三話
抑々、ロベルト殿下とバネッサ様の婚約は成立しないものでした。
というか、王妃殿下が無理やり国王陛下の正妃の座に着くことさえ無ければ、ロベルト殿下も生まれなかったのですけれど。
国王陛下は元々側妃殿下と結婚していらっしゃいました。
ええ、ご結婚されておりました。
後に、王太子のワイネル殿下と呼ばれる第一子もお生まれになって王家安泰でしたのよ。お父様たちのお話からですが。王太子と王太子妃としてお二人共仲睦まじく、政にもお二人共に精力的に邁進されていたとか。
外交もその一つでした。隣国へお二人で向かわれたときのこと。甘やかされまくって我儘癇癪持ちで、縁談の一つも無い王女。その王女が当時王太子殿下であられた陛下に一目惚れ。それで、当時は隣国の方が国力が強かったせいで、隣国の国王が無理やり王女との結婚を持ちかけたのですわ。強引に。なんの旨味もなくですわよ。押し付けですわ、押し付け。当時の我が国の国王陛下であられた先王陛下はお断りしたのですわ。もちろん。
ですが。
王女を無理やり押し付けようとするような方ですからね。断れば侵略戦争を起こす、と宣戦布告ですわ。国力はあちらが上。そして、どうしようもない国王でしたが、隣国の国王は若い頃、我が国とは別の国と戦争になったときに先頭を切って戦ったとかで、武勇が聞こえていたそうで。
我が国の先王陛下は当時王太子であられた国王陛下に頭を下げて、王女を娶ることに同意なさったそうです。側妃の座に着くことになられた当時の王太子妃殿下は、国を戦火から守るため、と納得されたとか。
そうして、この婚姻は成立。
それでも国王陛下は、閨を三年放置したそうです。のらりくらりと正妃の座に着いた王妃殿下を避けていらしたらしいです。でも、王妃殿下が自分の父親に泣いて縋ったものですから、渋々と閨を共にしたそうです。その一晩で生まれたのがロベルト殿下。
もちろん、その間に、第二王子であられるディオン殿下と第三王子であられるビバリー殿下もお生まれになられました。この際に、先王陛下と国王陛下が話し合われて、生まれた順で王位継承権を与える、と国内外に発表したものですから、ロベルト殿下を妊娠してもまだ産月では無かった王妃殿下は、相当癇癪を発揮したらしいですわ。
さすがに国内外に発表されたことを隣国の国王が口出し出来ません。いくら娘が可愛くてもどうにもなりません。これで王妃殿下も懲りて大人しくしておけば良かったのですが。
懲りませんでした。
全く。
王妃殿下は、二代続けて隣国から妃を貰えば良い、と王太子であるワイネル殿下に婚約者を勝手に付けようとしましたの。我儘な方ですからね。ご自分の兄弟との関係もかなり希薄だったのでしょうね。まさか兄にも弟二人にも女の子が生まれていないなんて、思わなかったようですわ。そう。そういった情報すら入ってなかったのです。ご兄弟からなんの連絡も無かったのに、想像で女児が生まれている、と思い込んでいたようですわ。父である隣国の国王陛下から女児の王孫は居ないと知らされたそうです。
それで、この話は無くなったものの、どうにかして自分が産んだロベルト殿下を王太子にしたかったらしく。
父親である隣国の国王に邪魔者である三人の王子をなんとかして欲しい、と泣きついたとか。
さすがにそれは難しい、と隣国の国王も渋ったそうで。それはそうです。内政干渉に当たりますもの。それで諦めるかと思ったら、諦めませんでしたわ、王妃殿下。いえ、もう王妃でいいですわよね。
あの王妃、父親でも何とかしてくれないなら、自分で何とかしてやるって無駄にやる気になった結果。
第三王子のビバリー殿下を、隣国の公爵家へ婿入りさせる、と勝手に決めましたの。まだ生まれて間もない殿下ですわよ? 王族や貴族の婚姻は年の差というものはありますが、公爵家の跡取り令嬢様は既に七歳でした。まだ婚約者は居なかったですが、七歳差の婚約ですわ。十歳以上の歳の差婚もありますけれど、政略結婚なら政略の旨みが必要ですわよ。でも、殆どなにも無い婚約ですわ。
国王陛下は我が子を勝手に婿入りに出す、と決めた王妃を許せなくて。とはいえ、未だに隣国の国王は王妃の父親。無しにしようと国王陛下と先王陛下が交渉しようにも、隣国の国王は拒否。再び戦争を仄めかしたので、ビバリー殿下の婿入りが決まってしまいましたの。ビバリー殿下は五歳で彼方へ向かわれました。更には王妃が、ロベルト殿下の後ろ盾が欲しいから、バネッサ様との婚約も国王に認めさせました。
バネッサ様とミルケス公爵は、国を戦火にしないために、と受け入れたのです。この時ほど、我が国の国力が弱いことと、武力が弱いことを憂えたことは王家も貴族も無かったそうですわ。
それから国王陛下は、これ以上、王妃に色々と言われたくない、とワイネル王太子殿下の婚約者様を、隣国とは別の国からお迎えになられることにしました。あちらの国には、我が国の小麦・ワイン・乳加工品を優先的に輸出する、という見返りで。
王妃には気づかれないようにお話を調えて、ワイネル王太子殿下の婚約発表をされました。
王妃は知らぬ間に、とまた癇癪を起こされて。
第二王子であられるディオン殿下を狙ったのです。
暗殺とかそういう狙った、では無くて。さすがにそんなことをすれば、自分の立場が危なくなると思っていたみたいですが、いっそのことその方が良かったような気がしますわ。立場を危うくしてくれれば、どうにでもなりましたからね。そうすれば国が平和ですもの。
話を戻しますと、ディオン殿下には、我が国の男爵位の令嬢への婿入りを画策しましたの。国王陛下が認めることは無かったのですが、もちろんまた癇癪を起こしました。それでディオン殿下に婚約者を宛てがうと、婚約者に何をするか分からない、ということで、ディオン殿下の婚約は慎重になりました。
第三王子のビバリー殿下は、隣国の公爵家との関係が穏やかに築けていることが救いですわ。
これでもう国王陛下は愈々我慢がならない、と水面下で隣国の王太子殿下と同盟を組まれました。隣国の王太子殿下は、父親である国王に病を理由に退位を迫ったそうです。老いて尚しがみつこうとする国王に、我が国だけでなく、ワイネル王太子殿下と婚約した王女が居る彼の国とも対立する気か、と申し立てて、年には勝てなかった隣国の国王はようやく退位をしました。
それが先日発表されて、王妃も、父の助けがもう期待出来ないと知って、でも仲の悪い兄に図々しく頼ろうとしても、拒否されて大人しくなりました。
そこで、ようやく第二王子であられるディオン殿下の婚約者を探すための夜会が開かれる、というのが昨夜の夜会でした。
なのに、事もあろうにロベルト殿下が婚約破棄宣言をするものですから、本当に親子揃って厄介ですわ。
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