木箱を元の位置へ戻した。


 そして改めて窓を見る。


「……無理だな」


「別に入る必要はねぇんだ」


 独り言のように呟く。


「ちょっと中が見えりゃいいだけで……」


 周囲を見回す。


 窓は駄目。


 レオが顔を上げた。


 屋根。


 しばらく見上げる。


「…………いけるか?」


 建物の横には細い配管が伸びている。


 その近くには木箱。


 さらに少し上には、手をかけられそうな出っ張りもある。


 レオは屋根までの道筋を目で追った。


 木箱。


 出っ張り。


 配管。


 屋根。


「いけるな」


 根拠はなかった。


 レオはもう一度、木箱を引き寄せる。


 その上に乗った。


「よっ……」


 壁の出っ張りへ手を伸ばす。


 届いた。


 身体を持ち上げる。


「ぐっ……!」


 足を配管へかける。


 ミシッ


「…………」


 レオの動きが止まる。


 配管を見る。


「大丈夫だよな?」


 当然、返事はない。


 もう一度体重をかける。


 ミシッ


「…………大丈夫だな」


 何の根拠もないが、そのまま登る。


 あと少しで屋根。


「よし……!」


 縁へ手をかける。


 身体を持ち上げようとした瞬間。


 ズルッ


「うおっ!?」


 足が滑った。


 両手だけで屋根の縁にぶら下がる。


「ちょ、待っ……!」


 足をばたつかせる。


 下を見る。


 思ったより高い。


「やばいやばいやばい!」


 必死に足場を探す。


 ようやく爪先が配管に触れた。


「よし!」


 勢いをつけて身体を持ち上げる。


 なんとか屋根の上へ転がり込んだ。


「はぁ……はぁ……」


 仰向けになる。


「死ぬかと思った……」


 しばらくそのまま息を整える。


 その時。


 家の中から物音がした。


 レオは屋根へ伏せた。


 しばらく待つ。


 何も起こらない。


 レオはゆっくり顔を上げた。


 外から見た時に、屋根の一部に小さな換気口のような隙間があることには気付いていた。


 そこまで這っていく。


「これ……入れるか?」


 手をかける。


 少し力を入れると、古い板が動いた。


 ギィ……


 人一人がなんとか通れそうな隙間ができる。


 中は真っ暗だった。


 レオは穴を覗き込む。


 埃っぽい空気が鼻をつく。


「入りたくねぇが戻るのも面倒だ」


 レオは頭から隙間へ入った。


 肩。


 身体。


 最後に足。


 なんとか屋根裏の中へ滑り込む。


 その拍子に埃が舞い上がった。


「ゴホっ……!」


 鼻がむずむずする。


「……っ、く……」


 レオは慌てて鼻を押さえた。


「……最悪だ」


 暗い。


 狭い。


 埃っぽい。


 おまけに暑い。


 四つん這いになり、ゆっくりと進む。


「こんなことなら聞き込みの方がマシだったか……?」


 一瞬だけそんな考えが浮かぶ。


 すぐに首を振った。


「いや、それはねぇ」


 その時だった。


 微かな音が聞こえた。


 レオの動きが止まる。


 サッ


 サッ


 一定の間隔で、何かを擦るような音。


 耳を澄ませる。


 また聞こえる。


 サッ


 サッ


 レオは音のする方へ顔を向けた。


 そして、ゆっくりと這っていく。


 その音が何なのか。


 少しして分かった。


 絵筆が、キャンバスを擦る音だった。


 進むにつれて、絵筆の音が少しずつ大きくなる。


 できるだけ物音を立てないよう、這っていく。


 しかし屋根裏は狭い。


 少し身体を動かすだけで、木材がきしむ音がする。


 ギシッ


 レオは動きを止めて、耳を澄ませる。


 絵筆の音も止まっていた。


 下から何も聞こえない。


「気づかれたか?」


 レオは息を殺した。


 しばらくして。


 サッ


 サッ


 再び絵筆の音が聞こえ始める。


「……ふぅ」


 レオは小さく息を吐いた。


 さらに進む。


 やがて屋根板の間から、細い光が差し込んでいる場所を見つけた。


「ここか……?」


 レオは腹ばいになる。


 片目を屋根板の隙間へ近づけた。


 部屋が見えた。


 昨日、扉の隙間から少しだけ見えたリリアの家の中。


 絵を描くために使っている部屋らしく、壁にはいくつものキャンバスが立てかけられ、棚には絵具や筆が並べられている。


 中央には大きな作業台。


 そして、その少し先に。


 リリアがいた。


 椅子に座り、キャンバスへ向かっている。


 昨日と同じ少女。


 だが。


(……なんか違ぇな)


