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13.戦力過剰の横道会議


 五度目の十五歳。

 回帰を四回繰り返して、とうとう来るべき日が近づいてきた。

 ミュステラー公爵家による夜会。リリネットお姉様のご成婚祝いを兼ねた、贅をこらした舞台。国中の貴族が祝いに駆けつける、素晴らしき日。

 それと、わたくしの人生において邪魔をくわだてる輩を一掃する記念すべき日。


「では僭越ながら、わたくし、シグエスネッタ・グラシュープより発言をいたします」


 公爵家の一角。物々しい護衛を外に置いて部屋に集まったのは七名。

 わたくしとノール。それからリリネットお姉様にカシュロお兄様。王家からはライヴァニル王太子殿下とガームンド王弟殿下。そして、セティさん。

 円卓にそれぞれ腰掛けているのを確認して、わたくしはノールが作成した書類を手に立ち上がった。


「ミュステラー公爵家とグラシュープ侯爵家、エルマイン伯爵家、ほか王派閥の家はこの数年で陰ながらに手を広げております」

「そうだね。陛下の意をうけて、私から依頼をしている」


 ゆったりとした口調で王太子殿下が同意した。


「現状でもゴスマンズ侯爵家の力は削ぎつつある。それを加味しても、なお相手取りたいというのなら。我ら若輩者がどう動くか見てやろうと先達は構えている」

「意地の悪い高みの見物さ。失敗しても尻は拭いてやるとのことだ」


 王弟殿下が、付け加える。それからリリネットお姉様へと表情を緩めて話を振った。


「だから貴女は安全なところにいても良いのだが」

「あたくしの可愛いシグがやりたいというのだもの。それなら手伝いたいわ」

「なるほど、そうしよう」


 格好つけても、リリネットお姉様全肯定で頷くだけではないですの。王弟殿下は当然とばかりリリネットお姉様の横に陣取っているのもずるい。

 わたくしのお隣はノールはともかくとして、カシュロお兄様。セティさんが緊張しすぎないようにと今後のことを踏まえ、ミュステラー公爵家姉弟で挟むのは仕方ないけれど……! やっぱりセティさんもちょっとずるいわ!

 ぐぬぬと声を出しそうになって、ノールからもらった書類に目を落とす。

 冷静になるのです。ここでばばーんと出来る子シグちゃんというお褒めをもらうのは、わたくしですわ!


