四話
ロベルト殿下、いえ、こちらもロベルトで良いですよね。ロベルトとバネッサ様の婚約は、王妃の我儘で結ばれたものですが、本当ならばバネッサ様は婚約者を内定されておりました。確定出来なかったのは、お相手の方の家の事情です。
嫡子の方が病がちだったからです。バネッサ様とミルケス公爵が打診していたのは三男の方でしたが、次男の方がスペアから嫡子へと繰り上がる場合、その三男の方もスペアに繰り上がる可能性が。その辺りは各家の当主判断ですから、ミルケス公爵も口を出せません。それにかの家は、格上の公爵家との縁談に消極的だったそうです。家を守れるのなら、格上の家と縁組しなくても大丈夫と判断されていたとか。
ですので、確定出来ない状況。そこへ王妃が割り込んでロベルトを押し付けたのです。
ミルケス公爵もバネッサ様も仕方なく受け入れましたが、バネッサ様との婚約が内定していた家は嫡子の方は体調が落ち着かれ、繰り上がりの話は無くなりました。無くなったので改めて三男の方とバネッサ様の婚約を結ぼうとしていた矢先の横槍です。三男様の婿入り先が消えました。
その家は侯爵家。
ベツレ侯爵家です。
我がハジェス家よりも家格は上。
当主様の祖母様が王家から降嫁されていることから王家も一目置く侯爵家です。
王妃はそういったことすら気にかけないので、ベツレ侯爵家が王家と、いえ、王妃と距離を置きました。ベツレ侯爵家は、王妃が問題だと分かっていらっしゃいますからね。王家に思うところは内心はあるかもしれませんが表向きは、無いという態度を貫かれていらっしゃいます。
そのことは国王陛下も分かっていらっしゃるので、せめてもの詫びとばかりに、ベツレ侯爵家の三男様に良い縁談をいくつかご紹介したそうですの。そのうちのどこの家と縁談を結んでも、王家は祝福する、と。縁談を一つではなく紹介したことで、王家の面目を保つための紹介ではなく、ベツレ侯爵家が王家にとって大切な家であることの証明にしたわけです。一つですと面目や義理のような紹介と思われてしまい、ベツレ侯爵家を大切にしているアピールにはなりませんからね。
とはいえ、三男の方の縁談ですから婿入り先、だと思っておりましたが、三男の方は王城の武官を勤めておられますので、騎士爵をお持ちです。一代限りの貴族ということですね。ですので、婿入り先だけではなく嫁を娶るという形でも、国王陛下は紹介出来たそうです。
そのいくつかの縁談をベツレ侯爵家は、家同士の政略の旨みがあるか、互いの子どもたちの相性はどうかなど、何年もかけて吟味されていました。内定していたのかどうかまでは分かりませんが、縁談に慎重になるのは悪いことではありません。とは言え、ある程度のところで決めないと、ベツレ侯爵家に紹介されたものの選ばれなかった家のご令嬢が、行き遅れなどと揶揄されては可哀想ですからね。おそらく内定していたのではないでしょうか。発表のタイミングを見計らっていたのではないか、というのがお父様とお母様の推測です。そういう雰囲気は分かるそうですわ。
でも、その矢先にロベルトがバネッサ様に婚約破棄を突き付けたのです。
バネッサ様とミルケス公爵にとって、ロベルトとの婚約が無くなることは、嬉しい限りでしょう。私たち貴族もそこは嬉しいと思っています。あの王妃の子だからなのか、勉強嫌いでマナーも男爵家よりも出来ておらず、癇癪持ちの我儘三昧。王族は母国語以外に二つの言語を習得することになっておりますが、当然母国語以外不自由だらけ。王妃の出身国と我が国は同じ言語です。何か才能があれば良かったですが、王子という以外なんの取り柄もない方です。それでも努力をされて執務や公務に積極的に携わり、仕事の出来る方でしたら良かったのですが、それも無い。良いところの無い人なので、婚約が解消になることはミルケス公爵家だけでなく、貴族全体で良かったと思っております。ミルケス公爵家、他の公爵家よりも財力がある家ですし。
ただ、そうなると、政略が変わります。
ええ、貴族の婚姻は政略的なもので結ばれるのですもの。私たちの婚約を含む彼方此方の貴族家で、政略的な意味合いで結ばれた婚約が解けてしまう可能性があるのです。
ミルケス公爵家の婿入りを狙う家とか、派閥間での婚約だとか。派閥争いというほどのものはありませんが、派閥はあります。別の派閥同士での婚約も有りますが、同じ派閥同士での婚約が圧倒的に多いのが我が国ですわ。
我がハジェス侯爵家はミルケス公爵家の派閥に属していまして、最大派閥とも言われています。そしてハーミット伯爵家も同じ派閥。その中で我が家とハーミット伯爵家で政略が結ばれました。派閥が同じで、それとは別に政略的な意味合いがあった婚約です。
でも、バネッサ様の婚約が解消されたので、派閥内の勢力図が変わり、派閥同士の政略婚約にも影響が出てきます。
これがまた、公の場ではなく、ひっそりと王家と公爵家だけで話し合っていれば、話は違っていました。それでしたら、こう言ってはなんですが、ロベルトから第二王子であられるディオン殿下にバネッサ様のお相手が変更される可能性が高かったのです。なぜなら二家で話し合うだけで済みましたもの。
ですが、公の場で婚約破棄を突き付けたロベルトの所為で、バネッサ様の伴侶の座が空席となることが皆さまに分かってしまいました。
家によっては、今の相手よりもミルケス公爵家への婿入りの可能性があるのなら、そちらを取る、とばかりに婚約を解消するところも出てくる可能性があります。そうなれば、その余波は想像を絶します。
例えば。
とある侯爵家が伯爵家と縁組をしていたとします。侯爵家は令嬢で伯爵家の方が婿入り。でもミルケス公爵家の方が良い、と伯爵家が判断して侯爵家との縁談を解消してしまえば、侯爵家は別の家から婿入りしてくれる方を探す必要が出てきます。となったら、また別の伯爵家や子爵家が、侯爵家の婿入りを願って、現在結ばれている婚約を解消する……といった連鎖が起きる可能性があります。
また、その余波によっては嫁入りする予定だった令嬢が、跡取りに変更ということも有り得ます。中には、格上の家に嫡子だった男子を婿入りさせようと考える家もありますから。その辺りは当主の考え方ですから、他家が口を挟むことは出来ません。もちろん相当揉めるでしょうが。
何しろ嫡子に嫁入りする予定だった令嬢が後継変更で、自身が婿入りを探すことも有りますし、嫡子に嫁入り予定だった他家の令嬢が別の嫁入り先を急遽探さなくてはならない、ということも有り得ます。
もちろん、あくまでも予想の一つで、そんなことにはならないかもしれません。
でも、その可能性があるかもしれない、ということは考えねばならず、そうなれば私とリオス様の婚約も余波を受けます。私たちはどちらも嫡子では有りません。我が家は私の兄が後継で、ハーミット伯爵家もリオス様のお兄様が後継です。ですが、派閥間の婚約だけでなく、家同士の政略的旨みのある婚約の私たち。お父様が私に男爵位を下さるそうです。お兄様にも許可をもらっておりますわ。領地は持たないものの、私が男爵。リオス様は婿入りをしてくださる予定なのですわ。なのに、可能性として、私は男爵位を授かったまま、リオス様以外の方と婚姻する可能性が出て参りましたの。
それは私、嫌ですわ。
リオス様に恋をしているか、それは不明でも信じ合える方を伴侶に迎えたいですもの。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