 レオはそう思った。


 昨日会った時のリリアは、ずっとおどおどしていた。


 扉も少ししか開けず、テルが質問するたびに目を伏せていた。


 声も小さかった。


 ヴィクトルの名前を出した途端、さらに怯えたようになって、最後には二人を追い返した。


 だが今は。


 リリアの視線は、まっすぐキャンバスへ向いている。


 迷うことなく筆を動かす。


 絵具を取り。


 色を重ね。


 少し離れてキャンバスを見る。


 そして、また筆を動かす。


 人と話している時の落ち着かなさが嘘のようだった。


(絵描いてる時は、あんな感じなのか)


 レオはそのまま眺める。


 絵の良し悪しは分からない。


 今まで絵画なんてまともに見たことすらなかった。


 それでも、リリアが真剣に描いていることだけは分かる。


 昨日、自分たちを前にしていた時とはまるで別人だった。


 しばらく見ていたレオは、ふと眉をひそめた。


(……何描いてんだ?)


 肝心のキャンバスが見えない。


 リリアの身体と作業台が邪魔をして、こちらからでは見えなかった。


 レオは顔の位置を少し変える。


 見えない。


 反対側へ動く。


 やっぱり見えない。


(これじゃ来た意味ねぇじゃねぇか)


 レオは屋根板の隙間から一度顔を離した。


 少し先を見る。


 別の隙間からなら、キャンバスの正面が見えるかもしれない。


 レオはゆっくり身体を動かした。


 ギシッ。


「…………!」


 止まる。


 下を見る。


 リリアは気付いていない。


 レオは慎重に右手を前へ出した。


 体重を移す。


 次に左膝。


 ミシッ


 今度はさっきより嫌な音だった。


(大丈夫だよな……?)


 レオはもう一度、屋根板の隙間を覗く。


 リリアが顔を上げた。


 レオは反射的に顔を引っ込めた。


 心臓が大きく鳴る。


(バレたか?)


 下から椅子が軋む音。


 レオは息を止めた。


 何も聞こえない。


 数秒。


 さらに数秒。


 やがて。


 サッ


 サッ


 再び絵筆の音が聞こえてきた。


 レオはゆっくり息を吐く。


(あっぶねぇ……)


 今度こそ、やめた方がいい。


 これ以上動けば本当に気付かれるかもしれない。


 こんなところを見つかれば話を聞くどころの話じゃない。


 レオは元いた方向を見る。


「戻るか…」


 レオが動きだした。


 右手。


 左膝。


 ゆっくりと体重を移す。


 その時。


 ギシっ


 さすがにレオも動きを止めた。


 今までとは明らかに音が違う。


 恐る恐る、自分の下を見る。


「……これ」


 屋根板がわずかに沈んでいる。


「…………やばくね?」


 レオの顔が引きつった。


 レオは動かない。


 いや。


 動けない。


「大丈夫だ……」


 小さく呟く。


「ゆっくり戻れば――」


 ミシミシッ


 レオの額から汗が流れた。


 下では、まだ絵筆の音がしている。


 どうやらリリアは気付いていない。


(落ち着け)


 できるだけ屋根板へ体重をかけないように――


 バキッ。


「…………あ」


 レオの身体が沈んだ。


 次の瞬間。


 バキバキバキッ


「うわああああああっ!?」


 屋根板が一気に抜けた。


 身体が宙へ投げ出される。


 視界が回る。


 その真下。


 突然の音に驚いたリリアが顔を上げた。


「え――」


 目が合った。


 ほんの一瞬。


 リリアの目が大きく見開かれる。


「ちょっ、どけ――!」


 間に合わない。


「きゃっ――」


 ドンッ


「ぐえっ!」


 二人の身体がぶつかった。


 その勢いのままレオはリリアを巻き込み、横にあった作業台へ突っ込む。


 ガシャアアアン!