「お父様方はすべてわたくしたちにお任せと仰せ。ですので、好きにいたします。よろしいのでしょう、殿下方」

「程度に寄るけど、まあ、いいのではないかな」


 王太子殿下はにこやかにうなずいて、わたくしと隣に座るノールを見ている。


「ここに、ゴスマンズ侯爵家がよく使う王都内、公爵領タウンハウス付近を記しました。もちろん会場内の地図も万全です」

「シグにうちの地図を渡したことないんだが」


 呆れた声を上げて、カシュロお兄様が円卓におかれた地図を指す。

 暑苦しくムキムキお育ちになった体を窮屈そうにして、地図の上で指を動かす。


「裏道まである。どこでこれを?」

「ノールがやりましたわ」

「兄さんの勉強の賜物です」


 わたくしが言えば、ノールは被せるように言い切った。


「重要拠点や建造物の構造把握は兄の得意とするところ。王太子殿下もご存じのはず。陰ながらの協力を家族としていただけのことです」

「なるほど。こうしてベルサークの功績が増えるわけだ。まあいい。彼が優秀なのはわかっている」


 王太子殿下が頬杖をついて言う。


「今もゴスマンズ侯爵令嬢と面倒ごとを対応してもらっているから、労いにいれておこう」

「兄も喜びます」

「君は、家族が好きだね。私も家族は好きだ。気が合うね」


 ノールに笑いかけた後、王太子殿下はわたくしへと視線を向けた。


「それで、グラシュープ侯爵令嬢。どう好きに動く?」

「これを使いますわ」


 わたくしは肌身離さず身に着けている懐中時計を掲げた。

 といっても、見えるのはノールとわたくしだけ。周囲には懐中時計を装飾する金の首飾りを触れているように見えているのでしょう。皆の視線がそこに動いている。


「リリネットお姉様に不遜にも探りをいれた愚か者がいたそうですわ。殿下でも用意できない、王家にさえない秘宝があるとは本当か、と」

「リリの思いが込められたならそうだろうな」

「まあ、姉上の用意した物であれば最上級であってしかるべきだ。大体あっているな」


 わたくしのお姉様愛に負けない男ども二人が同意する。王弟殿下はすかさずリリネットお姉様をうかがい、カシュロお兄様は納得したように一人でうなずいている。


「これをセティさんに預けます」


 一斉に視線がセティさんに向かった。

 セティさんはびくっと体を震わせることもなく、粛々と頭を下げた。ここ数年で見事な態度をとるようになったものです。


「見られるようになりましたね。マダムが褒めていたわ」

「光栄でございます」


 セティさんが楚々として言うと、お手本のように淑女の微笑みを浮かべた。素材を生かした自然な笑みは実によくできていますわね。


「マダムにお認めいただくまで、貴重な学びを続けたく存じます」

「ええ。妹弟子が増えるのは嬉しいわ。励みなさいね」


 リリネットお姉様のお言葉に、セティさんは嬉しそうにお礼を言った。その振る舞いたるや、わたくしよりも落ち着いて見えそう。いえ、わたくしも完ぺきな淑女ですけれど。そう見えただけです。

