五話
翌日、時間を決めていましたので、身支度を整えてハーミット伯爵一家を待ちます。時間通り、我がハジェス侯爵家を訪れてくださいました。我が家もお父様とお母様とお兄様と私でお出迎えですわ。重い話し合いになることは、我が家の執事も知っております。
「ようこそ、ハーミット伯」
お父様が挨拶され、全員がサロンのソファーにそれぞれ腰を落ち着けてから、そのまま話を切り出しました。
「ロベルト殿下がミルケス公爵令嬢に婚約破棄を突き付けた。直ぐにミルケス公爵は令嬢と殿下の婚約解消を了承された。おそらく今頃王家と公爵家でその話し合いをしていることだろう。元々ミルケス公爵家は、ベツレ侯爵家の三男との婚約が決まり掛けていた。ミルケス公爵家を筆頭にした我々の派閥は、中立派で旧態貴族派とも新興貴族派とも上手くやって来られた派閥。それゆえに、旧態派閥のベツレ侯爵家からミルケス公爵家へ婿入りすることも我々派閥間で反対することは無かった」
お父様の言葉にハーミット伯爵が深く頷きます。ベツレ侯爵家の三男様とバネッサ様との婚約は、嫡子様の身体が丈夫になられ、三男様が繰り上がることが無いと判明した時点で、婚約話を一気に進められ、国王陛下に報告し認可を待つ寸前でしたから。我が国では国王陛下の認可を得ませんと、婚約が締結しません。それなのに。王妃がしゃしゃり出て来たのですもの。本当に余計なことしかしませんわ、あの王妃。
「だが、王妃殿下の横槍、失礼。お話で王妃殿下が産んだロベルト殿下を、ミルケス公爵令嬢の婿にする、と婚約が結ばれた。ロベルト殿下はその婚約の重要性を理解せず、昨晩公の場にて婚約破棄を突き付けたわけだが」
お父様が溜め息を吐いて経緯を話し、お互いの認識を擦り合わせます。ハーミット伯も頷いて認識に間違い無し、です。貴族の婚約は本来こういうものです。こうして互いの家で認識を共有し合うのですわ。条件の擦り合わせ。条件の変更。婚姻する時期等、全て話し合い。
平民の方たちは結婚する当人同士で、条件も結婚の時期も話し合えるそうですが、貴族は出来ません。
例えば、高位貴族の婚姻と下位貴族の婚姻の日程が被らないように、という意味もあります。招待客が被らないとも言えませんし、式場となる教会のご事情もありますし。互いの領地の状況など、様々に。ですから時期も当主の話し合いですわ。
婚約が残念ながら解消になる場合も、話し合いですわ。あのように破棄を言い渡すなど、言われた方に問題があるように思えますが、実は言い出す方にも問題がありますの。何故なら、話し合いが出来ないって宣言しているようなものですもの。
これが、例えば男爵位と公爵位間の婚約だったとして、男爵位の方から、というのであれば、話し合いにて解決出来ないだろう、と推測出来ますから、公の場にて婚約破棄を言い出すのは未だ分かりますが。
それですら、公の場にて私的なことを言い出し、場を荒らしたことによる詫びが必要ですけど。
そうですね。例えば、男爵位の方が公爵位の方に婚約破棄を突き付けた場が、第三者の家での夜会だったとします。夜会を開催した家へ詫びるのは当然ですが、招待されていた客にも詫びます。場を騒がせたわけですから。但し、男爵家だけでなく、婚約破棄を突き付けられた公爵家も、詫びます。突き付けられた側なのに、と思いますけど。男爵位と公爵位の話し合いでは、公爵位の方が圧倒的に強いですからね。話し合いにならなかったから、公の場を騒がせた、と他家に知らしめているのと同じですから。
ただ、それを逆手に取って、公爵家に落ち度は無いのに、公の場で婚約破棄を突き付けることによって、公爵家を貶めるということも、有り得ます。難しいですわ。場合によっては、泥沼の争いに発展しますからね。ですから公の場での婚約破棄なんて、様々なリスクを負うことを考えれば、しません。
どれだけ爵位に開きがあっても、話し合いで解決、つまり婚約解消出来るようにするものです。余談ですが、我が国では、一方的なのを婚約破棄と言い、話し合いで解決するのを婚約解消と言います。他国ではどう言うのか知りませんけど。一括りに婚約解消なのかしら。
いえ、今はそういうことを考えている場合では有りませんわね。
あまりの出来事で現実逃避をしていましたが、そんな場合では有りません。婚約解消の危機ですもの。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