 絵具。


 筆。


 紙。


 パレット。


 積み重ねられていた画材がまとめて宙を舞った。


「いってぇ……」


 レオは床に倒れたまま呻いた。


 背中が痛い。


 というか全身が痛い。


「なんだよこれ……」


 顔を上げる。


 天井には大きな穴が開いていた。


 その周囲から細かな木屑がぱらぱらと落ちてくる。


 レオはしばらく穴を見上げた。


(やっちまった……)


 完全にやった。


 どう言い訳しても、これは駄目だ。


 勝手に屋根裏へ入ったうえに、天井まで壊した。


「…………あ」


 そこで思い出す。


 レオは慌てて横を見た。


「おい!」


 リリアが倒れていた。


 床に横たわったまま動かない。


「お、おい!」


 レオは痛む身体を起こして、リリアのそばへ寄った。


「大丈夫か!?」


 返事はない。


「死んだか?」


 肩へ手を伸ばす。


 軽く揺らす。


「…………」


 反応なし。


 レオの顔から血の気が引いた。


「まさか……」


 恐る恐る、リリアの口元へ手を近づける。


 息がある。


「……生きてる」


 レオはその場で大きく息を吐いた。


「びびらせんなよ……」


 どうやら気を失っているだけらしい。


 そう分かった途端、今度は別の問題が目に入った。


 部屋。


 さっきまで整然としていたはずの作業場が、見る影もなくなっていた。


 作業台は倒れ。


 画材は床中に散らばり。


 絵具がこぼれ。


 紙や布があちこちに飛び散っている。


 そして天井には大穴。


 レオは気絶しているリリアを見る。


 もう一度、部屋を見る。


「……これ」


(起きたら殺されるんじゃないか?)


「いや、待て」


 それどころではない。


 まずリリアをどうにかしなければ。


「水……いや、こういう時どうすりゃいいんだ?」


 レオは周囲を見回した。


 当然、答えてくれる人間はいない。


「テル……」


 そこでようやく思い出した。


「あいつ呼んでくりゃ――」


 立ち上がろうとした時。


 足元に何かが触れた。


「ん?」


 一枚の紙だった。


 作業台から落ちたらしい。


 拾い上げようとして、レオの手が止まる。


 そこには驚くほど精巧に写生された風景画が描かれていた。


 完成した作品ではない。


 何度も線を重ねた下描きのようなものだった。


 レオは、それを上手いと思うより先に、紙の端に書かれていた文字へ目を奪われた。


 ――ヴィクトル・ローゼン。


「…………は?」


 レオは絵を持ち上げた。


 もう一度見る。


 見間違いではない。


 はっきりと、その名前が書かれている。


「ヴィクトル……ローゼン?」


 昨日から何度も見てきた名前。


 住民台帳。


 新聞。


 そして今。


 この家にある絵。


「どういうことだ?」


 レオは周囲を見た。


 床には、まだ何枚もの紙が散らばっている。


 一枚。


 拾う。


 そこにも。


 ――ヴィクトル・ローゼン。


 もう一枚。


 同じ名前。


 さらに一枚。


 また同じ。


「これ……」


 レオは紙を見つめる。


 頭の中で、昨日からの出来事が繋がり始める。


 死んだはずの画家。


 最近のコンクールに載っていた名前。


 ヴィクトルについて尋ねた途端、明らかに態度を変えたリリア。


 そして。


 そのリリアの部屋にある、ヴィクトル・ローゼンの名前が書かれた絵。


「まさか……」


 その時だった。


 ドンドンドン


 突然、玄関の扉を叩く音が響いた。


 レオの肩が跳ねる。


「リリアさん!」


 聞き覚えのある声。


 レオは固まった。


「リリアさん、大丈夫ですか!?」


 テルだ。


「さっき、すごい音がしたんですけど!」


 レオはゆっくり周囲を見た。


 天井。


 大穴。


 倒れた作業台。


 床一面の画材。


 手にはヴィクトル・ローゼンの名前が書かれた絵。


 そして。


 足元には、気を失っているリリア。


 ドンドンドン


「リリアさん?」


 レオは玄関の方を見る。


 それから、気絶しているリリアを見る。


「…………やべぇ」

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