 なんとはなしに居住まいをただしていると、カシュロお兄様がこそこそとわたくしに声を掛けてきた。


「なあシグ。セティは我らがお婆様を尊敬してすごく勉強しているんだぜ」

「どうりで最近のお婆様が上機嫌でしたのね。いえ、待って。あのしごきを喜んだの? んまあ」

「根性あるよな」


 世には学ぶことが好きな者、鍛錬が好きな者がいるとは聞きます。セティさんはそういう御方なのでしょう。


「シグ。あたくしはよくってよ。貸してさしあげて」


 リリネットお姉様から許可がでた。


「はい! でも貸したとて、リリネットお姉様の愛はわたくしから消えませんわ!」

「ええ、ええ、その通りよ」


 満足そうに扇を広げてリリネットお姉様は続けた。


「だからこそ、あたくしはそのことに関して口にしないようにします。離間させたい者は勝手にさえずり近づくでしょうね」

「あー、なるほど。わざと孤立させるってことか。セティ、いいのか?」


 カシュロお兄様がセティさんに声を掛ける。セティさんは、わたくしを真っ直ぐ見て答えた。


「シグ様のご指示であるなら、一身を賭していたしましょう。シグ様から好意でお借りしたと、あちらこちらで見せびらかせばよいのですね」

「心無いことを言われるでしょう。それでもよろしくて?」

「この場に座ったときより、承知の上です。それに」


 わたくしの確認に、セティさんは紅茶色の瞳を嬉しそうに細めて言う。


「私、シグ様との幸運の硬貨を持っているのです。何があっても、運を味方にしてみせます」


 隣でノールが「わあ」と小さく声を上げた。何、とノールを見ればつまらなそうにわたくしにだけ聞こえる小ささで呟いた。


「シグが男だったら、絶対好感度マックススチル出てた」

「要は、わたくしがとっても好かれているということね。ノールも黙ってないで、発言なさい」


 叱咤すると、ノールは「あー」と声を軽く出して地図へと指を向けた。


「シグがそこからしたいことを、俺がまとめます。まずは」


 ノールの指がミュステラー公爵領のある箇所へと動く。

会場となる場から出た通路。使用人たちの控室を超えた一角。公爵家のお城へと続く吹き抜けの回廊がある場所だった。


「ここ。警備の穴です」

「本当だ。なんだよ、気づいたなら早く言えば直したのに」


 カシュロお兄様の言葉に、ノールは首を振る。


「見直さなくていいんです。あいつらが集まるのは大体ここと決ま……予想できるので」


 今ノールは過去の知識から話していますわね。適当に取り繕って話を続けている。


「武器が必要だったら、こことここを通ります。グラシュープ侯爵からウィットレ伯爵家に話を通しているので、付近に傭兵部隊を紛れこませます」

「初めて聞いたが」

「王弟殿下は当事者ですが、味方にも話さないほうが襤褸は出にくい。でも、シグがやりたいことのためには言っておいたほうがいいから話しました」


 王弟殿下は何か言いたげにして、飲みこんだように口元に手を当てて息を吐いた。それを気にせずノールは呟いた。


「手段を選ばないなら、消すのは多分簡単ですけど……不確定なことはしたくないので」

「うん。聞かなかったことにしておこう! さあ先はどうするのかな?」


 王太子殿下が明るく同意した。にこにこの笑顔で先を促した。なんですの、この方。

 ノールはわたくしと見合った後、軽く首をかしげて戻した。


「じゃあ、続けます」

「続けたまえ」

「甥の言葉は気にせずに続けてくれ」


 なんですの、この人たち。

 王弟殿下まで口を挟んできましたわよ。

 さすがのノールも、戸惑いがちにおずおずとうなずいている。それから二人してもう一度進められたので、ノールは話し出した。


「シグからアーヴスの気性は聞いているので、まあ、欲しがるでしょうね。首飾り」

「現時点でも執心なのはそうだろう。私がトヨマリスの事件で聞き取ったときも、遠まわしに探っていたとわかっている」

「王太子殿下であれば、アーヴスの素性をご存知では?」

「君、嫌なことを聞くねえ……そういうのは嫌いじゃない。いいだろう、ここだけの話をしようか」


 王太子殿下はそう言うと、声を潜めた。


「曾祖父が残した、不義の種繋がりだよ」

「あらまあ」


 リリネットお姉様が声を上げた。それからおかしそうに笑う。


「それにしては処断が甘いこと」

「仕方ないだろう。トヨマリスの事件後の調べで、血筋を辿ってやっと発覚したんだ。先々代の偽装に気づいた時には、陛下も頭を抱えていた」

「ああ、どうりで張り合うなあと思った」


 王太子殿下の言葉から何か思い出したみたいに、カシュロお兄様がぼやく。


「そうなら、王家の財や秘匿だとかは食いつくだろう。ゴスマンズ侯爵家も王家の血とやらを知って欲を持ったか」


 なるほどなあと確かになりましたが、それがなんというのです。わたくしにとっては大義が増えたほかにない。


「であれば、此度こそ! ばっきばきのぼっこぼこにして性根を折り畳んで差し上げればよいのですわ!」

「シグは大人しくしてて。絶対出ないで」


 ノールに止められてしまった。


「チコラ伯爵令嬢は、シグが出張らないように、うまくここへおびき寄せてほしい。体よくその首飾りに手をかけたなら」

「そうだね。その場には私も行こう。カシュロと共に君を探しに来て、不遜な発言をひとつでもすれば飛ばしてしまおう」


 軽く請け負った王太子殿下に、わたくしは意気揚々と問いかけた。


「頸ですわね」

「したらややこしくなるから。シグは、それまでに価値のある首飾りって喧伝するに努めて。君のお姉様たちやお友達はたくさんいるんだから。適材適所で動かないと」

「わたくしが鉄槌をくだしたかったのに……」


 しょんぼりしていると、セティさんが拳を握り締めて言った。


「私が代わりに一発入れます! 田舎育ちの一撃は重たいと思い知らせてみせますっ」

「ついでにあたくしも後程で一声添えてあげましょう。汚い手で触られるのを考えるだけで不快だもの」


 なんて頼もしい言葉かしら。

 わたくしが感動に震えていると、俺も俺もと王弟殿下とカシュロお兄様の手があがる。心が一体になった気さえします。

 そうでしょう、ノール。

 ノールを見れば、気の抜けた様子でそれを眺めていた。


「ノール? 何か文句があるのかしら」

「いや、これが正規ルートなのかなあって……いや、いいんだけどさ、なんだかなあ……ちょっと相手が可哀想な気も」

「心優しいわたくしもさすがにちょっとと思わなくはないですが、しでかし弁えない相手に割く優しさはなくってよ」


 わたくしは言い切って、ノールはううんと煮え切らない返事をした。




今の話を書いていたところ、超過剰戦力でごみ掃除している風な具合になったため、ざまあどころでないなと思いました。

なのでこのお話の主たるところは、超元気なお嬢様が自責の塊男を振り回すところでございます。そういうことです。


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