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六話

「お父様。そしてハーミット伯爵様。お母様とハーミット伯爵夫人に発言の許可をいただきたく思います」


 私は意を決して四人を見ました。お兄様とリオス様のお兄様には目線で許可を願います。二人は嫡子であってもこの場の決定権は有りませんから。四人と二人が同時に頷き、私はチラリとリオス様を見てから、私の意見を述べることにしました。


「お父様、ハーミット伯爵様。私たちの婚約は政略ということは承知しております。私たちの婚約が成立してから、二家の事業が上手く行っていることも。ですが、懸念しておりますようにロベルト殿下がミルケス公爵家との婚約を破棄。その影響は計り知れないということで、私たちもこうしてこの場を設けました。そのことも承知しておりますが、私は、出来ればこのままリオス様と婚約しておきたいのです。難しいことは理解していますが、感情として信頼出来る方が伴侶になって欲しい、と思っているのです。それを明言させてもらいたいのです」


 もちろん、婚約が危ぶまれていることは分かっていますけれど。リオス様のことを信頼している、と伝えておくことは間違ってないと思うのです。


「発言をお許しください。私もエルゼ嬢となら信頼出来る伴侶として添い遂げられると思っています。学園で互いに友人として関係を築いてきていました。だからこそ婚約もスムーズに受け入れられました。最初から婚約者として関係を築くのも政略なら有ります。私たちは友人だったからこそ、短期間で婚約者としての関係も良好でいられると思うのです」


 それでも、家の利を考えて私たちの婚約が無くなるかもしれませんが、伝えておくに越したことはないのです。


「二人の気持ちは理解した。恋だ愛だと若者は直ぐに口にする。今回のように。それを悪いとは思わんが、エルゼとリオス殿のように恋愛の情は置いといても、信頼し合える関係は大切だ。結局のところ、それ無くして人間関係は成立せんからな」


 私たちの意思を聞いて、お父様がそう仰ってくださいました。ハーミット伯爵もお母様たちもお兄様たちも頷いてくださっているところを見ると、お父様と同じ意見のようです。それでも、私たちが婚約解消する可能性が無い、とは誰も仰らない。


「ミルケス公爵家の出方によって、でしょうな。我が家とハジェス侯爵家との事業は、息子とエルゼ嬢との婚約が成立した後で、お互いの領民たちの働きによって軌道に乗りました。婚約が解消されても二家の事業は安定するでしょうが、息子とエルゼ嬢とが、互いを信頼している婚約者だと言うのであれば、親バカと言われようとも続行したいのが本音です」


 ハーミット伯爵様の言葉に、お父様も深く頷き、全く以って同じ気持ちです、と同意の言葉を口にしてくださいました。

 二家の当主も私たちも気持ちは同じ、ということが共有されましたが、同時にこれ以上の話し合いは難しいということにも気づきます。


 ミルケス公爵家、つまりバネッサ様の新たな婚約者がどなたになるのか、それで今後が決まるからです。もしもミルケス公爵家と同じ派閥から婚約者を、ということになりますと、可能性大なのは、お兄様です。お兄様は婚約者がおりますが、その婚約を解消し、お兄様が婿入りすることになってしまいます。


 お兄様の婚約者は当然、ハジェス侯爵夫人の未来が無くなってしまいます。となれば、我が家が良縁を用意しなくてはなりません。それはそうです。我が家の都合ですもの。若しくはミルケス公爵家の都合。そちらからの縁組も紹介される可能性はあるでしょうが、我が家も紹介する必要があります。


 同時に我が家の嫡子変更もします。もちろん、私です。リオス様が次男なのでそのまま我が家に婿入り、ということになりそうですが、そう上手くはいかないのです。なぜならリオス様のお兄様の婚約者様が、別派閥の伯爵家の方。爵位だけ見れば同じでも、プライドの高い方ですから、ご自身の夫の弟が伯爵である夫よりも高位の家に婿入りなんて、と気を悪くするのが目に見えます。


 侯爵家の私と婚約しても、リオス様と私は領地も無いし、我が家保有の男爵位をもらう予定でしたから、リオス様のお兄様の婚約者様はプライドを保てたわけですから。揉めることが分かります。

 更には、私が嫡子になれば、侯爵家へ婿入りですから、リオス様という婚約者が居ても気にせず、婿入りを目論む人たちも増えることでしょう。揉めます。面倒ごとがいくつも噴出します。


 私たちの婚約が解消になったら、サッと思いつくだけで既にこんなにあります。実際はもっと増えることでしょう。その問題ごとを解決することは大切ですが、婚約解消しなければ発生しない問題、とも言えます。


 さらにミルケス公爵家の婿入りを狙って、他派閥の婚約が解消になるとか、婚約していない次男・三男の方が名乗りを上げて、となれば、勢力図が塗り替えられて派閥というものも無くなる可能性が有ります。それはそれで良いことかもしれませんが、派閥が無くなっても人の気持ちや意識が簡単に変わるわけは無いので、当然そういった揉め事も増えることでしょう。


 そういった問題は目に浮かびますが、私たちの婚約をどうにか続行する話し合いは、暗礁に乗り上げてしまいました。


「一番良いのは、ベツレ侯爵家の三男殿との婚約が復縁出来れば、ですな。だが、おそらくそちらは新たな婚約が内定しているのでは、と私も妻も考えております」


 お父様が嘆息しつつ仰る。確かに。バネッサ様の婚約者候補としてベツレ侯爵家の三男様との婚約が内定していただけに、そちらとの婚約復縁がベストでしょう。第二としてロベルト殿下の異母兄にあたられるディオン殿下との婚約でしょうか。後はもう、他派閥でも自派閥でも、婚約者のいない家から婿入りしてもらうことになりましょう。最後の案は出来れば無しにしてもらえると良いとは思いますが、こればかりは何とも言えないですからね。


 最後の案でしたらもう、リオス様との婚約は無かったことになるでしょうね。色々問題が起こりやすい案ですから。


 王家とミルケス公爵家との話し合い、どうなっていますかしら。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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