第八十二鈴 無音の世界
武術の国で魔法使いの残党達の討伐に向かう響達は門の近くにいたナンジの母親に聴力を奪われてしまった。
響とのなかは魔法使いの残党狩りを任され武術の国を出た矢先、ナンジの母親が響から聴覚を奪ったのであった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!!」
自分の声が喉で響いて音として耳に入ってくる。人間の全く持って正常な機能。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!!」
しかし流気術によって聴覚を失った響にはその音が全く聞こえてこない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!!」
響はこの矛盾にパニック状態になる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!!」
あともうすこし大きく出せれば、きっと聞こえてくる。そう信じて響は叫び続ける。
「おい!響!響落ち着け!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!!」
のなかは響の肩に手を置き落ち着かせようとするが響には声が届かず、叫ぶのを止められない。
「あ゛あ゛あ゛!!!あ゛あ゛あ゛!!!」
響は自分で放つ言葉が分からず、自分の言葉に自信が持てなくなっていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーー!!」
響は言葉を話す自信もなくなっていた。
「おい!何の叫びだ!?」
武術の国の門から兵が集まってくる。
「助けてください!!兵隊達よ!!この異世界人が私を襲ってきたのです!!」
「これはナミ様!!」
「おのれ!異世界人!ナミ様の命も奪おうと!!」
「まずい!響!いったんここから離れるぞ!」
のなかは響を背負ってその場を逃げる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!!」
「ちっ!母さんめめんどくせぇことしやがって!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!!」
響はのなかに背おられている間もずっと叫び続けるのであった。
◇
響は夢を見た。学校帰りの家の食卓。
響の大好きな『生き急ぎすぎP』さんの最新曲を投稿時にイヤホンで聴いていた。
「いいかい響。あまり多い音で聴いていると耳が聞こえなくなっちゃうから気をつけるんだよ」
「大丈夫だよ。お母さんの声、聞こえてるし問題ないよ」
夢の中で響は母との会話を思い出していた。
「聞こえないわけがない」
響は自身にそう言い聞かす。
「聞こえないことなんて想像できない。だって音はこんなにもハッキリと聞こえてくるんだもん」
響は音が聞こえない世界を想像できなかった…
◇
旅が始まってからずっと忙しく動き回って戦っての繰り返し響は久々にゆっくりと寝た。
「う…」
曇っていた空が晴れ、日差しがあたり目が覚める。響は昨晩、悲鳴をあげながら、疲れて気絶してしまったのであった。
『響。大丈夫か?』
のなかが響のスマホにメッセージを送りそのスマホを響に見せてくる。
「あ…」
そのメッセージを見た瞬間、響は察した。
(私…耳が聞こえなくなったんだ!)
風が肌に触れる。その風は周りの木々にも当たり優しく揺れる。しかしその音が全く聞こえない。
響は目の前で起きていることと音の矛盾に嘔吐をする。
(目の前に物体はあるのに…人も木も風も肌で感じるのに音が聞こえない)
「おい!響!大丈夫か?」
「おい、のなかさんよ。そのねぇちゃんもうダメなんじゃねぇの?」
「うるせぇナンジ!お前は響を元に戻す方法は何か知らないのか?」
「無理だってうちの母ちゃんの流気術は本物だ。もし直してもらうなら母ちゃんにもう一度頼み込むしかない」
「あんな奴にか?全く話を聞こうとしない奴らばかりだ」
「それだけ異世界人を恨んでるってことだよ」
「くっ…仕方ない。俺たちの出来ることは魔法使いの残党を一刻も早く倒すことだな」
「まぁ、めんどくせぇけどな」
「うう…」
響はゆっくりと顔を上げてスマホでのなかにメッセージを送る。
『のなかありがとう。耳が聞こえないのがまだ慣れないけど、前に進むしかないね』
『そうだな響、一緒に行けるか?』
『うん、一緒に行くよ。戦えるかわからないけど…行かない選択肢はないよ』
『わかった。でも無理はするな』
響とのなかはお互いに相槌を行った。
「何だ、ねぇちゃん一緒にくるのか?」
「そうだ。俺の仲間だからな」
「へっ音も聞こえないのによくやるもんだねぇ」
ナンジは響が耳が聞こえないことをいいことに見下すように話す。
「ナンジこの依頼が終わったらお前をぶん殴ってやるからな」
「ああ、喧嘩ならいくらでも受けて立つぜ?望むところだ」
のなかとナンジが歩く後ろで響は下を向きながらしょんぼりと歩いていた。
「おい、響…大丈夫か?ついて…」
響は静かに泣いていた。
「うぅう…」
自分の生きがいであった音楽が一切聞けないことに気がつきのあまりのショックで涙が溢れ出してきた。
「あ゛ーーーーー!!あ゛ーーー!!!!」
響は自分の大好きな『生き急ぎすぎP』の曲の画面を開いたまま泣きじゃくる。
響は今までどんな状況に置かれていても、どんな辛いことがあっても、どんな困難も響はずっと音楽と一緒に乗り越えてきた。
「あ゛ーーーー!!!」
響は泣きじゃくる。まるでおもちゃを取られた子供のように。
「響…」
のなかは初めて響のそんな姿を初めてみた。
響はずっと何語も淡々とこなしていく頼りになる異次元の強さを持つ少女であった。しかし今目の前にいるのはただのか弱い少女だった。
「おい、のなか何やってんだよ?」
のなかは静かに響に寄り添った。
「響の悲しみに寄り添ってんだよ。仲間だからな」
のなかは響の肩に静かに手を当てる。
「こんなんで魔法使いの残党達を倒せんのかね」
「うっせぇーナンジ。魔法使いの残党なら俺1人で十分だ」
響とのなかとナンジは魔法使いの残党が目撃されたエリアに向かうのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今書いている中でも一番のトラウマ回でした。耳が聞こえなくなるのは怖いことです。
現在、響達の戦力はのなかのみになります。今後の展開はどうなるのでしょうか?
次回もどうぞよろしくお願いします。




